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#コラム コロナウイルスと「看護師の出勤義務等の労働法上の諸問題」(難題)

★重要★
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、状況は非常に流動的です。最新の正確な情報は、必ず、厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」(リンク先)や各都道府県のウェブサイト等をご参照ください。

1 はじめに

兵庫県弁護士会では、2020年4月20日(月)から5月29日(金)までの間の月・水・金曜日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下「コロナ」「コロナウイルス」といいます。)に関連する生活問題・労働問題についての法律相談を実施しています(正式なアナウンスは、兵庫県弁護士会のウェブサイトに掲載されています。)。

スクリーンショット 2020-04-18 4.08.47

(上記:http://www.hyogoben.or.jp/ より)

そして、法律相談実施に先立ち、先日、私の所属する兵庫県弁護士会・災害復興等支援委員会では、委員会内での勉強会を実施しました

平時とは異なる社会情勢であり、一定のナレッジの共有は非常に重要です。勉強会内で取り扱われた内容は非常に多岐に及びますが、その中で、私が担当したパートについての想定Q&Aや法解釈を公開します。なお、状況は非常に流動的です。2020年4月18日時点での情報であることを十分にお含み置きいただいた上で、最新の正確な情報については、厚労省や法務省のウェブサイトなど信頼できる情報をご参照ください。

【執筆記事】
#コラム  コロナウイルスと「出入国に関する法律問題」
#コラム コロナウイルスと「看護師の出勤義務等の労働法上の諸問題」(難題)

2 公的資料等

■1 公的資料
①厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(2020/04/17版)
②厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」(2020/04/17版)
③厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(医療機関・検査機関の方向け)」(2020/04/16版)
* 7都府県への緊急事態宣言:4月7日(火曜日)
* 全国への緊急事態宣言:4月16日(木曜日)

■2 その他の資料
④日本労働弁護団「新型コロナウイルス感染症に関する労働問題Q&Aver1」(2020/03/26版。PDFが開きます)。
⑤アンダーソン・毛利・友常法律事務所「新型コロナウイルス感染症をめぐる法的問題
⑥法律事務所Zelo「新型コロナウイルスに関する企業法務の実務(人事労務編)」(2020/03/13版)

3 次項以下を読む前に必ずご覧ください

上記資料のうち、
①厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(2020/04/17版)
②厚労省「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」(2020/04/17版)
によって、労働法上の諸問題は相当程度網羅できていると考えています。

労働者(公務員、派遣社員、個人事業主・フリーランスの方を含む。)の方は、上記②④、特に上記④が参考になると思います。
使用者(会社)の方は、上記①⑤⑥等の資料が参考になると思います。
弁護士の方は、日弁連HP内の会員ページに「法律相談Q&A(2020年4月13日更新版)」があります。

上記の各文献をご覧になると、労働法上の諸問題の多くは、一定の回答が得られると思います。そこで、本稿では、いずれの文献にも記載がない、より踏み込んだ【想定Q&A】についての解釈論を記載することにします。

【想定Q&A】
想定Q&A1 看護師の出勤義務
想定Q&A2 休業手当支給の有無の具体例
想定Q&A3 団体交渉とコロナウイルス

いずれも、非常に悩ましい難題です。
しかし、法律論の土台を提供することは、賛成立場・反対立場からのご意見が出るなど、より法的な予測可能性を高めることができると考えますので、次項以降では私見を記載することにします。繰り返しますが、災害などの緊急時においては、厚労省や法務省のウェブサイトなど信頼できる情報を一次資料としてご参照ください。

4 想定Q&A1 看護師の出勤義務

【想定Q1】
私は医療機関に勤めている看護師です。コロナウイルスが流行していますが、出勤義務(労働義務)はありますか。

結論:
ケース・バイ・ケースです。

理由:
■1 参考とすべき判例(千代田丸事件)
これからみる判例は、海底線布設船「千代田丸」(=通信に必要な海底ケーブルを敷くための船舶)に従事する労働者が、軍事的に危険な地域への出航命令を拒否できるのかが争点になった事件の最高裁判決です。

【判例】最判昭和43年12月24日(電電公社千代田丸事件。裁判所HP
事案:
海底線布設船「千代田丸」(=通信に必要な海底ケーブルを敷くための船舶)は、昭和31年3月上旬、日韓間海底ケーブルの故障修理のために朝鮮海峡に出動を命じられました。しかし、当時、この海域は軍事的緊張下にあったため、通常予想される以上の危険が想定されました。乗組員は、このような危険な地域における労働条件について使用者と組合との間で話がまとまるまでは乗船できないとして、出航命令を拒否しました。このことを理由に、会社側は、労働者を解雇しました。本件判例は、この解雇の有効性が争われた事案です。

判旨:
現実に米海軍艦艇による護衛が付されたこと自体、この危険がたんなる想像上のものでないことを端的に物語るものといわなければならず、また、前述のように、従前、朝鮮海峡への出航につき、危険海面手当、壮行会費、超過勤務手当等の支給に関する団体交渉が妥結して後に、布設船の出航が行なわれたというのも、動乱終結後においてなお、この危険が具体的なものとして当事者間に意識されていたからにほかならない、というべきであり(労使双方において客観的危険性の解消を知りつつ、あえて不要の支出をしたものとするのは相当でない。)、右危険を評価するにあたつて、前記李ラインの一方的設定および撃沈声明等により醸成された、わが国と韓国との間の当時における異常な緊迫状態を度外視することは、許されないといわなければならない。
 本件千代田丸の出航についても、米海軍艦艇の護衛が付されることによる安全措置が講ぜられたにせよ、これが必ずしも十全といいえないことは、前記((一)4のロ)実弾射撃演習との遭遇の例によつても知られうるところであり、かような危険は、労使の双方がいかに万全の配慮をしたとしても、なお避け難い軍事上のものであつて、海底線布設船たる千代田丸乗組員のほんらい予想すべき海上作業に伴う危険の類いではなく、また、その危険の度合いが必ずしも大でないとしても、なお、労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難いところである。」

■2 千代田丸事件のポイント
この判例は、軍事的に危険な地域への出航命令を労働者が拒否できるかが問題となった事件です。

海底線布設船「千代田丸」(=海底ケーブル敷設船。電信通信に必要な海底ケーブルを敷くための船舶)は、朝鮮海峡にある海底線の修理のために出航することになりましたが、当時、この海域は強い軍事的緊張下にありました。

「海底線布設船」の労働者は、平時から、一定の海難事故の危険(リスク)を受け入れた上で労働しています(もちろん、使用者が、十分な安全配慮義務を尽くすことが前提です。)

しかし、このような軍事的緊張下の有事における危険は、通常予想される以上の危険であり、「海底線布設船たる千代田丸乗組員のほんらい予想すべき海上作業に伴う危険の類いではなく〜略〜労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難いところである」としました。

つまり、「ほんらい予想すべき」危険かどうか、言い換えると労働契約の締結時において労働者が受け入れていた危険(リスク)かどうかが、労働義務の有無を判断する基準になります。

■3 今回の事案ではどうか
(1)通常想定される危険とは何か
労働者は、労働契約の範囲内で、使用者の指揮命令に従って、誠実に労働する義務(労務を提供する義務、以下、単に「労働義務」といいます。)を負っています。しかし、労働契約の範囲内であることが必要であり、労働契約の範囲外であれば、労働義務は生じません。上記千代田丸事件がそのリーディングケースといえるものであり、この事案では、「労働契約の範囲外」とされました(なお、国鉄の労働者の労働義務について、不快感を伴う火山灰除去等の付随的業務に及ぶとした、最判平成5年6月11日「国鉄鹿児島自動車営業所事件」もご参照ください。ただし、当時の国鉄労働組合と企業の関係等にも留意して理解する必要がある判例です。)。

それでは、看護師など医療従事者の場合に「ほんらい予想すべき」として労働契約の範囲内になるのはどのような場合でしょうか。次の3つの事例で考えたいと思います。

A:季節性インフルエンザの日本国内での流行
B:新型コロナウイルスの日本国内での流行
C:エボラ出血熱に類似する高い致死率のウイルスの日本国内での流行

まず、Aの季節性インフルエンザの流行は、通常、医療従事者は想定しているリスクであると考えられます。この場合、通常、労働義務はあります。

反対に、Cのエボラ出血熱に類似する高い致死率のウイルスの流行は、通常、医療従事者は想定していないリスクであると考えられます(なお、エボラ出血熱じたいは、厚労省によると「エボラ出血熱は、咳やくしゃみを介してヒトからヒトに感染するインフルエンザ等の疾患とは異なり、簡単にヒトからヒトに伝播する病気ではありません」とされています。厚労省HPへのリンク。そのため上記③では「類似」と表記しています。)。この場合、通常、労働義務はないと考えられます。

それでは、今般のB:新型コロナウイルスについては、どうでしょうか。

(2)具体的な考慮要素と結論
新型コロナウイルスについての出勤義務(労働義務)について、私見では、限界事例(判断が極めて難しい事例)であると考えています。

たしかに、例えば、看護師国家試験の出題基準(PDFが開きます)では、主要な感染症と動向の項に「新型インフルエンザ」とあります。しかし、これは、既知の「新型インフルエンザ(2009年)」等についての公衆衛生及び保健活動の進め方について基本的な理解一般を問うためのものであり、国試に合格した看護師だからといって、今回の事態が、直ちに「ほんらい予想すべき」危険(リスク)であるとまではいえません。

「ほんらい予想すべき」危険(リスク)に含まれるのかは、
①病院の規模・種類
②病院内でのコロナ罹患者数
③地域でのコロナ罹患者数
④病院での医療従事者の数や勤務態勢
⑤安全確保のための設備(医療用マスク等)の有無(使用者の安全配慮義務の履行)
等の事情を慎重に総合考慮し、労働契約上の危険(リスク)として「あらかじめ想定」されていたかどうかを判断することになります。

以上より、結論としてはケース・バイ・ケースです(個人的な見通しはありますが、労働義務肯定・労働義務否定どちらの見通しであっても、一定の影響が生じうる可能性があるので差し控えます。)。

(3)個人的な考え
最後に、個人的にもっとも重要だと思うことを指摘しておきます。
それは、①緊急時医療の必要性・重大性と、②個々の医療従事者の生命身体の安全とは、比較不能な価値であるということです。どちらも、等分に重要です。そのため、法的に出勤義務があるかどうかよりもまずは、医療従事者の矜持や自ら又は家族の安全など個々の価値観(判断)が十分に尊重されるべきと、個人的には考えます。

私は、ただただ自宅に居ることしかできません。
このような過酷な状況下で献身的に業務をなされている医療従事者をはじめとした関係各所の皆様には、僭越ながら最大限の敬意と感謝を表します。

なお、下記のような意見書・措置は十分に尊重されるべきではないでしょうか。
・NHKニュース「看護職に危険手当の支給を 日本看護協会が要望書を提出
(2020年4月17日1時17分版)
・日本経済新聞「コロナ重症者の診療報酬倍増 医療機関に受け入れ促す
」(2020/4/17 18:00 (2020/4/18 3:25更新))

5 想定Q&A2 休業手当支給の有無の具体例

【想定Q2】
新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の⽅向け)の「問7 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合、労働基準法の休業手当の取扱はどうなるでしょうか。」のうち、要件②の具体例を教えてください。

結論:
ケース・バイ・ケースです。

理由:
■1 そもそも休業手当とは

【条文】労働基準法26条(休業⼿当)
使⽤者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使⽤者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃⾦の百分の六⼗以上の⼿当を⽀払わなければならない。」

【条文】改正⺠法536条(債務者の危険負担等)
「1  当事者双⽅の責めに帰することができない事由によって債務を履⾏することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履⾏を拒むことができる。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履⾏することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履⾏を拒むことができない。この場合において、債務者は、⾃⼰の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」

労働者の最低生活補償を図るために、労働基準法は、休業手当という条文を設けました(上記労働基準法26条)。

まず、誰の責(責任)で休業になったかについて、下記の3区分ができます。すなわち、①使用者の責に帰すべき事由、②不可抗力(大規模な地震や台風など)、③労働者の責に帰すべき事由です。

そして、労基法26条は、「使⽤者の責に帰すべき事由による休業の場合」は、使用者(会社側)は平均賃金の60%を支給する義務があるとしています。

26条

労基法26条では「使⽤者の責に帰すべき事由による休業」とされています。
この使⽤者の責に帰すべき事由とは、⺠法536条2項よりも広く解釈されています。
具体的には、使⽤者に故意・過失がなく、それを防⽌することが困難なものであっても、使⽤者側の領域によって⽣じた経営上の障害は広く含みます(なお、東日本大震災時の厚労省の見解[Q1-5]も同様でした。リンクただし、上記図②不可抗⼒や③労働者の責に帰すべき事由は含みません。そのため、今回の事態が、「不可抗力」に該当するかどうかが、労働者・使用者ともに、非常に重要な問題になります。

*1 立法当時の休業手当の条文案
立法当初の条文案では「労働者の責に帰することのできない事由」による休業の場合に労働者の最低生活補償を図るべきと議論がされました。
しかし、不可抗力の場合にまで使用者に休業手当支払義務を課すのは不適当とされ、現在の労基法26条となりました(水町勇一郎「詳解労働法」(東京大学出版会・2019年)・625頁以下)。そのために、労基法26条と民法536条2項とが重複するように読めるため、両条文の解釈問題が生じました(*2)。

*2 民法改正の影響
危険負担に関する民法536条は改正され、2020年4月1日から施行されています。しかし、労基法26条は、民法536条2項の改正の影響を受けないと考えていいでしょう(なお、筒井健夫ほか「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務・2018年)・227頁。部会資料83-2・49⾴も参照)。

■2 政府解釈(「不可抗力」該当性)

【政府資料】新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の⽅向け)
問7:
新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合、労働基準法の休業手当の取扱はどうなるでしょうか。
答7:
「労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありませんが、不可抗力による休業と言えるためには、
①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という要素をいずれも満たす必要があります。
①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。  
②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、例えば、
 ・自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
 ・労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
といった事情から判断されます。

■3 上記②の具体例
今回のQ&Aのポイントは「①②いずれも満たす」という点です。
それでは、②の「具体的努力を最大限尽くしていると言えるか」とは、具体的にはどのようなことをいうのでしょうか。政府が具体例として挙げている2事例から考えます。

【具体例1】
「自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか。」

例えば、WEB・アプリ・ゲーム等のシステム制作会社などのうち一部の企業では、インターネット回線とPCさえあれば、フルリモートワークが可能です。この場合、フルリモートワークを検討せずに休業する場合には、具体的努力を尽くしていないとして、要件②が不充足になり、使用者の責に帰すべき事由があるとして休業手当の支払義務が生じる可能性があります(専用の機材が必要なシステム制作会社、特にゲーム開発などでは別の結論になる可能性があります。)。

反対に、例えば、①個人情報を大量に取り扱う会社等では、個人情報を自宅からアクセスさせるわけにはいかない場合もあります。②また、現場の建設作業員などは、通常、自宅で作業をすることは困難です。このような場合には、自宅勤務が困難であり、要件②が充足し、「不可抗力」つまり休業手当の支払義務が生じない可能性があります。

【具体例2】
「労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか。」

たとえば、現場の建設作業員であっても、一部の方は自宅で資料作成等ができる方も居るでしょう。また、内勤への変更ができる企業もありえます。そのため、各企業の実情によりますが、他の職務に従事させることを検討しなけまま休業させるということになれば、要件②が不充足となり、不可抗力とならず、使用者は60%の休業手当を支払わなければならない事案も生じると考えられます。
また、①職務内容限定合意や②勤務地限定合意をしている労働者についても留意が必要です。たとえば、病院等の検査技師や放送局のアナウンサーなど一部の職種では、「職務内容限定合意」(=従事する労働は当該職務のみとの合意)をしている場合があります。また、全国規模の企業でも、関西地区での採用(現地採用)という「勤務地限定合意」がある場合があります。
しかし、これら①職務内容限定合意や②勤務地限定合意のいずれの場合であっても、労働者側の同意があれば、当然、配置転換は可能ですので、使用者側としては、一定の検討が必要です。

■4 雇用調整助成金について
厚労省のQAの問7の具体例は以上のとおりです。
なお、厚労省は、雇用調整助成金という制度を設けており(厚労省HPへ)、さらに、申請方法も簡易化されました(「雇用調整助成金ガイドブック(簡易版)令和2年4月15日現在版」(PDFが開きます))。

また、雇用調整助成金について、厚労省は、以下の一連のツイートをしていますので、あわせてご参照ください。


6 想定Q&A3 団体交渉とコロナウイルス

【想定Q3】
当社(使用者)は、タクシー会社を経営していますが、今般の情勢に鑑み、大量の整理解雇を予定しています。労働組合から、整理解雇について団体交渉の申入れがありました。コロナウイルスの流行を理由に団体交渉を拒否することはできますか。

結論:
ご相談の事例では、団体交渉に応じることが強く推奨されます。ただし、方法について、いわゆる「3密」を避けるため、①人数制限や、②Zoomなどウエブ会議システムを用いた方法を提案することは可能でしょう。

理由:
団体交渉においては、その日時のほか、①参加者数や②実施場所等について、「団体交渉申入書」等により事前に労使で協議することが通常です。

■1 参加人数
まず、①参加者数について、たとえば、平時では、使用者(会社)が、組合側の参加人数を3名と限定して要望したことに労働組合が同意しなかったことを理由に、使用者(会社)が団体交渉に応じなかったことが団交拒否・支配介入に該当するとした裁判例があります(東京高判平成3年6月19日「医療社団法人R会事件」)。しかし、これは平時の議論であり、緊急時である現時点では、参加人数を限定することにも一定の合理性があると考えられます。

■2 実施場所
次に、②実施場所について、双方向性が確保されている限りは、現在の社会情勢の下では、Zoomなどのウエブ会議システムを利用することを提案することも可能だと考えます。これにより、上記①参加者数の問題をクリアすることもできます。
なお、使用者が、実施場所を会社外と堅持し、時間・場所・人員のすべてが合意できなければ団交に応じないとの態度をとり団交拒否したことが不当労働行為にあたるとした裁判例として、東京高判昭和62年9月8日もご参照ください。このことから、使用者が、Zoomなどのウエブ会議システムにこだわることには一定の慎重さが求められます。

■3 まとめ
以上より、使用者(会社)としては、いわゆる「3密」を避けるため、①人数制限や、②Zoomなどウエブ会議システムを用いた方法を提案することは可能だと考えられます。使用者(会社)としては、これらの方法を提案することも検討できます。

なお、ご相談の「整理解雇」の事例とは異なり、①任意的団交事項や、②義務的団交事項であっても極めて軽微であり不要不急な内容であれば、拒否したとしても、「正当な理由」のある団体交渉拒否に該当する場合もありうると考えられます。

その他、厚労省では「3つの密を避けるための手引き!」が公表されていますので、ご参照ください(厚労省HPへのリンク)。

7 執筆者

兵庫県弁護士会災害復興等支援委員会
弁護士菱田昌義(STORIA法律事務所)
https://storialaw.jp/lawyer/3738
※ 執筆者個人の見解であり、所属事務所・所属大学等とは無関係です。
※ 法律相談は兵庫県弁護士会が、令和2年4月20日(月)から5月29日(金)のうち、月・水・金曜日の各午後1時から午後4時の間に実施する企画です。詳細は、兵庫県弁護士会のウエブサイトをご参照ください。

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