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人間の本当の力「想像力」それはAIにはない#自分ごと化対談(生命誌研究者 中村桂子氏)≪Chapter5≫


※本記事は、YouTubeで公開している自分ごと化対談【「命」か「経済」か?コロナ禍で顕在化した社会問題を『生き物としての人間』の観点で議論する】(https://youtu.be/5cEd33Vbp0I)について、Chapterごとに書き起こし(一部編集)したものです。

「想像」が「創造」の元

<加藤>
AI とかITについて伺いたいんですけれど、さっき「意味」ということを仰いました。AIは何をしても、そこに「意味はない」と言います。では、その「意味」というのは何なのかなと…、厳密には中々考えられないですけれども…。

私は「意味」というのは全て「生きる」ことと関連してて、例えば風の音がする、同じような風の音でも、なんかちょっと違うなとか、生きる上で危険なのか、安全なのか、心地良いのかという、生きてることとの関わりで、出てくるのではないか。手触りにしても、見えることにしても、体調が悪いとかですね。

AIを使っていろんなものが出てきても、彼らは意味がわかって作ってるわけではないですよね。データを繋ぎ合わせて、コピペでやっているだけですから。その辺が、説明が難しいのか、あまり誰も考えてないのか…。 AI は何でもできるとか、逆にAIがなんでも出来たら怖いとか、妙にどちらかみたいに言いますよね。AIが出来ないようなことや、AIを超えて使えるように、自分の身体をちゃんと作っておけば、それが基本なんでしょうけれども、その辺の話が、あんまり整理されていない感じするんです。

<中村>
私がAIの説明で一番好きなのは、新井紀子さんっていう東ロボをお作りになった方が仰ってて、AIというのは「論理と統計と確率」、これだけで動いてる。確かにそうです。人間という生きものは「論理と統計と確率」でやられたら、たまらないという存在ではありませんか。だから「論理と統計と確率」で、動ける限りのデータを処理して何かを行えることに関しては、AIにどんどんお任せした方がいいけれど、私たちはそれの外側、それこそ情緒などで生きる。さっき仰った、風を感じるとか、「意味」ってそういうところにあると思うんです。人間が作っているのは、そういうものの方が、むしろ大きいと思うんです。逆に今のツルツル社会は、それをどんどん劣化させつつある。

教育でも、「論理と統計と確率」で進めています。記憶をしてデータを扱えたら、よい。株を動かす社会では、畑の蕪が育つには、時間がかかるからダメです、そんなことやってる暇ありません、という教育になってしまっている。

人間の本当の力は「想像力」にある、イマジネーションできるのが、人間に特徴的な能力だと思うわけです。イマジネーションはクリエイティビティにつながる。「想像」が「創造」の元だと思う。

日本語の場合、両方とも「そうぞう」なんですけど、イマジネーションがクリエイティビティの元です。今、イノベーションとか仰るけれども、「論理と統計と確率の世界でのデータ」を貯めて押し込んだって、クリエイティビティは出てこないと思う。むしろこれ以外の所の想像力をどんどん豊かにして、クリエイティビティが出てくる。そういう存在が人間なんだと思うんですね。

この間、面白い体験をしました。「ニュートン」という雑誌が数独の特集をやったんです。私、数独が大好きで、あれがあったら、どこにあってもやらないではいられないんです。数独の特集に、AIが作った世界一難しい数独というのが載っていたんです。それは、あっという間に解けた。

それは、私が能力があるのではなくて、誰でも解ける。AIが、これが一番難しいよって言って作った数独は、人間がやれば簡単に解ける。これは、象徴的だと思います。

それこそスーパーコンピューターで論理やら確率やらものすごい計算をやらないと解けない。その回数が、めちゃくちゃ多い数独として、AIが作ったんですって…。ところが私、5分ぐらいで解けた。そこに答えと解説が書いてあって、「これは誰でも解ける、人間だったらむしろ易しい数独です」とあったんです。

AIはそういうものなんだと思う。人間は人間で、数独の時に、どういう頭を回してるのか私は知りませんけれども、そういう人間の頭の動き方を大事にすればいいんだろうなと思いました。

<加藤>
それは、なんなんでしょうね。

<中村>
なんなんでしょうね。わかりません。

<加藤>
なんなのかということを、書いているわけではないのですか。

<中村>
書いてないんですよ。だけど、コンピューターでの計算がものすごい回数だということは書いてありました。データがあって、将棋でもそうですよね。だけど藤井君はそれを超えるわけですね。みんなが、「えっ」て思うようなことをやって、それで勝つわけで、そういうとこってあるんですよね。

<加藤>
「論理と統計と確率」というのは、ある意味ではどんどん狭くすることですよね。

<中村>
多分、面白くなくなるんだろうなと、面白いところを全部捨てるんじゃないかと…。だからAIに、それはお任せすると言えばいいわけで…。例えば、お役所の方が、そこをずっとやっていたら、それだけで日が暮れちゃうから、そこはAIにやらせて、そうじゃない「民の幸せはどうしたらいいか」ということをお考えになると、世の中良くなるんじゃないかなと思うんですけど。

自然界はわからないものだらけ

<加藤>
想像力というのは、やっぱり普段身体を動かして、いろんな経験をしないと、想像力そのものも育たない。

<中村>
そうですね。今一番大事なことは、「わからない」ことが「好きになる」ことだと思っています。
今ね、全部わからせようとするでしょ。だから、わかった人が偉いとされてますでしょ。でも生き物を見てますと、わからないことだらけなのです。

例えば、「多様性」と言いますけど、地球上に何種類生き物がいるかは誰も知らない。名前がついてるのは、たかだか180万ぐらいなんです。ところが現実にいるのは、おそらく何千万いる。だから名前さえついてない生き物たちが、世界中にいるわけです。でも私たちはだいたい種類を分けて、この仲間は昆虫の仲間とか、哺乳類の仲間とか、そういうことぐらいはわかってますからね、それで切っていくんですけど…。

一つは、住み処がどんどん広がっている。今まで、深海にあんなに生き物がいるって誰も思ってないでしょ。あんなに暗くて圧力が高いところに、生き物がいられると思わなかったけど、いますでしょ。

それから南極の氷の下に湖があって、そこにもバクテリアがいます。
それから地底にもいるんですよ、マグマの近くで生きてたりする。そういう新しい場所に、どんどん生き物が見つかってますし、大体、熱帯林というところが、まだ全然わかっていない。あの中に、いろんな生き物たちがいる。わからないことだらけなんですね。

そうすると、わかってることを覚えるよりは、分からないことを考える方が面白いじゃないですか。それが、そういうふうに、今はなってないんです。
わかってることを、たくさん覚えなさいって、わかったって言えることが良いことです、分からないって言うと、バツ付けられちゃう。
実は、わからないところに、面白いことが山ほどあるわけでしょ。

「想像力」って、わからないところ、見えないところにしか、想像力の働く場所ってないと思う。それを今、どんどん潰してしまってる。だから、ポヤーンとする時間を子供に与えれば、一見くだらないかもしれないけれど、いろんな世界をイメージするはずですよね、ポヤーンとしてたら…。でも、毎日毎日ドリルをやらせてたら、イメージする時間がありません。だから本当に、人間だけが持ってる一番大事な力を、今、このツルツル世界、効率の世界は、それを潰している。ポヤーンが一番大事。

<加藤>
東京の真ん中で、高層マンションに住んで、外で風が吹いてるって感覚もあんまりない人が、そういうところで、ポヤーンとだけしても何かこう、想像する要素が、入ってこないような気がしますよね。

<中村>
自然界はわからないことだらけだから、そこから、いっぱい新しい情報が入ってきますからね。それは、「イマジネーションの元」ですよね。だから、それは大事なんじゃないかなと思います。


過去の自分ごと化対談はこちら
・第一弾 JT生命誌研究館名誉館長・中村桂子氏
・第二弾 プロ登山家・竹内洋岳氏
・第三弾 小説家・平野啓一郎氏
 https://www.youtube.com/playlist?list=PL1kGdP-fDk3-GPkMkQsCiYupO4L9rS3fQ

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