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Good night ~ 5夜:朝日が沁みる~

これまでのGood night

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《昨晩のこと》

 ある晩。僕の影から手が飛び出してきた。その影は僕に害を及ぼすモノではなかった。話を聞いて今の状況を整理しようと考えていると、母が僕の部屋までやってきた。母から逃げるために影を手足にまとい僕は窓から飛びだした! 影の力は僕の想像を超えるものだった。影は僕に信じられない身体能力を与え、その力を楽しむように、僕は深夜の街を跳びまわっていた……

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「ハ~本当に最高だった!」

 僕は今、自分が住むマンションの屋上の縁に座っている。少し前まで4階から飛び降りることにビビっていたのに、今ではこの12階の屋上からでも飛び降りれる自信が芽生えていた。我ながらいい性格をしているなと思う。そして、一晩中町を跳び回り、今ようやく落ち着いてここから日の出でも見ようと考えているところだった。

「主様、誉めていただいてありがとうございます」

「けど、さすがに疲れちゃったなw」

「当たり前でございます。基本は主様の体であって、私の力は補助なのですから」

「コイツ、後出しが多いな……」と、思ったがあえて口には出さずに言葉を飲み込んだ。コイツのこの癖は注意しようと、静かに心に刻んだ……。

「てことは……筋肉痛とかにもなったりするのか?」

「まず間違いなくなられるでしょうね」

 はぁ~~。さっきまでさほどでもなかった疲れが、一気に倍増したように感じた。溜息と同時に頭を下げる。その瞬間、視界の端から光が差し込んできた。光に誘われ、頭を上げる。顔を出し始めた太陽が強い光を放っていた。

 ゆっくりと日が昇る……。

 その時、自分の頬を何かが流れ落ちた。そのことに気が付き、ハッ! と手で押さえようとした。

 涙だった。

 それが何なのか理解した途端、感情の堰が切れた。涙が次々に溢れ出てきた。手でぬぐってもまったく追いつかない。

「ハハ……なんだ、コレ?」

 自分のことなのに涙の正体が分からず戸惑っていると影が話し出した。

「無理もありません。主はこの1週間一睡もしておられないのですよ! 尋常ではないストレスでしょう。そして、先ほど自ら命を絶とうとなさいました。さっきまでは興奮で忘れていたのでしょう。しかし、体はその緊張を忘れていなかった……。涙が出て当然です」

「オマヘ……僕のことよく見てるんだな」

「勿論です。主様がいるから影である私は存在しているのです。主人のことは足元からいつでも見守っています」

 「ハハ……ありがとな!」少し照れ臭ささを感じながらも、心の底から出た感謝の言葉を影に伝えた。それに対して影は一言。ハッキリと力強く言葉を返した。

「もったいないお言葉です」

 そこからは会話はなく。ただ、静かに日が昇ってくるのを眺めていた。涙はまだ止まらなかった。

 頬を伝う涙が朝日にきらめく。

 朝日がこんなにも、目に染みるなんて知らなかった。


【続く】

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。