9:再度
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バタン!
少女が家の扉を閉めて振り返り歩き出す。
目的地は……少女の秘密の場所。そう、空からドラゴンが降ってきたあの場所だ!
手の震えや涙はもう止まっていた。それと同時に少女の心は決まっていた。
「もう一度あのドラゴンを見に行こう‼」と……。
怖くないのかと言えば嘘になる。しかし、もう一度行かないと、あのドラゴンに再度会わないと少女の頭に居座っているドラゴンのイメージが離れていかないと直感で感じたのだ……。
今でも忘れられない母の記憶の様にいつまでも……。
少女は森の中を進んで行く。今回は出来るだけ身軽な状態で臨む。足取りはしっかりとしていた。しかし、速度は落とし気味に慎重に秘密の場所へと向かう。
ドラゴンが移動している可能性も考慮しながら慎重に、しかし出来るだけ早く進んで行く。
緊張によって研ぎ澄まされた少女の感覚は森の変化を敏感に感じ取った!
「静かね……」
森の中がとても静かなのだ。動物や鳥の姿がまったくなく、鳴き声一つすら少女の耳には入ってこなかった。
「…………」
少女の心にある恐怖という名の影が強さを増していく。
それでも少女は足を止めなかった!
足には先ほどより強い力が宿っていた!少女の心は揺るがない‼
少女は一心不乱に歩を進めた。
秘密の場所が近くなっていた。周りの静けさが強さを増していくような感覚に襲われて行く。何度も訪れた自分だけのお気に入りの秘密の場所、何度も通った道、この森と山はもはや少女の庭と呼んでもよいはずだ。
しかし、その森と山がとても怖い……。
少女は森と山の広さ・深さを改めて思い知らされる……。
少女の心臓の鼓動が強さを増す。息を整えて深く呼吸をするが鼓動の強さは増すばかりだ……。息が上がっているわけではないのだ。
緊張が少女の鼓動を支配する。
ドクン‼ドクン‼
鼓動がうるさい。自分の体の中からこの音が漏れてしまうのではないのかと少女は心配になった。
遠くから気づかれない様に目視する。それだけ。少女はそう決めていた。
少女は目視可能な場所の一歩手前で足を止める。
深く、深く息を吸う。
あまのじゃくな心臓は鼓動をドン、ドン大きくする。
大きく息を吐く。
少女は最後の一歩を踏み出した。
一歩……。
二歩……。
三歩……。
予定に無いはずの二歩目、三歩目が続く。
少女は止まらずそのまま歩み続けた。そして、秘密の場所へと足を踏み入れて行く。ドラゴンが空から降ってきたその場所へ進んで行く。
少女の足がようやく止まる。
そこは少女とドラゴンが視線を交わしたその場所だった。
その場所で、少女は強い視線を飛ばしていた。
その場所に……。
その視線の先に……。
ドラゴンの視線(すがた)は無かった……!
読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。