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Good night ~ 4夜:兎の嫉妬~

これまでのGood night

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《昨晩のこと》

 ある晩。僕の影から手が飛び出してきた。その影は僕に害を及ぼすモノではなかった。話を聞いて状況を整理しようと考えていると、母が僕の部屋までやってきた。母から逃げるために影を手足にまとい僕は窓から飛びだした! 少し影の力に期待していたのだが、今僕は……重力に逆らうことができずにマンションの4階から落下している……

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 今、僕は……。重力により、地面に引き寄せられていた。

「嘘だろ~~~!」

 アニメや映画などで高いところから落ちるシーンを沢山見てきた。そして、僕はいつも同じ感想を抱いていた。「冷静すぎるだろ……」だ! 僕の考えは正しかった。まさか、現実に同じ状況に陥るとは思っていなかったが。やっぱり、リアルとフィクションでは話が違う。

 冷静な判断なんてできなかった。僕に出来たのは叫ぶことだけ……。気付くとすぐそこに地面が迫ってきていた。

「ダメだ‼‼ 死ぬ!?」

 その瞬間、僕は力一杯に目をギュッと閉じた。

 ……。

 …………。

 ………………。

「主様。大丈夫ですか?」

 しばしの沈黙の後、影の声が聞こえてきた。影の声に反応して閉じていた眼をゆっくりと開く。

「生きてる……? あれ? 傷ひとつない……!?」

 僕は地面に両手両足をついていた。ちょうど、犬や猫、四足歩行の動物たちのような体勢だった。

「4階から飛び降りて……無傷!?」

 体勢を変えるのを忘れながら、自分の腕と足に取り憑いた影に目をやる。それから、飛び出してきた自分の部屋の窓も確認した。確認するまでもなく、無事ですむ高さではない。

「主様、心配無用です。衝撃は私が全て吸収しております」

「先に言っとけよ‼」

 深夜の団地の道の真ん中。傍から見たら、四足歩行の体勢の男子が誰もいないのにツッコミを入れている状況。

 それが今の僕だった……。

 ウ、ウンッ! 恥ずかしさを紛らわすために軽く咳払いをした。取り敢えず手を地面から離して二足歩行の体勢にもどる。動物の体勢から人間の体勢に戻ることでようやく思考も戻ってきた。さっきの影の言葉を確認する。

「本当に衝撃を吸収したのか……? マンションの4階だぞ?」

「まったく問題ございません! 何ならその倍の8階からでも可能だと思われます。お試しになりますか?」

「いや、いい!」

 影の提案を秒殺で否定しながら、もう一度、自分の腕と足に目をやる。そのままの自然な流れでその場で小さくジャンプする。

「うぁ!?」

 そん瞬間、僕はまた驚きの声を上げてしまう。想像をはるかに超える跳躍をしたからだ。頭の中では10~20㌢もいかないような感覚でのジャンプが実際はマンションの周りを囲む塀と同じ高さ。つまり、2㍍近くの大ジャンプになっていた。
 
 トン……! と、小さな音を立てて地面に着地する。「本当に衝撃を吸収してる……。それより、なんだこの跳躍力!」確認の為に同じように2、3回ジャンプを繰り返した。

 へへ! 味わったことのない超感覚に自然と笑みがこぼれ落ちる。

「どうです、主様? 私めの力は?」

「これ……。最高だよ!」

 心の底から出た感想だった。窓から落下した時は本気で終わったと思ったけど、今自分が体感しているこの力はまさに自分が想像した通り……いや、それ以上の特殊能力。まさに、夢の力だった……。

「お気に召したようで何よりでございます!」

「本当にすごいよ! この力‼」

 その場でのジャンプを繰り返しながら影に返事を返す。すると、影から1つ提案する。

「主、助走をつけて思いっ切り跳んでみてはいかがですか? 今見えている2階建ての家の屋根を跳び回ることができると思います』

「マジで!?」

 「何だそれ! 漫画とかで見る能力者たちの移動方法じゃんか!? ヤバすぎる!」頭の中はもうお祭り騒ぎだった。

 トン……! 

 その場で続けていたジャンプをやめて、一度地面に静かに着地する。

「よ~し! やってやる‼」

 はやる気持ちを落ち着かせながら集中した……。冬の夜空に浮かぶ月の光が静かに僕を照らす。その時、光によって少し影の濃さが増したように感じられた。

 タッタッタッ‼

 その瞬間、僕は一気に走りだした。そして短い助走を終え、力一杯地面を蹴り上げて2階建ての民家の屋根めがけ跳躍した。

 タン‼ 

 少し大きめの音を立てて見事に家の屋根へ跳び乗った。

「ははは! 冗談だろ!?」

 その時、僕は笑わずにいられなかった。まさに大跳躍! 何と跳び上がって乗ろうと考えていた家の屋根を飛び越えて、1つ隣の家の屋根に着地したのだ! あまりの超能力に笑いが止まらなかった。そんな僕に影が確認をとる。

「まだ続けますか?」

「勿論!」

「愚問でしたね! では、行きましょう‼」

 タッタッタッ! タン‼

 そして僕は次の家の屋根めがけて跳んだ。

 その晩、僕は月に暮らす兎たちが嫉妬してしうほどの見事なジャンプを繰り返し町中を跳び回った。


【続く】

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。