Good night ~ 3夜:リンゴと重力~
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《昨晩のこと》
ある晩。僕の影から手が飛び出してきた。はじめは驚いて大声を出してしまったが、どうやらその影は僕に害を及ぼすモノではなかった。話を聞いて今の状況を整理しようと考えていると、寝ているはずの母が僕の部屋までやってきた。扉をノックし、今にも部屋の中へ入ってきそうなその状況で僕はいったいどうすればいいのか……
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コンコン‼‼
扉をノックする音が少し大きくなってきた。
「ねえ、明? 本当に大丈夫なの?」
母の声が遠くの方から聞こえる様な感覚に陥っていた。まるで水の中から音を聞いているようだった。思考が停止し、体がまったく動かない。布団にもぐり寝たふりをするという簡単な方法すら思いつかなかった。
「ねえ!? 起きてるんでしょ、明?」
母の声も少しずつ大きくなり始める。痺れを切らす寸前だった。
「主! 逃げましょう‼」
「え!?」
影が何を言ったのか、確認する前に影はすでに行動に移っていた。それは一瞬の出来事だった。影から四本の腕が伸びてきて僕の両手両足を掴む。その影が腕と足を覆うように薄く伸た。僕の腕は肘まで覆う様な手袋はめ、足はブーツを履いているような状態になった。
「何だコレ!?」
自分の腕と足に取り憑いた影を見て驚いていると体が勝手に動き出した。
「いきます!」
「待て! お前が体操ってるのか?」
「説明する暇はありません!」
会話をしている間も、僕の体は勝手に動き部屋の扉の反対側にある窓へと進んでいった。その時、ついに母が部屋に入るという最終確認の声が聞こえた。
「明! 入るわよ‼」
母の声と同時に窓のロックに手がかかり解除し、窓を勢いよく開いた。開いた窓に足がかかる……。
「おい! まさかここからいくのか!?」
影からの返事はなかった。答えは行動で帰ってきた!
「いきます‼」
「ちょっっまっ‼ ここ! マンションの4階だぞ!?」
僕の体は4階の窓から、空へと勢いよく飛び出した。
き~!と、小さな音を立てながら部屋の扉が開き母が部屋へ入る。
「明? 大丈夫……明?」
そのに息子の姿はなく。大きく開いた窓から、少し強めの風が吹き込むだけだった。
もし、不思議な力に目覚めたらいったいどんな力が手に入るだろう。皆、一度は考えることだろう。影から手が伸びて驚きが大半を占めていたが少し期待や喜びが混じっていたのはたしかだった。
影に操られるままに窓から飛び出した僕の中に期待が確かに存在した。不思議な力に目覚めたんだ! と……。その期待は一秒も保たなかった。窓から飛び出した僕の体はニュートンのリンゴよろしく、重力によって地面に引き寄せられていた。
「嘘だろ~~~!」
そして僕はマンションの4階の窓から落下したのだった‼︎
【続く】
読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。