見出し画像

Good night ~10夜:生徒会長~

これまでのGood night

ーーーーーーーーーーー

《昨晩のこと》

 全ては一つの曲から始まった……。曲の名は『Good night』。その曲を耳にしてから僕は一睡もできなくなってしまった。それと同時に不思議な力も手に入れた……。影が自我を持ち動き出したのだ。自分の体……そして影に起きている謎を解くために、僕は謎の曲『Good night』の噂の出所を調べることにした。そして僕は幼馴染である健吾から『Good night』についての新たな情報を得て……

ーーーーーーーーーーー

「寒い!」

 明がボソッと呟く。体育館のフローリングの床ってなんでこんなに冷えるんだ? 自分のクラスの列に並びながらこの異常な寒さについて考えていた。

 現在、体育館で終業式が行なわれているところだった。期末テスト、テストの返却も終わり。生徒たちは冬休みを待つばかりといった状態だった。

 先生たちは冬休みの過ごし方、注意すべきことについて壇上から生徒たちに話しているが誰もまともに話を聞いていないと言った状態で。気づかれない程度の声量で冬休みの予定などを話し合う生徒。退屈そうにあくびをしている生徒など……。生徒たちは早く終業式が終わることを考えているのだった。

 そんな中、明は心の中でカゲロウと会話をしていた。

(どうだ、カゲロウ? 誰か『Good night』について話している生徒はいるか?)

(それより、明様! 寒さは平気でございますか?)

(それは……いいから! どうなんだ?) 

(いえ、『Good night』について話している生徒はいないようですね……。)

(そうか……。)

 全校生徒が一か所に集まる機会などなかなかないのでこの機会にもしかしたらと少し期待をしていたのだが……。さすがに、こんな場所で都市伝説みたいな不思議な曲の話をする奴はいなかったようだった。

(そりゃそうだよな……)

(どうしました?)と聞き返してくるカゲロウに(いや、こっちの話だ)と軽く返事を返す。

 自分の考えが的外れだったことに軽くショックを受けているとカゲロウが僕に話しかけてきた。

(明様、先ほどの健吾様がおっしゃっていた話どう思われます?)

 それは終業式に入る前、教室での健吾との会話についての質問だった。つまり、『噂の噂話』についてだ。健吾が教えてくれた話の内容を一言でまとめるとこうなる。

 「『Good night』の歌声と生徒会長の声が似ている」というものだった。

(どう思うって言われても、生徒会長の声なんて覚えてないからな~?)

(そうですか……)

(取り敢えず確認してみるしかないだろ! 今から……)

 「え~では続いて生徒会長からの挨拶です。生徒会長お願いします。」終業式を進行する生徒会役員の一人がタイミングよく読み上げた。

 その言葉を受けて! 生徒会長がステージの裏から姿を現す。その瞬間、体育館中の空気が変わる。先ほどまで小声で話し合っていた生徒たちは話をやめ、あくびをしていた生徒は背筋を伸ばし皆、生徒会長に集中する。

 生徒会長は迷いなく歩を進めて、ステージ中央にある演壇に立つ。

(すごく……雰囲気のある方ですね)

 カゲロウでもそう感じるんだな……。と思いながら、明は演壇に立つ生徒会長へと視線を向けた。

 彼女の名は、黒亜 夜空(くろあ よぞら)。我が学園の名物生徒会長だ。まず、漂わせている雰囲気が並みの高校生のそれではない……。校長先生ですらまだ親しみやすいと感じてしまうほどの空気を身にまとっていた。人の上に立つ人間の素質なのだろう。場の空気を支配するのだ。

 長い黒髪に一度だけ軽く手を触れ、少し間を作った後で生徒会長が話し始める。

「皆さん、学期末の試験お疲れ様でした。結果はどうでしたか?」

 身に纏う雰囲気とは真逆とも言っていいほどの甘い声でスピーチを始める生徒会長。明はその声を一言一句聞き逃すまいと集中して聞き取る。

(どうです、明様! 生徒会長の声は歌声に似ていますか?)

(似ている……? ん~~分からないな……。人の声をそこまで細かく聞き分けしたことがないから……。似ていると言えば似ているし、似てないと言えば少し違うような……?)

 生徒会長の声を聞きながら心の中でカゲロウと話合う。しかし、なかなか自分の感覚だけでは噂の確証は取れなかった。軽く頭を抱え、改めて生徒会長へと視線を投げかける。

 その時、生徒会長と目が合った。

「なッ!?」

 驚きで少し声を漏らし一瞬で目を逸らす! 隣近所の生徒たちが僕のことを不思議そうに見る。

(どうしました、明様!)

 慌ててカゲロウが声をかけてくる。

(今、生徒会長と目があった……! 600人近く生徒がいるのに僕のことを見ていた!)

(落ち着いてください。明様、大丈夫です。)

 動揺が隠せない明を落ち着かせようとカゲロウ。 

(もう一度見てみる!)

カゲロウにそう宣言すると、明はもう一度生徒会長に視線を投げかけた。しかし、生徒会長は全くこちらを見ておらず真っ直ぐ前を向いて全校生徒にスピーチを行っているだけだった。

 「気のせいだったのか……?」と少し自分の自信を無くす明。そうこうしているうちに生徒会長がスピーチを終わらせる。

「では、あまり長くなりすぎると校長先生のようになってしまうのでここらへんで……。皆さん、よい冬休みをお過ごしください。」

 スピーチを終えるとまた無駄のない動きでステージの裏へとさがっていった。

 気のせいだったのか……? さっきの出来事が頭から離れず。その後の終業式は全く頭に入ってこなかった。

(大丈夫ですか、明様?)

 心配してカゲロウが何度も声をかけてきたがそれすらも頭に入ってこなかった。

 黙って考え込む、明……。

 何の確証もないのだが、明の勘は生徒会長に何かあると問いかけていた。

 そして、マジ物の第六感(カゲロウ)は、黙り込む明にたいして……。

(大丈夫ですか、明様? 明様? 大丈夫なのですか?)と問いかけつづけていた。


【続く】

読んでいただいてありがとうございます。面白い作品を作ってお返ししていきたいと考えています。それまで応援していただけると嬉しいです。