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〈やさしい日本語〉のプロジェクトをしています。

 はじめまして。丸島歩(まるしまあゆみ)と申します。

 北海道札幌市の、日本語教師養成課程のある大学で日本語教育関係の科目を担当している教員です。

 3年生対象のゼミでは、〈やさしい日本語〉を用いて北海道(主に小樽)の文学者を紹介する活動をしています。


 今年4月に札幌の大学に着任して、実際にゼミ生とコミュニケーションをとってみると、必ずしも日本語教師を目指す学生は多くないということを知りました。

 ゼミというものを担当するのが初めてだということもあり、何をしようかしばらく頭を悩ませていたのですが、それならば〈やさしい日本語〉に関する活動をしてはどうかと思い至りました。


 〈やさしい日本語〉とは、主に在住外国人向けの情報提供に用いられる、文法や語彙などをやさしく統制した、日本語のいちスタイルです。

 もともと、1995年の阪神淡路大震災で、多くの在住外国人が正しい情報を得られないために被災したことへの反省から開発されました。

 それから20年以上が経ち、日本に住む外国人が増えるにしたがって、自治体が生活情報の提供を行う際に使われたり、医療の現場でも注目されるようになりました。

 また、在住外国人だけではなく、聴覚などの障がいがあって日本語が母語ではなかったり、得意ではない日本人とのやり取りにも活用できると期待されています。

 近年は、日本語を少し学んでから日本に観光のために訪れる、外国人観光客をおもてなしする際にも利用されつつあります。


 〈やさしい日本語〉を使ってコミュニケーションをとるには、いくつかのコツがあります。

 その具体的なコツについてはほかの書籍などに譲ることにしますが、もともと日本語教師は〈やさしい日本語〉的な日本語を操るスキルを持っています。

 近年、そして今後の日本社会の変化を考えたときに、たとえ日本語教師ではなくとも〈やさしい日本語〉のスキルを身に着けた人が、世の中に少しでも増えなければならないと、私は考えています。


 そこで、ゼミで〈やさしい日本語〉を用いた活動を行うことに決めたのですが、問題は〈やさしい日本語〉で何をするかということです。

 災害情報、生活情報など、「生きるため」に必要な情報は、充分といえる状況からはまだ遠いとは言え、徐々に多言語化や〈やさしい日本語〉化が進められています。

 それぞれの地域や分野で心ある方が、〈やさしい日本語〉を学び、それが次第に広がってきているというのが現状であると感じています。

 しかしその一方で、「日本語が壊れてしまう」「外国の人をバカにしている」という、〈やさしい日本語〉に対する批判の声もあります。


 〈やさしい日本語〉をより多くの人に受け入れてもらうためには、〈やさしい日本語〉の世界が豊かでなければならないと感じています。

 「生きるため」の情報だけでは、その豊かさを作るのに限界があると思います。

 また、「生きるため」の情報を、理解できることばで手に入れた人たちにとって、次に必要になるものはより豊かなことばの世界なのではないでしょうか。


 たまたま友人が市立小樽美術館の学芸員をしていて、北海道に来た時に〈やさしい日本語〉の話をしたことから、美術館と併設されている市立小樽文学館の館長さんをご紹介頂いたのが、このプロジェクトが始まったきっかけです。

 私自身は日本文学についてはまったくの門外漢なので、比較文学と日本語教育を専門としている先生のご助言を頂きながら、また、ゼミ生とディスカッションを重ねながら、少しずつ活動を進めています。

 「〈やさしい日本語〉で豊かなことばの世界を作りたい」などと、とてもとても大それたことを言ってはいますが、このプロジェクトはまだまだ小さな一歩を踏み出したに過ぎません。


 これまでのプロジェクトの成果は、こちらのサイトで紹介しています。地図や小樽周辺の風景写真などとともに、文学者に関係のあるスポットを紹介しています。

 また、Twitterでも活動報告をしています。


 このnoteは、これから始める「北海道の文学者とその文学」についての、学生の活動を公開するために作成しました。

 今後は記事の多くを、ゼミ生自身が投稿していくことになるかと思います。

 なお、ブログをするというのも、このnoteで活動するというのも、学生の発案によるものです。


 学生が〈やさしい日本語〉で紡ぐ、豊かなことばの世界に触れて頂けたら嬉しいです。

 また、多くの方に〈やさしい日本語〉の可能性を感じて頂けたら、これほど幸せなことはありません。

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