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読書感想文⑤「二度はゆけぬ街の地図」西村賢太

よく聞く話で真面目な人ほど
自分を傷つけたり自殺したりすると言うが
確かにそうかもなと思う時がある
自分の事だけ考えて生きていれば周りに嫌われはするが
もしかして本人はそんなに死にたいなんて
思わないのかもなんて風に考えてしまう
まあそれにはある程度強靭なハートが必要だが・・

西村賢太の私小説を読む返すと
他人に迷惑かけまくりで
それなのに本人は逆ギレしていて
その自己中な最低具合が面白い
特にこの本の中で好きな話は
16歳の時に著者が四畳半の部屋に引っ越した際
大家の老夫婦が
「若いのに苦労してる人を見ると無性に応援したくなる性分でな・・」
などと言って色々銭湯の場所を教えてくれたり
使っていない布団をくれたり
「困ったことがあったらなんでも相談にきなさいね」
などと世話してくれるんだが
当の本人はこんだけ人の良い年寄りなら
多少家賃が遅れても文句言われないだろうと
最初の家賃さえも払わないまま家にいて
大家の部屋を監視して電気が消えたことにほっとし
そのあと近所の食堂に行って祝杯を挙げるために
定食にビール1本つけるという
最低なふるまいをしているのが面白く感じてしまう
しかし翌日になり著者がアルバイトから家に戻ると
それまでとは打って変わって
大家にきつい口調で家賃を催促され
著者がその態度の急変に狼狽して
申し訳なそうにお金が無いことを伝えると
大家は「なんですと!」
素晴らしい大声を張り上げてきたと
イヤミったらしく書いていて
大家の事を小馬鹿にしてるな~と
思いながらも笑えてしまう
その後も
「で、あなた今日も払えないと言うのなら、
明日はきっと払ってくれるんでしょうな。
わたしとしては今日中にはどうしても頂きたいんですがねっ」

なぞと、
まるで最初の好々爺然とは別人の顔で迫ってくると書いていて
著者の人間性が大家の薄っぺらい善人面の皮を
簡単に剥がして本性を曝け出している感じがして
読んでいて痛快である








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