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トピックス(小説・作品)

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素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
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2021年8月の記事一覧

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.12

***  撮影はわたしのママのアトリエで行われた。人物撮影用の背景のスクリーンはなかったけれど、 「レースのカーテンがあれば大丈夫」  そう高階が言うので、それを壁いっぱいに提げる。  エミリーに着けてもらうのは、スプスプの医療用ランジェリーでも比較的ラグジュアリー感のあるアイテム。アンティークのレースをあしらった、白地なので一見シンプルに見えるけれど、着け心地もシルエットもとても上品に仕上げているもの。  着脱と着け心地に配慮するため、フロント開きのスナップボタン留めなの

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.11

*** 「ねえ、ママ。スプスプのモデルになってもらえる?」  乾燥機から取り出した洗濯物をたたみながら、料理中のママに大きな声で問いかける。 「モデル? 下着の? わたしが? いやよ」 「えっ、マジ」  洋服をたたむ手が止まる。 「もちろん。だって仕事に差し支えるでしょ。紅茶のインストラクターが下着の写真を出しているなんて、クライアントが逃げちゃうわよ」 「うわー、マジか。詰んだー」  わたしは洗濯物の山の中に倒れこむ。マジかー。 「確かに、あなたたちのやっていることは素晴

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.10

「よくわかんないけれど、カップル成立? ていうかもともと全校生徒公認だと思うけれど。男子の冷やかしだって、つまりそういうことでしょ。ふたりのあいだに入り込めないから、外野から声をかけるんだよ。あ〜、こういう脚本書いたらいいのかな」 「なあに、メイちゃん。演劇部のためにわたしたちをダシにしようっていうの? そのために遊びに来てたの?」  冬夕が上目遣いにメイのことをにらんで、指差す。 「いやいや、そんなことはないよ。ただ、新しい台本が煮詰まってる」  露骨にあわてる谷メイ。本当

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.9

Ⅲ. Shooting! 「冬夕に会いたいなあ」  ベッドに寝転がり、つぶやく。 「は? 今の、なしなし!」  あわててわたしは、両手をぶんぶんと振って、空気の泡のように浮かんだその言葉を、かき消す。  明日になれば、会えるじゃん。  泣きながら、冬夕と手を繋いで帰ったあの日以来、夏休みが終わる今日まで、わたしは冬夕に会ってない。何度か届いたメッセージを全て既読スルーしているわたしが、冬夕に会いたいなんて、どの口が言っているんだろう。  手を繋ぎながらも、結局ムーン・コー

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.8

 すぐさまシャワーを浴びて、さっぱりしたあと、リビングで今日の釣果を物色する。  うんうん、素敵な素材。風呂上りだし、いいかな、ほおずりしちゃおう。 「いい生地には出会えたの?」  うっとりしているわたしにママが声をかける。 「うん。ばっちし」 「それはよかった。わたしも新しい夏物、オーダーしよっかな」 「まいど〜。ショーツも作りはじめたけれどいかがですか?」 「まあ、じょうずね。でもそれも欲しい」 「サニタリー用もはじめたよ」 「ほんとに! わたしもあなたたち見習わなくちゃ

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.7

 あ、と言って、冬夕は大きなバッグをまたごそごそとかき分ける。 「だから、スプスプのパッケージもおしゃれにしなくちゃいけないと思っているんだ。それで、そのサンプルも持ってきたんだった。はい、これ」 「あ、素敵! これ、わたしにくれたバレンタインのチョコと同じところのだ」  それは、チョコフェスに参加していた海外のチョコレートブランドのパッケージ。ビビットなブルーに金箔の文字。シンプルで甘くないデザインなのに、うっとりするほど美しい。こういう化粧箱にランジェリーが入っていたら、

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.6

「……あの、なんていうか、乳首がね、こう、はっきり見えちゃうんだよね。ブラ着けなければやっぱりそれが目立って恥ずかしい。でもスポーツブラでも、わたしには大きいくらいなんだよね。それで、さらしを巻いていたこともあるんだけれど、陸上やってて汗をかくから、その時、それが透けて見えたことがあって、だいぶ冷やかされたんだよね。だからやっぱりブラが欲しいな、と思って……」  彼女は、細い声になって、はにかんではいるけれど、恥ずかしそうにうつむいている。 「まどかちゃん、思い切って相談をし

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.5

Ⅱ. Sparkle! 「あー、雪綺ー。ブルーデーが来た」  そう言って、冬夕はわたしの背中にのしかかる。 「それはご愁傷様。わたし、ちょうど明けたところ」 「ふうん。だからそんなに涼しい顔していられるんだ。わたしたちソウルメイトだから、ブルーデーだっていっしょのはずでしょ」  わたしは、ふりかえって冬夕の鼻をつまむ。 「わたしの時、いっしょにおなかいたいいたいしてくれた?」 「でも、雪綺は軽いじゃん」  つっけんどんにそう言った冬夕は、あ、という顔をして、わたしに向かって深

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.4

 採寸は冬夕が行う。わたしもいっしょにいた方が本当はいいのだけれど、とてもプライベートなことだし、ふたりがかりでのぞむのは違うと思っている。  いっしょの方がいいと思うのは、わたしも杉本のおっぱいがどんなだかはっきりわかるし、そうすればある程度ブラの形もイメージできるから。  でも、そこは冬夕に任せる。  目的のために、大事なことを履き違えないようにしないといけないと、言い聞かせる。 「さとみちゃん。あと、これはカルテなんだけれど、好みの色とか装飾とかそういうの、書き込んで

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.3

 中学生のわたしは、学校帰りに生地屋さんで青と白のしましまの布地とスナップボタンを買った。ママの医療用のブラを拝借して、見よう見まねで作ってみた。ミシンすら扱えないわたしはちくちくと手縫いをしていた。  どんな布地が適しているか、とか、裏地を何にするか、とか、縫い代の部分を余計にとる、とか、そういうことをひとつもわかっていなかった。だから、それはブラジャーになどならなくて、ただの布切れだった。おまけにパッドを入れるポケットのことも考えていなかったし、スナップボタンもうまく縫い

三角公園 第4章 (3)

 エアコンの低いうなりも、喧しい蝉の声も、潮が引くように遠ざかっていった。桜子の唇が、毒を放つように禍々しく動いていた。 「どうして、何でそうなったの……?」  私は動揺を隠す余裕などなく、呂律のまわらない口で尋ねた。 「去年、パレスチナで医療ボランティアして、子供に感謝されたとき、先生に御礼を言いたい思いがどうしようもなく高まって、手紙を書いたの。それからメールするようになって」 「ちょっと待って。桜子、先生の住所知ってたんだ……?」 「アメリカに行く前に教えてもらったけ

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.2

 冬夕は、両手を上げて伸びをする。そして、やった! とつぶやく。 「雪綺、スプスプとしての初仕事だよ!」 「冬夕、なんで、わたしのことを止めたの?」  冬夕は、あごに人差し指を当てて、うーんと唸ってから答える。 「あのね、雪綺。社会問題を解決するのは、とっても大事なことだと思うよ。わたしは賛成。絶対に声をあげなくちゃならない。でもその前に、わたしたちはスプスプのデザイナーだから、お客さんの納得するブラを作らなくちゃいけないと思っている。さとみちゃんが声をあげることは、たぶん必

三角公園 第4章 (2)

 同窓会の会場は、高校から一駅先にあるホテルの宴会場だった。駅からホテルまで、いつもより少しヒールの高い靴で歩いた。額に噴きだす汗をハンカチで抑えながらエアコンのきいたホテルに入ると、温度差に体が適応するのに数秒かかった。どこかの会社の宴会がお開きになったようで、顔を赤くしたスーツ姿の男性が、ロビーに溢れていた。大声でしゃべっていた彼らをかきわけるように進んだ。  受付にいた未知子ちゃんは、3分の2が出席してくれたと上機嫌だった。セットする時間があれば睡眠に充てたいと短くし

【小説】 スクープ・ストライプ  vol.1

Ⅰ. Proudly!  放課後の家庭科室でわたしたちはブラジャーを縫っている。2台のミシンの音がダダダ……と追いかけあって、こだましている。  学校でブラを縫い始めた当初、好奇の視線にさらされていたわたしたちだけど、そういうのは、さっぱりと無視した。これはれっきとした部活動だし、わたしたちはとても真剣に、丁寧にこの作業を行なっている。  手芸部なんていうファンシーな名称をいただいているけれど、わたしたちは、ブランドを立ち上げているつもりだ。だから、そろそろ学校の部活動から