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トピックス(小説・作品)

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素敵なクリエイターさんたちのノート(小説・作品)をまとめています。
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2019年9月の記事一覧

ばれ☆おど!⑦

   第7話 二つ名の持ち主  開いたロッカーの中から、シータが現れた。  シータはヨタヨタと可愛く歩きながら、捜索を始めた。  ――あちこちで指紋の採取を行う。昼間の声の方向から緑子のロッカーの位置はすでに把握している。あとは指紋の特定だけだ。他のロッカーに付着している新しい指紋との照合データから、的確に緑子の指紋を特定していく。  翌日、シータは無事に落し物として、担当の教師に引き取られた。すでに紛失届が出されたシータである。連絡を受けた動物愛護部はシータを受け取

ばれ☆おど!⑥

 第6話 人工知能の推理力  矢文の内容を読んだカン太は思う。 (誰なんだ? ちょっと前なら喜んだのに。でも、今は違うんだ) 「きっと、脅しだけだろう。一体何が目的だ? コイツは」  源二も首を傾げる。  そしてシータに問いかけた。 「シータ出番だ。この状況から、犯人の目的と犯人像について、推測してくれないか?」 「はい、源二兄様。現時点では材料があまりにも少ないため、予測もおおまかになりますが、よろしいですか?」 「うむ、それは構わない。頼む」 「では、まず犯人像

ばれ☆おど!⑤

 第二章『暗闇からの執行人』  第5話 ぬいぐるみ型ロボット〝シータ〟  翌日、四月二十八日。ゴールデンウイークの始まり、行楽シーズンの始まり、高速道路の渋滞の始まり、そして、カン太の新たな人生の始まりの日となった。 「部長、正式に入部します。これからも動物愛護活動をやらせてください、お願いします!」 「おー、ついに目覚めてくれたか。その心意気、しかと受け止めた。あらためてユーの入部を歓迎する!」 「吾川カン太です、今後ともよろしくお願いします」 「うむ、よろしく頼む

ばれ☆おど!④

   第4話 愛銃〝アンサー〟 「さあ、ユーの出番だ。吾川君。早く手柄を上げたいだろう。がんばりたまえ」 「えー? 俺一人でやるんですか?」 「そうだ。手柄を上げるチャンスを独り占めできるのだぞ! 嬉しいだろ」 「ぜんぜん。むしろ拒否したいです。部活動なんだから、もうこの辺でイイでしょう? もう家に帰ってゲームでもやりたいです」 「この変態め! そういう事を言うんだな」  と言ってスマホを取り出し、例の画像をうるみに見せようとする。 「漆原君、見たまえ……」 「

ばれ☆おど!③

 第3話 強制入部と初仕事  翌日。4月21日。土曜日。  放課後、部室に向かいながら、カン太は思う。 (今日から、部活動だ。だりー。でも行かなきゃ。抹殺される。それから絶対、あの画像データだけは削除しないと、一生あの部長の奴隷だ。クソ! なんとかしなきゃ)  部室のドアを開けると、すでに源二とうるみは部活用のつなぎに着替え終わって、これから活動開始といういでたちである。  カン太が入ってくるなり、 「おい、ホームルームが終わったら、Bダッシュでここにくるように言った

ばれ☆おど!②

   第2話 鬼の風紀委員VS動物愛護部 「やっぱり、ここにいたか。さあ、降参しろ!」  そう。あの〝鬼の風紀委員〟冷泉玲奈がやってきたのだ。  彼女は本当に執念深い。  執念こそが、彼女を動かす原動力なのだ。 「これはラッキーだ! 吾川もここにいたか! ふたりとも観念しな!」 「一体なんのことかね。我々がいったい何をしたというのかね?」 「ふっ、とぼけるな。違反品を校内に持ち込んだだろう。この私がはっきりと見ているんだぞ!」 「こいつもか?」  源氏はそう言うと、

ばれ☆おど!①

 第一章 孤高のマッドドクター  第1話 逃亡の果てに    4月20日午前8時30分。バス停からがやがやと、高校生の群れが学校を目指し、彼らの通学路であるポプラ並木を賑わしていた。  雀ヶ谷南(スズメガヤミナミ)高校の正門前では、時々抜き打ちで〝持ち物検査〟が行われる。どこの高校でも行われている、あの年中行事だ。  今日はその日であった――。  一人の男子生徒が正門を通過しようとしている。  彼はカバンの中身を広げて見せる。  彼の名は吾川カン太(アガワカンタ)。こ

ばれ☆おど!⓪

 プロローグ  ヒュー、ヒューー、ピューピュー、ピュー    やけに風が強い。  ビル風がハウって、甲高い耳障りな音を奏でている。  その高層ビルの一室から、向かいのビルの一点に照準を定め、スコープを覗く男がいた。  ここは埼玉県雀ヶ谷(すずめがや)市。  四月の天候は変わりやすい。今日は二日ぶりに晴れている。  この天候を幸いとするのが彼で、もう一方の者にとっては不幸であった。  彼はニヤリと微笑むと、ゆっくりとトリガーを引く。  ほぼ同時に、サイレンサーが装備さ

思木町6‐17‐4(8)

 北向き、非常階段と共用廊下における狩猟採集生活  「雨が降りそうですな。空気が弛んできました」オーキナはそう言うと、ひと呼吸置いて、水を飲んだ。わたしたち三人の前にはコップくらいの土の器が置かれ、そこにはセレンが汲んだ水が入っていた。 「まずは、遠回りになるかも知れませぬが、わしらの暮らしぶりを話したほうが良いと思いまする」  わたしはオーキナの顔の皺を見た。 「ウチでは、季節を問わず実が採れまする。昨日、カツミが差し上げたと思いますが――」 「わたしも今日あげたわ」セレ

思木町6‐17‐4(7)

  北向き、セレン  惨めで、恥ずかしく、情けない気持になったけれど、結局わたしは、細かな木々に包まれて用を足した。選べるような状況ではなかったにしろ、全て済んで、土の器を見たあとは酷い後悔の念に苛まれた。ポケットティッシュがいくつあるかを考えた。リュックに今までのものが溜まっている可能性は高いが――わたしはヒヤリとした。後ですぐ確認するにしろ、本当に――一刻も早く、帰らなければならない。  わたしは焼きものを見た。「……これをいったい、どうすればいいと言うのだろうか」盥く

思木町6‐17‐4(6)

  北向き、鍵と庭  次の日の朝、わたしはT駅の構内を歩いていた。親戚の住むS県の駅で、わたしが去った新幹線の改札は太いスチールの柵で鎖されており、行き交う人もおらず、フロアは無味乾燥としていた。わたしは駅員に見せた新幹線の切符をはっきりと覚えていた。列車を降り、階段を上って、切符を手放すことが、特別なことに感じられたからだ。重いリュックを背負いなおし、改札を出たところで、その景色を見た。  駅の構内では、それぞれに目的を持った人がわたしの前方を左右にすれ違っていた。それも

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第21話 いざ!プロへ

「黄泉比良坂にて」 #08

「どれぐらいいるの?」 「とにかくたくさん」 「だから、どれぐらい?」 「三十はいる」 「あたしたちが通れないぐらい?」 「だろうな」 「本当に?」  西川原は強い口調で念を押す。おれが立っている位置から階段までは十メートルほどだろうか。階段のまわりを地蔵が取り囲んでいて、そのあいだを通れるような感じはしない。いつの間にか、西川原はおれとぴったり背中をつけていた。 「ごめん、変なことに巻き込んで」と西川原は言った。「教室で、父がここで死んだ、って話、したでしょう」 「あれは、

「黄泉比良坂にて」 #07

 しばらく、呆然と立ち尽くしていた。  工藤がどこかに消えた。工藤はさっきまで、崖の淵に立っていたから、地震の揺れで、下に転落したのだろうか。だが、悲鳴も何も聞こえなかったし、崖の下を見ても工藤はいなかった。  一瞬で頭が真っ白になり、パニックに近い状態になった。 「どうしよう」  西川原はいつの間にかおれの隣に立っていた。 「落ち着いて。工藤くんは転落したとは限らない。そうでしょ?」 「あそこに立ってて、転落してないってことがあるか? 他にどこに行くって言うんだよ?」 「そ