ハンカチはいつも濡れない。
映画とか本とか音楽とか、何かしらの作品に触れて泣いたことが一度もない。
という話を夫にしたら、
「感性カマキリやな」
と、よくわからない返事をされた。独特すぎる。
聞くところによると、これはメスのカマキリが、交尾が終わった後にオスを淡々と食べ尽くしてしまうことに由来しているらしい。なんとなくわからなくもないような気もするけれど、感性がカマキリだなんて言われて喜ぶのは、きっと香川照之さんくらいだろう。少なくとも私は、虫が苦手なのでうれしくない。
中学生のときに流行って、友達みんなが「泣いた」と口をそろえて言っていた携帯小説も、高校生のときに「めっちゃ泣ける」とオススメされたアニメも、大学生のときに、一緒に観に行った友達が横で号泣していた映画も、涙もろい夫を見事に泣かせた本も。
これら全部、全米が泣いていたとしても、全カマキリは泣けなかった。感動しないわけではないけれど、大体は「いい話だった」で終わってしまうのだ。
だから、私のハンカチは、いつも濡れない。
泣ける人がすごいとか、泣けない人はダメだということではない。でも、何かに心を動かされて自然と涙が流れてくるって、素敵なことだなと思う。
美しいものを美しいと、楽しいことを楽しいと、うれしいことをうれしいと、悲しいことを悲しいと、心から感じられる人。
感性カマキリ女にとって、魅力的な人。