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カメラと行く建築散歩#6 臥龍山荘 愛媛県


Date

所在地 愛媛県大洲市
竣工年 1907年(明治40年)
2016年 国重要文化財指定(臥龍院、不老庵、文庫)
2021年 名勝指定(庭園)

撮影 SIGMA fpL  

とある日の午後。
何気にネットを見ているとちょっと気になるニュースが目につきました。
愛媛県の大洲市が持続可能な観光地として世界一に認定されたというニュース。
え?
京都とかではなく、大洲?
なぜ?
調べて見ると、城下町として歴史ある街並みを多く残している大洲市ですが、近年は所有者の高齢化などにより維持管理が難しくなり、貴重な古民家が空き家になったり解体されたりするケースが増えてきているとの事でした。
危機感を持った市はそれらを保全するためにホテルとして利用したり、カフェや雑貨屋を古民家に誘致する活動を行い、観光地として収入を得ながら街並みを保全する取り組みを続け、その事が評価されたようです。

へー。
すごい。
四国の地方都市がそのような評価を受けていたなんて。
俄然興味が湧いてきました。
そしてGoogleマップをぐりぐりしていると出会ってしまったのです、臥龍山荘に。

臥龍山荘という名前、めちゃくちゃカッコいいな。
私の第一印象はそれでした。
しかしよくよく調べてみると桂離宮にも通ずる数寄屋造りの名建築との事。
これは撮らねば。
出発です。

臥龍山荘とは

いつものように簡単に歴史を。
臥龍山荘は大洲出身の貿易商であった河内寅次郎の別荘として肱川のほとりに約10年の歳月をかけ1907年に完成した数寄屋建築。
寅次郎は京都の茶室建築家、八木甚兵衛を相談役として迎え、桂離宮や修学院離宮などを参考に大洲藩の作事方であった中野虎雄などの手により工事は進められました。
山荘は臥龍院、不老庵、知止庵、文庫などの建造物と庭園からなっており、2016年には国の重要文化財として指定を受けています。
黒川紀章や隈研吾などにも高く評価されており、大洲の桂離宮とも呼ばれているように近代の数寄屋建築の傑作として評価されています。

文庫

ではいってみましょう。
まず入口の門の右側にある櫓のような建物が文庫です。
文化財登録された3つの建物の内のひとつです。
この建物は内部非公開。

文庫

入り口に聳え立っているのですぐ目につきます。
シンプルながら竹でラインを入れたり、一部漆塗りにしたりとデザインへのこだわりが感じられます。
現代の目から見てもシュッとしてモダンでかっこいいです。

石壁

では早速中へお邪魔します。

石壁

門を潜るといきなり右手の石壁からニョキっと樹木が生えていて驚きます。
どうやら木が元々あった場所に石壁を作ったらしいです。
木を伐採しないところにこだわりを感じます。
石積みもいろんな形の石で積み方を混ぜていておしゃれ。
その割にはツラも揃っていて隙間も少なく緻密に積み上げられた丁寧な作業が印象的です。

石壁に石臼

石壁の中に石臼が埋め込まれています。
後で教えて貰ったのですが、これは肱川の上空に浮かぶ満月を表現していて、写真左側の少し湾曲した石を船に見立て、肱川河畔の月夜の情景を作り出しているとの事。
風流ですな。

臥龍院

まずはこの山荘のメイン、臥龍院にお邪魔します。
受付もこの建物の入り口に設置されています。
写真撮影も大丈夫との事。

看板

ちなみに観覧料は大人550円。
この名建築を堪能できて写真も撮り放題でこれは安い。
ありがたいです。

露月の間

玄関受付の隣は露月の間。

公式のホームページによると、違い棚を霞に見立て、掛け軸には富士山が描かれており、丸窓の裏側から蝋燭が灯されると月明かりのようになる仕掛けとの事。
なるほど、それで霞月の間なんですね。
右側の襖は薄暗く鼠色で塗られていて薄暮を表現しています。

蝙蝠の取手

薄暮なので蝙蝠。
オシャレすぎる。

仙台松の一枚板

廊下は普通の板間かと思えば、なんと仙台松の一枚板。
それを敢えて溝を掘って普通の板間に見せています。
確かによく見ると隣り合った板同士、木目が繋がっています。
粋ですね。
奥ゆかしい、日本らしさが最も良く現れた部分ではないでしょうか?

庭を見る

そして縁側から庭を。
新しく芽吹いた新緑の葉が眩しい。
ため息しか出ない。
心の底から美しいと感じます。

沓脱石

青みをおびた色が美しい沓脱石。
しっかりした高さもある。
当時の客人はここから建物に出入りしていたらしいです。

縁側

縁側の飾り釘なども凝っています。

壱是の間

立派な書院造りの壱是の間。
畳を上げると能舞台となるみたいです。
床下には備前焼の壺が置かれていて、音響効果を高める仕掛け付き。

書院と床の間

大きな書院窓や天井板などは桂離宮と同じ意匠との事です。
屋敷の中では一番広そうですし、客人をもてなすメインの部屋でしょうか。

庭から心地よい風が舞い込んできます。
最高です。

南側の庭を見る

木々の間から肱川が見えていますね。
遠くの山並みと共に借景として機能しています。
本当に贅沢な空間。

清吹の間

壱是の間の横は清吹の間。
名前からして涼しそうですが、天井が他より一段高くなっていたり、北向きで風通しも良いため、暑い時期の為の部屋とされています。
書院窓の上の透かし彫刻が綺麗。
写真が暗くて見えにくいですが、その上には神棚。

アップで

桜の花に筏で春を表現しています。
写真が撮れなかったのですが、この部屋の四方にそれぞれ季節に応じた彫刻がされているとの事。
今回は見逃してしまいました・・・

庭園

庭に出て見ました。

庭から
沓脱石

壱是の間の沓脱石。
立派な石です。

水鉢

水鉢に花が飾られていました。
山荘内には色んな所に花が飾られていて楽しませてくれます。

臥龍院

臥龍院全景。
茅葺き屋根になっています。

庭園の通路

大小様々な石や石臼で作られた庭園の小径。
作庭は神戸の庭師、植徳の手によるとされています。

崖の際の細長い立地の庭なので物理的には結構狭いはずですが、腰高まである灌木帯が緩やかに境界を隠し、低高様々な樹木越しに肱川や山々を借景として取り入れているので全く狭いという印象は持ちません。

灯篭

きのこ型灯篭が可愛い。

苔もしっかり管理されている様子。
ちょうど新緑の時期に訪れたので本当に庭全体が瑞々しく最高でした。

知止庵

知止庵

庭を奥へ進むと木々の間にひっそりと小さな建物が見えてきます。
臥龍院と同時期に浴室として作られたこの建物は、昭和24年に茶室として改装されたとの事でした。

知止庵 内部

中に入ることはできませんが、躙口から覗けます。
二畳ほどの小さな茶室。
ちなみにこの建物は文化財登録されていません。

不老庵

石柱と不老庵

さらに奥へ進むと不老庵が見えてきました。

懸け造り

臥龍山荘といえばこの建物を想像する方が多いのではないでしょうか。
肱川河畔の崖の上に迫り出すように懸け造りで作られた、茅葺き数寄屋造りの建築です。
懸け造りとは急峻な崖や山に沿うように建てられてた建築様式。
京都の清水寺や三徳山三佛寺の投入堂などが有名です。

眼下には肱川

高所恐怖症気味の私は出るのを躊躇してしまいました。

室内

不老庵も臥龍院と同年代に作られた建物ですが、先に着工し完成したのは不老庵との事です。
当時客人は山荘に船で向かい入れられていたようで、まずはこの不老庵へ通され、もてなしを受けた後、臥龍院で宴会の流れだったとか。

かまぼこ天井

不老庵の特徴の一つにかまぼこ状の天井があります。
これは不老庵自体を船に見立てており、船底を模してこういう形状になったとの事。

竹網代編み

竹網代編み仕上げとなっています。
これは肱川に反射した月光を受け止め、室内を照らす為の工夫だとか。
発想がすごいですね。
この日の眩しい日光も少し映っていました。
ちなみに建物の裏に生きた木をそのまま柱として利用しているとの事ですが、今回は見逃してしまいました。
残念・・・

最後に

あっという間の1時間でした。
四国にこんな素晴らしい場所があったとは。
古き良きって言葉はあまり好きじゃありませんが、今の人々の多くがイメージする良い意味での”日本らしさ”の王道に出会うことができます。
ではではいつも通り個人的なおすすめポイント3選を。

1.とにかく庭園

とにかくまずは庭園。
これを見て欲しいです。
植徳が10年かけて作った庭は決して広くもなく派手でもありませんが、緻密に計算されたのでしょう、とにかく濃い印象です。
どうしてこの位置にこの石なんだろうとか、この木はどうして此処なのかとか考えながら最後にファインダーを覗くとあら不思議、すごい良いバランス。
そりゃ飽きません。
季節を変えて訪れてもまた違った印象で楽しめそうです。

2.もちろん不老庵もいいけど臥龍院が凄い

懸け造りの不老庵も素晴らしいのですが個人的には臥龍院の奥深さに一票。
各部屋ごとに様々な意匠が凝らされていてこちらも飽きません。
予習して行くのもよし、帰ってきて深堀りするもよし。
じっくり建築を堪能できます。
個人的には露月の間の蝙蝠の取手が大好き。

3.大洲は見どころ撮りどころがいっぱい

そのほか大洲は見どころがたくさんあります。
大洲城に始まり富士山公園、ポコペン横丁、赤煉瓦館や城下の古い街並みなど。
おしゃれな飲食店や雑貨屋も多いです。
どれも写真欲を刺激される場所ばかりです。
建築好きには近くの盤泉荘もおすすめ。
ぜひチェックして見てください。

さて今回の建築散歩、いつものように最高に楽しめました。
案の定見逃したポイントもいくつかありますのでまた行ってみたいです。
紅葉の時期なども良さそうですね。

ではまた。

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