見出し画像

【第10回】ヒトパピローマウイルスワクチン

執筆:伊藤 舞美(はしもと小児科看護師長、日本旅行医学会認定看護師/保育士養成学校講師)

―――――――――――――――――――

ヒトパピローマウイルスについて

 今回は、ヒトパピローマウイルスワクチン、いわゆる「子宮頸がんワクチン」についてまとめました。子宮頸がんは、おもにヒトパピローマウイルス(以下、HPV)の感染が原因となって、発症する疾患です。「ウイルス感染が原因でがんになるの?」と思われがちですが、ほかにも、B型肝炎ウイルスの感染が原因で肝臓がんを発症する、などがあります。
 HPVには、たくさんの種類があり、すべてのウイルスが子宮頸がんの発症にかかわっているわけではありません。特に、原因ウイルスの多くが16型、18型であることがわかっています。そこで、この16型、18型を含むワクチンが開発されて、世界中の多くの国で、定期接種としてワクチンが接種されています。

HPVワクチンは3種類

 HPVワクチンは、何価のHPVを含んでいるかによって、3種類のワクチンが発売されています。それらは、2価のサーバリックス、4価のガーダシル、9価のシルガードの3種類です。これらのなかで、2価のサーバリックスと4価のガーダシルは、定期接種なので、対象者は原則無料で接種が受けられます。本来ならば、子宮頸がんの発症予防としてもっとも効果のある9価のシルガードが定期接種であることが望まれますが、発売されたばかりなので、現在は任意接種(有料)となっています。それぞれのワクチンの特徴を以下に示します。

サーバリックス(2価)

 HPVの16、18型を含む2価のワクチンです。定期接種の対象者は、「12歳となる日の属する年度の初日から、16歳となる日の属する年度の末日まで」となっています。つまり、小学6年生から高校1年生までは、定期接種として無料で接種が受けられます。
 接種回数は、初回、1カ月後、6カ月後の合計3回です。
 サーバリックスは、国内で最初に発売されたHPVワクチンになります。

ガーダシル(4価)

 HPVの6、11、16、18型の4価のワクチンです。ガーダシルは、HPVワクチンのなかで唯一、女性でも男性でも接種が可能なワクチンです。ただし、定期接種として接種が受けられるのは、女性のみとなっています。つまり、男性が接種する場合には、任意接種(有料)となります(2021年7月現在)。定期接種の対象年齢は、サーバリックスと同様で、「12歳となる日の属する年度の初日から、16歳となる日の属する年度の末日まで」です。
 ここで、「なぜ子宮頸がんワクチンを男性に接種するの?」と考えてしまいますが、HPVは尖圭コンジローマなどの性病の原因にもなります。また、男性がHPVを保有しているために、女性にうつしてしまう危険があります。男性は、性病を予防するためと、女性にうつしてしまわないために接種が必要となるのです。
 接種回数は、初回、2カ月後、6カ月後の合計3回です。また、この方法を取ることができなかった場合には、初回、1カ月後、2回目から3カ月後に3回目の方法で接種が可能です。12歳になったならば早めに接種して、セクシャルデビューする前に免疫を付けておくことが重要です。

シルガード9(9価)

 HPVの6、11、16、18、31、33、45、52、58型を含む9価ワクチンです。9歳以上の女性が接種対象となります。HPVの多くの型をカバーできるワクチンなので、現在(2021年7月)、任意接種ですが、今後、定期接種が望まれるワクチンとなっています。
 接種回数は、ガーダシルと同様に、初回、2カ月後、6カ月後の合計3回です。

画像1

シルガード9水性懸濁筋注シリンジ製剤(写真:MSD Connectより)

ワクチンの接種スケジュールでの注意点

 通常、不活化ワクチンの接種スケジュールは、1回目の接種から中27日で2回目の接種、つまり、7月1日に1回目の接種ならば7月29日以降に2回目の接種となるところですが、HPVワクチンは、1カ月、2カ月の単位で、次回接種を行います。例えば、7月1日に1回目ならば、8月1日以降に2回目の接種となります。間隔の空け方に注意が必要です。

子宮頸がんについて

 HPVワクチンが定期接種となっている国や地域では、子宮頸がんの病気そのものが減少しています。国内では、HPVワクチンが発売されて数カ月で、「HPVワクチン接種を積極的に勧めないように」となってしまったために、接種する人が少なくなってしまいました。現在は、HPVワクチン接種対象者に個別に案内が届くようになり、HPVワクチンに対する認識も「接種をしましょう」という方向に変化してきています。せっかく、子宮頸がんを予防できる方法があるのですから、対象者には接種をおすすめします。加えて、HPVワクチンを接種したからと安心せずに、対象の年齢になったならば、子宮頸がんの検診もしっかり受けるようにしましょう。

HPVワクチンの接種後の痛みへの対応

 HPVワクチンに限らず、特にティーンエイジャーは、注射の痛みのために血管迷走神経反射を起こして、まれに「失神」してしまうケースがあります。これは、アナフィラキシーショックとは違うものなので、横になって足を高くしていれば、自然に落ち着いてきます。そこで、注射の痛みを和らげるために「外用局所麻酔剤」のパッチを事前に貼っておくと安心です。くわしくは、かかりつけの先生に相談しましょう。そして、注射当日は、激しい運動を控えて、リラックスして過ごしてください。

―――――――――――――――――――

【著者プロフィール】
・東京都立駒込病院消化器外科病棟
・東京都立八王子小児病院(現・東京都立小児総合医療センター)NICU主任
・1999年より、医療法人まなと会はしもと小児科にオープニングスタッフとして勤務
・へるす出版の月刊誌『小児看護』にて、連載「外来で役立つ小児看護技術」を2014年より約3年半にわたり執筆
・所属学会:日本外来小児科学会/日本ワクチン学会/日本旅行医学会/日本在宅医学会
伊藤 舞美さん近著:クリニックナースがナビゲート 子ども外来ケア

956-6_子ども外来ケア_H1_h1200-rgb-depth12

へるす出版月刊誌『小児看護』

2021年8月号 特集:小児看護とICT;遠隔で行う看護実践と教育
2021年7月号 特集:子どもの排尿・排便
2021年6月号 特集:病気をもつ子どものピアサポート
2021年7月臨時増刊号 特集:重症心身障がい児(者)のリハビリテーションと看護

#クリニック #外来看護 #予防接種 #HPV #子宮頸がん #ヒトパピローマウイルス #ホームケア #出版社

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?