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05.学びなおしと進化

これから少子高齢化による人口減少の勢いが加速します。
2022年10月の時点で、総人口は1億2449万人で、前年よりも減少しています。

年代別で見てみると、15歳未満の人口は1478万4千人(11.8%)、15~64歳の所謂、労働人口は7450万4千人(59.4%)、65歳以上の人口は3621万4千人(28.9%)です。
 
労働人口がどんどん今後も減少していく中で、AI、IoT、クラウド、モバイル、5Gなどデジタルの積極的な導入によって、人間が担う仕事がかなり変わってくると考えられます。

デジタルは、今後、物凄い勢いで進化して、その使用方法もどんどん塗り替えられていくのだろうと思います。
超アナログの私にとって、超苦手な分野ではありますが、必然的な進化なのでしょう。

人口が減るからというのもありますし、既存のシステムが老朽化することは目に見えています。

テレビやパソコンなどの電化製品だって、5年ぐらいで買い換えするのが普通な時代です。

現代はデジタルトランスフォーメーション(DX)時代です。
 
DXとは、デジタルを活用して変革することです。

デジタル技術を駆使して、今までの商売のやり方やビジネスの流れをゼロから見直して再構築することです。
 
企業内の組織や制度、プロセス、文化、風土なども変革(トランスフォーメーション)し、その基準にデジタルがあります。

デジタル化が急速に進む現代、変化の激しい時代への適応力が求められます。
 
AIが担う業務が増える中で、人間が今まで担ってきた業務が無くなってしまうことや、別に新しく生まれる業務もあります。
 
“パラリンピックの父”と呼ばれるルートヴィヒ・グットマンさんが言った“失ったものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ(It’s ability, not disability, that counts)”という言葉があります。
 
これからの時代を生きる為には、この言葉がより大きな力を与えてくれそうです。

そこで少し、私の好きなロックミュージック関連の話です。

イギリスのハードロックバンド、デフ・レパードのお話です。
今や、大御所バンドです。

ドラマーはリック・アレンさんです。

1980年にデビューし、1983年の彼らにとって3枚目のアルバム『PYROMANIA~炎のターゲット』が全米ビルボードチャート2位まで上昇しました(人類史上1番売れたマイケル・ジャクソンさんの『スリラー』が当時1位に君臨していました)。

アメリカだけで1000万枚以上の売上を記録して大ヒット、バンドの勢いはピークに達しました。
その勢いでワールドツアーを大成功させて、順調に次の作品造りをスタートしました。
 
その矢先、1984年12月31日、当時21歳のリック・アレンさんは交通事故を起こし、左腕を肩から切断するという大怪我を負ってしまいました。

右腕も粉砕していましたし、何より生きるか死ぬかの状況が長く続いたので、復活は不可能とも思われました。

そして、片腕がなくなるということは、当然のことながら、ドラマーとしては致命傷です。

ドラマーとしての復帰は無理と判断したリック・アレンさんは、引退を覚悟しましたが、バンドの仲間たちは彼の復帰を待つことを選びました。
 
その結果、死の淵から奇跡的に快復したリック・アレンさんと、彼以外のドラマーは考えられないと結束していたバンドは、“左腕を失っても、右腕と両脚がある”というポジティヴな発想により、シモンズ社の協力を得ながら、左腕で叩くべき部分をフット・ペダルでの演奏で補うことが可能な彼専用のエレクトロニックなドラム・セットを開発しました。
 
バンドは、その誰もが未体験のシステムの中での演奏に馴染むことから取り組んでいきました。

リック・アレンさんは血の滲むような練習を積み、メンバーはそれを見守り、支援しながら3年近くの歳月をかけ、バンドは復活しました。
 
当時としては、若手のバンドでは有り得ないぐらい大きなブランク…前作から4年が経っていましたが、その後に発表した4枚目のアルバム『HYSTERIA~ヒステリア』は、全米ビルボードチャートで1位になり、アメリカだけで1200万枚以上、全世界で2500万枚以上の売上を記録して前作以上に大ヒットしました。
 
デフ・レパードは前代未聞の作戦でリック・アレンさんの復活を待ち、それまでのファンやそれ以外の人たちまでもが、デフ・レパードの復活を持ち望んでいたという劇的な実話です。

今もリック・アレンさんはデフ・レパードのドラマーとして活躍中で、世界中のスタジアムで演奏し、バンドも新作を作り続けています。

ロックの歴史上、最高の美談でありますが、まさにこれが今回のお勉強の本題です。
 
リスキリングです。

現代、少子高齢化による人口減少により、多くの企業が人材不足という課題を前にして、既存の従業員の活躍の幅をリスキリングによって広げることが必要になってきています。

新しいものをいかに積極的に取り入れていくかで新たな価値創造の方法を模索する必要があります。
 
リスキリング(Reskilling)とは、働き方の多様化や技術の進展などによる産業構造の根本的な変化によって、既存の別業種や今後新たに発生する業種や職種に順応する為の知識やスキルを習得することを目的に、人材の再教育や再開発をする取組をいいます。
 
昨今の日本企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り組み始めたことをきっかけの一つとして、日本でも必要性が高まっています。
 
経済産業省はリスキリングの定義を“新しい職業に就く為に、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応する為に、必要なスキルを獲得する…させること”と定めていて、リスキリングは社会人の転職やキャリアアップの場で多く用いられる傾向にあります。
 
企業側も、厳しい競争の中で生き残る為に、既存の事業の付加価値を高める必要や新たな領域にチャレンジする必要があります。

その為、全ての従業員に、これからの職場で必要なスキルを習得してもらう為の取組が大きな意味を持つようになります。
 
リスキリング自体はドイツなど海外の有名企業などが先行し、早期に着手している取組ではありますが、近年の日本企業でもその必要性から導入に意欲的な企業が出てきています。
 
リスキリングが注目されている背景は大きく分けて2点あげられます。

“デジタル時代の到来”と“コロナ禍による働き方の変化”です。

特に、近年ではデジタル化によって新たに生まれる職業や職種、仕事の進め方など大幅な就業スタイルの変化に伴いスキル習得が必要になるケースが増えています。
 
また、新型コロナウイルスの流行によりテレワークの推進や、対面ではなくオンラインでの顧客とのやり取りなど、既存の働き方では対応できないケースも増えています。
 
逆に、人手が不要になった職種もあり、従業員も自らの活躍の場を創造していく必要があります。

このような環境変化に適応する為、新たな事業戦略として必要なリスキリングを進めていくことが企業には求められています。

リスキリングは、リカレントと同じ意味で使用される場合があります。

“再教育”、“新たなスキルを身につける”という言葉の意味において違いはありませんが、主体が企業側になるのか労働者になるのかという部分で大きく異なります。

リスキリングは企業側がこれから必要となる知識やスキルを身につけてもらう為に従業員に対して施す取組です。

一方、リカレントは社会人が今の仕事で必要となる専門的知識やスキルを身につけたり、就業先を一度離れ、教育機関で学び直したりするなど、自らのライフスタイルに合わせた生き方や働き方を選ぶ為の手段として使われます。

日本企業にとってのリスキリングはデジタル化の推進に伴う、人事戦略の一つとして欠かせないものになると考えられています。
 
日本企業においての教育プログラムとして“OJT(職場内教育訓練)”という既存の組織や業務を対象とした取組がありますが、リスキリングはOJTと違い、新しいビジネスモデルの開発や新たな付加価値の高い商品やサービスの創出の為に重要な要素となります。

その為、今後必要となるスキルや能力が足りていない人材をリスキリングすることで、変化するビジネスモデルや事業戦略に対応できる人材へと再教育する企業が多いようです。
 
リスキリングが企業にもたらす効果は様々です。

近年では、デジタル化において新しく生まれた業種や職種への人材投資として、企業に大きな影響を与えています。
 
また、新型コロナウイルスによる環境変化に伴い、デジタルでのサービス提供や物作りへの関心が高まったこともあり、飛躍的に需要が高まりました。

リスキリングを行うことにより、従業員が新しいスキルや知識を習得することで、従来にはなかったアイディアが社内から生まれやすくなります。
 
リスキリングは、時代の流れや産業構造の変化に伴う既存の事業の衰退や陳腐化を防ぐと同時に、新規事業やサービスを生み出すことによって売り上げの拡大、あるいは経営改善に役立てることができると考えられています。
 
既存、新規に関わらず、社内に新しい風を吹き込むという面においてもリスキリングを行う価値は高いと言えます。

リスキリングへの取組は、習得したスキルや知識を既存の業務の効率化に活かすこともできます。

特にデジタル化の推進で業務の自動化や工数の削減をすることで、本来専念するべきであるコア業務や新規事業の設立に伴う新しい業務へ今まで以上の時間を割くことができます。

その為、個人の生産性の向上やスキルアップによる更なる業務効率化が期待できます。

つまり、企業側は既存の人材を今まで以上に有効活用することができます。
 
従業員側も雇用が安定することはもちろん、今までの業務に加え、新たなスキルや知識の活用でより企業側に貢献することができます。

リスキリングは、デジタル時代において企業側と従業員個人の双方が生き残っていく為の人事戦略だと考えられています。
 
これまで企業が積み上げてきた独自の企業文化や社風などを守ることもリスキリングの大きなメリットの1つと言えます。

これまで社内で活躍してきてくれていた人材のリスキリングによって、既存の従業員を解雇して新たな人材と入れ替える必要がなくなります。

つまり、既存の従業員が今まで作り上げてきた文化を継承する形で、自社の強みや優位性を生かした戦略を立てることができます。
 
新規のものを取り入れることも手段としては有効ですが、既存の事業や文化とバランスよく融合させることは簡単なことではありません。

その為、既存の従業員のリスキリングに取り組むことは、新しい事業などを軌道に乗せる上でも有効な手段となります。
 
既存の社内人材をリスキリングして活用することにより、採用コストを削減することもできます。

新たなスキルや知識を持つ新規の人材を社外から即戦力として採用しようとすると、採用費用のみならず育成などにも大幅にコストがかかります。
 
労働人口も減少する中、新規の人材に頼るだけではなく、既存の人材をリスキリングして異動させるなどの施策で経費を抑えることができます。

そして、新たな利益を創出することのできる分野や事業へ従業員を戦力化していくことが、リスキリングの上手な活用法だと言えます。
 
また、リスキリングによって、これまで埋もれていた人材発掘にも繋がるかもしれません。

リスキリングは継続して行うことが大切です。

継続する為に、社内理解や協力体制、モチベーションの維持やコンテンツ選びなど、企業が従業員に対して施す項目は多岐に渡ります。

しかし、従業員の学習に対する意識が促進され、効果が最大化する仕組さえ構築することができれば、リスキリングの成果を企業内のキャリアパスなどに結合することもできるようになります。
 
個人の人生戦略においても企業の経営戦略においても教育や学習といったステージは人生において何度も訪れます。
 
リスキリングの経験が“学び続ける文化”を生み、企業にとっても従業員にとっても社会の急激な変化にも柔軟に対応する大きな力となると言えます。

デジタル化が急速に進む現代において、変化の激しい時代への適応力が求められています。

AIが担う業務も増える中、新しく生まれる業務もあります。
 
多くの企業が人材不足という課題を前にして、既存の従業員の活躍の幅をリスキリングによってどう広げ、新しいものをいかに積極的に取り入れていくかで新たな価値創造の方法を模索していく必要があります。
 
海外と比べると日本企業ではリスキリングの認知も推進もまだ進んでいませんが、リスキリングをどれだけ精度高く実行していくかが、今後の日本の“誰も取り残さない”社会の実現の為の…、生き残り戦略の鍵になると考えられます。

写真はいつの日か…札幌市東区のモエレ沼公園内で撮影したものです。

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