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稼ぐ文化財ニュース(2022/1/14)

稼ぐ文化財ニュースでは、近現代の文化遺産を後世に残すべく保存と活用の両立に取り組む全国の最新事例を紹介し、各事例の特徴や今後の動きについて考察していきます。

◆今日のトピック

重文・三河家住宅 保存・活用、多難な前途 多額の耐震費用、計画足踏み 徳島市(毎日新聞 2022.1.14)

三河家住宅外観(徳島市HPより)

【記事概要】
独創的なデザインで重要文化財に指定されているドイツ風建築物「三河家住宅」(徳島市富田浜4)の保存や活用の仕方に、市が苦慮している。昭和初期に建てられたが老朽化が著しく、一時は修理したうえでの一般公開を目指したが、耐震改修などで多額な費用が見込まれることが判明し、計画はストップ。外壁や屋根などに剥がれも目立つ状況になっている。
三河家住宅は1997年に国の登録有形文化財になり、2007年には国が重要文化財に指定、2011年に当時の所有者から市に寄付された。
市が活用方法を検討してたが、3階や塔屋などで耐震基準を満たしていないことが判明。当初は2023年に一般公開を目指していたが、改修に多額の費用がかかることから、計画がとん挫している。

【ポイント】
三河家住宅の保存活用計画は2016年に策定されていますが、その内容を見ると、活用についてはほとんど記載が見られません。

4 実施に向けての課題
(略)効率的かつ効果的な管理・運営体制のあり方を検討するとともに、活用計画については中期的な展望に立ち、市民からの提案や要望等を取り入れ、活用計画の見直しが必要とされる場合は計画の再検討を行う

重要文化財三河家住宅保存活用計画(案)(https://www.city.tokushima.tokushima.jp/kankou/bunkazai/mikawa-pubcom.files/mikawaplan0.pdf

保存活用計画策定委員会の議事録を見ると、第3回委員会で収益化について触れられており、ある委員が、「非常に収益率の高いものでない限り成り立たない」「使用する側が活用を決めている」という本質を突いた指摘をしています。
この部分が、保存活用計画(案)の「市民からの提案や要望等を取り入れ、活用計画の見直しが必要とされる場合は計画の再検討を行う。」に反映されています。

委員:(略)小さな建物、小さな空間であるので、そんなに大勢の人が入って何かができるというのではなく、非常に収益率の高いものでない限り成り立たないです。(中略)大阪市では市民に向けて貸会場的にやっている例があります。空間を市民グループがどのように使うのかを考えて市に要望しています。予定調和的に決めているのではなくて、使用する側が活用を決めています。いずれにしましても、三河家住宅は狭いスペースであるので相当考えなくてはいけないです。

第三回議事録 https://www.city.tokushima.tokushima.jp/kankou/bunkazai/mikawaya_hozon.files/shakai_kyoiku38.pdf

保存活用計画に「将来、計画変更の可能性がある」と書かれているので、具体の活用メニューが定まり次第、必要な現状変更の内容を定めて計画変更がなされると思いますが、記事の見出しにあるように「前途多難」な要因の一つとして、活用内容が全く決まっていないことがあると思われます。

市民からの提案を踏まえて活用を考える、という市のスタンスでは、大規模な投資に見合う活用メニューは困難でしょう。
おそらく数億円はかかる多額の耐震改修費を、市が税金で負担することも難しく、行き詰まりを感じているものと推測します。

このような状況を打破する方策として、「サウンディング調査」があります。

サウンディング調査とは、民間企業から広く公共施設の活用アイディアを募り、事業参加可能な企業を誘致するための条件を明らかにするための手法の一つで、最近では重要文化財や登録有形文化財をはじめとした歴史的建造物の活用検討にも使われています。

★文化財建物の活用に関するサウンディング調査事例

三河家住宅の所有者である徳島市も、提案を求める範囲を市民に限定せず、収益事業を営む民間企業の誘致に向けたサウンディング調査を行い、広く地域外の企業からも活用提案を募ってみてはいかがでしょうか。

国も「地方公共団体のサウンディング型市場調査の手引き(下記)」を公表するなど、自治体と民間企業のマッチングを積極的に支援しています。

限られた税収のなかでも様々な可能性を模索し、貴重な文化財を将来に向けて守り続けていただきたいと思います。

私の情報発信が、そのための一助になればうれしく思います。

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