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「少女の記憶が飛んで戻るまでのお話。」第7話

第7話 黒い粒々が沈んだ飲み物 その2


 タピオカミルクティーを購入した四人は、店長たちが出てくるまでタピオカ専門店の向かいにある公園で待つことにした。
 ドリンクはルーヴァを除いた三人で分けるが、少女のお腹が空かないように念のため彼女に多めにあげることにする。

「なんかこれストロー太いね?」

 ベンチの右端に座った少女が、目を丸くしてタピオカミルクティーの容器に刺さっているストローを見た。

「これでタピオカを吸い上げるからよ。まあ私も初めて見たんだけど」
「私も初めてだわ」

 その横に並んだ亜季とスアラもしげしげと眺めていた。斜め前に立ったルーヴァはそこまで珍しそうにはしていないようである。
 タピオカミルクティーを両手で持った少女が一番手に飲み始めた。

「もちもちしてるー」

 少女はタピオカを食べながら隣の亜希にタピオカミルクティーを渡す。

「確かに。食感は白玉みたいね?」

 感想を述べた亜季は最後にスアラへドリンクを回した。

「……んくっ。ふぅ。勢い余って呑み込みそうになったわ」

 スアラはやや時間をかけた後、小さく息をついてそう言った。タピオカを吸い上げた時に少しトラブったらしい。

「そんなに焦らなくてもいいのに」
「慣れてないだけよ!」
「これってカエルの卵?」

 少女の何気ない一言に亜希とスアラは思わずせき込んだ。

「いや、キャッサバっていう南米が原産地の芋の一種だよ」

 苦しそうにしている二人を他所にルーヴァが説明した。

「脅かさないでよ!」
「そもそもカエルの卵は白いわよね!?」

 彼女たちは涙目になりながら声を上げる。

「あ、そうだっけ」

 少女は首を傾げた。頭上にはてなマークが見えそうである。

「ちなみにタピオカは元々は白いよ。黒いのはカラメルとかで色を付けてるからだから」
「…………タピオカってお芋なんだよね?」
「そうだよ」

 亜季が念のため確認するとルーヴァは頷いた。



「おーい」
「待たせてごめんなさいねー」

 カジュアルなパンツスタイルの女性店員二人が、手を振りながら亜季たちの方へと歩いてくる。その後ろには濃色のジャケットにジーンズの店長だ。
 彼らはこの後別所で幹部が集まる会議に出なくてはならないらしく、四人は道すがら話を聞いてもらうことにした。

「えーっと、そちらのお嬢さんを店長が知っているかどうか……でしたっけ?」
「店長、何か思い出しました?」
「…………」

 髪の短い店員の問いかけに店長は沈黙を返した。

「うーん、やっぱり知り合いではなさそうね。少なくとも私たちは知らないわよね……」
「そうね。会社関係ではなさそうよね」

 店員二人は眉を寄せて少女に視線を向ける。
 中学生と会社では基本接点はないだろう。ちなみに少女の方も、店長を見ていてそれ以上何か思い出すことはないようだった。

「そうですか……」
「それなら、『猫のおじさん』という言葉に心当たりは?」

 肩を落とす亜季の横でスアラがたずねた。

「知らん」

 店長はそれだけ言うとまた沈黙する。店員たちも顔を見合わせ首を振った。店長が猫を飼っているとか猫に好かれるとかそういう事もないという。
 そこで店員の一人があることに気づいた。

「……あれ、店長、その子の事何か引っかかってます?」
「え?」
「そうなんですか?」

 予想外の言葉に亜希とスアラは驚いて店長を見上げた。

「なにか考え込んでいるみたいなんで。いつもならすぐに興味を失くすんですけど」

 黙っている店長が考え込んでいるのかどうかまでは、亜希たちに判断はつかなかった。

「……はっきりとはわからん」

 店長はやや眉をひそめてそう答える。

「ということは間接的な知り合い……とかかしら?」
「そんな中途半端な接触で店長の印象に残るのって一体どんな?」

 彼の言葉に店員二人は首を捻った。

「でもちょっとびっくり」
「何で?」
「中学生が店長の印象に少しでも残ってるなんて。意外とロリk……」
「しぃ――――――――っ」

 店員がもう一人の口を慌てて塞ぐ。

「……不愉快だな」

 やや低い声で店長がそう零したので店員二人は震え上がった。
 怒らせてしまったかと恐る恐る店長の方を見ると、やはり彼は鋭く目を細めていた。だが、こちらには目を向けていない。

「お前たち、つけられているな」

 店長は目だけ動かして亜季たちを見た。

「やっぱりいるの!?」
「くっ……」
「騒ぐな。自然にしていろ。こちらが気づいた素振りを見せると、相手が警戒して気配を掴みにくくなる」

 亜季とスアラが狼狽えると店長が静かにそう言った。店員二人の顔にも緊張が走る。
 流石に亜季たちは不安になってきた。

「やっぱり学園に戻る前に交番とか行く……?」
「そうね……」

 店員二人もそんな彼女たちを心配そうに見る。

「店長、この子たち送ってあげません?」
「……そうだな」

 店長は少し間をあけてから頷いた。そして独り言のように小声で付け加える。

「暇つぶしができるかもしれないしな」

 彼の口元には薄っすらと笑みが浮かんでいた。





 タピオカを飲んだ時の亜希たちの反応は作者自身の体験をもとにしています。(←勢い余って飲みこみそうになった人
 ちなみにカエルの卵なのかという台詞は、身内が言った言葉だったりします。その時自分が返した言葉がスアラに反映されてます。(笑

<おまけ>
(作者がタピオカについて調べている時) 
身内:これってカエルの卵だっけ?
作者:いや、お芋らしいよ。だいたいカエルの卵って白いじゃん。どう見ても違うでしょ
身内:そうだっけ?
作者:そうだよ!w 前にもタピオカがブームになった時があって、その時は黒じゃなくて白かった(色付けしてなかった)みたいだけど……


次の話はこちら。


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