見出し画像

【MAZARIUM】「ダイバーシティからクロスオーバーへ」多様な価値観が混じり合うホテル「MAZARIUM」

岩手県盛岡市に本社を構えるヘラルボニーは、福祉領域の拡張を見据えた多様な事業を展開し、これらの社会実装を通じて「障害」のイメージ変容と、福祉を起点とした新たな文化の創造を目指しています。
2022年10月、盛岡市にヘラルボニーがアートプロデュースを手掛けるライフスタイルホテル「HOTEL MAZARIUM(マザリウム)」(以下、マザリウム)がグランドオープンしました。盛岡は当社代表の双子の松田崇弥・文登の出身地であり、ニューヨーク・タイムズ紙「2023年に行くべき52カ所」にも選ばれるなど、世界的にも大きく注目されている都市です。

盛岡バスセンターの再開発事業として担当したマザリウムは、いろんなひと、いろんな価値観、いろんなライフスタイルを地域の魅力とかけ合わせながら、新たな滞在体験を生み出し、地域を盛り上げていくことを目指しています。
マザリウムの魅力を、盛岡ローカルハブ 菅原氏、ホテルマザリウム 支配人 藤井氏、ヘラルボニーアカウントディレクター 泉が語り合いました。

Speakers
盛岡ローカルハブ 菅原 隆彦氏
ホテルマザリウム 支配人 藤井 直輝氏
ヘラルボニー アカウントディレクター 泉 雄太

ダイバーシティからクロスオーバーへ、マザリウムの目指す先

ー盛岡バスセンターを、ホテルを併設した商業空間に進化させた経緯を教えてください。

菅原氏:事業を通じて、持続可能な地域活性化を図りたいという思いがあったからです。盛岡バスセンターがある河南地区は魅力あるリソースで溢れています。戦後以降、小売業中心に栄えてきたものの、今後さらなる活性化を目指すには、小売業だけでなくサービス産業で地域のリソースを上手く活用していく必要があると考えました。そして、盛岡バスセンターをローカルハブ、つまり様々な魅力が繋がり、色々な人が交わる場所にしたいと話していました。
そんな中で、ヘラルボニーという起業したばかりの面白い会社があることを知り、そのアートの素晴らしさに触れ、声をかけさせてもらいました。ホテル建設に向けて様々な提案をいただいたのですが、「ダイバーシティからクロスオーバーへ」というコンセプトが、当初我々が検討していたローカルハブの構想と合致し、嬉しく思いました。岩手の既存の文化とヘラルボニーの新たな文化が混ざり合い、新たな価値を生み出すことができたと思います。

泉:今回、ホテルをデザインするなかでも、アートを活用した様々なオーダーメイドのインテリアは初めての試みで、ヘラルボニーにとって転機となるお取り組みでした。ヘラルボニーには、2000点以上の作品アーカイブがありますが、どんな作品がインテリアには最適かどうか、実際に作ってみなければ分からないことも多く、そういった点でチャレンジングな面白さがありました。

ヘラルボニーは、障害がある人々を取り巻く価値観を変えていくことを目指しています。それを長く続く“文化”を創ることだと考えると、ヘラルボニーが岩手という誕生の地に存在し続けることは、大きな価値につながると考えています。我々は、それを「岩手の “聖地” 化」と呼んでいるのですが、マザリウムがその足掛かりになったと感じています。


ーマザリウム建設中には、魅力的な仮囲いができていましたね。

泉:河南地区は文化的に非常に特色ある地域なので、それらを表現できるアウトプットにできればと考えました。1950年代の趣のあるバスセンターのデザインを踏襲したり、昔の資料を参考にして地域の歴史が分かる読み物も掲載するなど、面白い仮囲いが作れたと思います。オーダーメイドの仮囲いアートというのも、ヘラルボニーとしてはこれまでになかなかない事例だったので、新たなステップの1つになりました。

菅原氏:建設場所の地域の方々からは、建設中でも現場を明るくしてほしいという声があったので、仮囲いアートに加えて、建設会社に依頼し照明も付けました。一気に明るくなったと好評で、仮囲いアートを準備している段階から地元メディアの取材が入るほど注目されていましたね。工事期間中、新しい施設ができるというワクワク感をずっと作り続けられたように思います。

工事中に展示された仮囲いアート

宿泊料の一部がアーティストの報酬にーー宿泊者とアーティストを繋ぐ仕組みも

ーアートを使った客室というのはあまり前例のない取り組みだと思いますが、実際にお部屋に入った時の印象はいかがでしたか?

泉:すごく素敵でした、特に印象的なのはカーテンですね。部屋に対して面積が大きく、柄をかなり大胆に使っています。部屋によって異なるものの、ドアを開けた際に大きなアートが目に入るのは、ホテルならではの非日常の演出として素晴らしいと思います。どのお部屋も素敵ですが、個人的には特に昆弘史(こん こうじ)氏の部屋が好きです。

KIYOSHI YAEGASHI(テラスツイン)

菅原氏:開業直前に慌ただしく準備していた際、アート作品が続々と入ってきた時のワクワク感は、まるで学園祭の前日を思い出すかのようでした。窓を大きくとっているお部屋が多いので、カーテンを使ってその全面をアートにしました。存在感はあるものの、客室としても落ち着く空間に仕上がったと感じています。
全34客室のうち8室がアートルームですが、それ以外の全てのお部屋にアートパネルを展示しています。また、エレベーターを降りてすぐに7m幅の巨大タペストリーを飾っていますが、グレーと木目を基調とした空間に、アートがよく映えていると感じました。施設内の色々なポイントでヘラルボニーのアートに触れられますし、どのアートも空間にしっかり馴染んでいますよね。

藤井氏:最初に目に飛び込んでくるアートのカーテンやロールスクリーンは、お客様もそのインパクトに驚かれることが多いですね。飾っているクッションや椅子もアーティストのものなので、かわいいねとお褒めいただいています。
ヘラルボニーのファンというお客様も多いですが、なんとなくアートルームを予約してみたというビジネスマンのお客様もいらっしゃいます。良い部屋だったとお声かけいただきますし、客室をきっかけにヘラルボニーを知る機会にもなったようです。また、大浴場の暖簾やロビーのフロアマットなど、宿泊せずとも、バスセンターを見学しただけで見られるアートもあるのでおすすめです。

エントランスを彩るアート緞帳

ーマザリウムを障害の概念を変えていくための空間として展開すべく、アート作品以外にはどのような仕組みを取り入れたのでしょうか?

泉:宿泊料の一部がアーティストに支払われるという枠組みを設けました。盛岡バスセンター様に協力いただき、アーティスト報酬にできる仕組みをつくれたのは非常にありがたかったです。
今回、岩手県在住の8名のアーティストが8部屋の客室を彩り、各客室にはアーティストの名前が付けられています。様々なものが混ざっていくホテルとして考えた時に、宿泊者とアーティストの繋がりを生み出すには、地元のアーティストの採用は必要不可欠だと考えました。

アーティストが彩るアートルーム。宿泊すると1泊につき500円がアーティストの報酬になる。

ー担当したアーティストも実際に泊まりにきたそうですね。

藤井氏:直接アーティストの方にお会いすることができ、嬉しかったです。身振りや表情で、みなさんが非常に喜んでいらっしゃったように見受けられました。支配人として日々アーティストさんの部屋を管理させてもらっているので、大切にしていかなければと改めて感じました。

マザリウムにお招きしたアーティストの八重樫道代さん。支配人の頭を撫でてくれるほど心の距離が近づいている。

唯一無二の宿泊体験ができる、ライフスタイルホテル

ーそのほか、客室以外にも様々な価値観やライフスタイルが混ざり合う仕組みがあるように見受けられます。

菅原氏:色々な人との交流が生まれるよう、施設は全体的にフラットな作りにしました。また、客室数に対してかなり広いラウンジを設置しました。ヘラルボニーのアートを展示しており、訪れた方々から格好良いですねとよくお褒めいただきます。その後、「実はヘラルボニーという会社があって。」とお話をしたり、まさにローカルハブ、地域の掛け算を体現しているなと感じます。

また、世界的ジャズピアニストである穐吉敏子さんのジャズミュージアムがラウンジに併設されています。これは地元のジャズ喫茶の店主が穐吉さんの熱烈なファンであることから実現したのですが、多様性の中で生まれ、国籍や性別を問わず、その場のセッションで音楽を創り出すジャズは、まさにマザリウムという場に相応しい音楽だと感じています。

マザリウム完成直前には、完成後は自分たちの手から離れてしまうのかと寂しさを感じるほど、思い入れの強い場所になりました。

藤井氏:唯一無二の宿泊体験ができるホテルだと思います。アーティストの方々の想いも含めて、みなさんに伝えていければと考えて運営に携わっています。


ー施設を活用して、ローカルハブとして人々が集まる様々なイベントを開催できそうですね。盛岡、マザリウムのさらなる活性化を図る上で、今後取り組んでいきたいことはありますか?

泉:魅力のある街なので、地域の美術館やカフェなどを巡り、マザリウムに宿泊するというツアーを企画できれば嬉しいですね。また、マザリウムでは本格的なフィンランド式サウナも楽しんでいただけるので、サウナグッズのコラボレーションも行いたいです。

菅原氏:広いラウンジを活用したイベントが開催できればと考えています。盛岡の冬は寒さで人の動きが緩やかになりますが、そんな時期にヘラルボニーの展示会を行えたら良いですね。マザリウムといえばアート、ジャズ、サウナなので、それらをミックスして楽しんでいただければと思います。

藤井氏:ラウンジを利用した懇親会のお声がけが度々あるのですが、その際にヘラルボニーのアートを使った、岩手発「べアレン醸造所」のクラフトビールを提供できたら良いねとスタッフと話していました。屋上広場を活用したビアガーデンや、盛岡さんさ踊りにちなんだイベントも開催できれば、さらに盛り上がりそうですね。

ラウンジで行われた書籍発売イベントの様子

ー最後になりますが、マザリウムの目的である持続可能な地域活性化や小売業からサービス業への転換、ダイバーシティからクロスオーバーにといった当初のコンセプトは今後叶えられそうでしょうか?

菅原氏:マザリウムを目的に河南地区に来ていただき、周囲の飲食店などが活性化していくことが今後の目指すべき姿です。オープンから約5ヶ月と、まだよちよち歩きを始めたばかりのホテルですが、その芽は少しずつ着実に大きくなっていると思います。地域のみなさんと共に、じっくり育てていければと考えています。

藤井氏:旅のお手伝いをするために、満足して帰ってもらうまでお客様に尽くし、盛岡の発展に貢献していきたいと思っています。そのためにもより多くの方々にアートルームを知ってもらい、宿泊いただけるよう頑張っていきたいです。

泉:盛岡でも徐々に知ってもらえる機会が増えているので、少しずつ地域に貢献できているのではと思いますが、今後は県外、いずれは世界でもこのような展開をふやして行けたらと思っています。
マザリウムのように、文化や人が今後何十年も混ざり合い続ける仕組みを今後も創っていきたいです。


新規お取引に関するお問い合わせはこちら
ヘラルボニーでは、アートライセンスを軸に企業様のニーズに合わせた企画・プロデュース事業を展開しています。お気軽にお問合せください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?