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ケアしたい一票がある。ヘラルボニーが「#CAREVOTE 」で伝えたいこと

※本選挙におけるヘラルボニーの「#CAREVOTE」におけるアクションは、特定の政党・候補者を支持するものではありません。


選挙の真っ只中、ヘラルボニーが岩手日報に掲載したメッセージ

2022年7月8日。

今日、ヘラルボニーは、あるアクションを発信しました。岩手日報の朝刊に折り込まれたカラフルな紙面を広げると、目に飛び込んでくるのは「#CAREVOTE」のフレーズ。

7月10日の投開票日の2日前。世間はまさに、参議院選挙期間の渦中。

私たちヘラルボニーは、知的な障害のある作家や福祉施設と契約を結び、福祉のカルチャー化を目指す、岩手の小さな会社です。

なぜヘラルボニーが選挙権? 
知的障害のある人と投票って、関係ないのでは?

そう、思う方もいるかもしれません。

日本では、企業が政治についてアクションを発信すること、とくに選挙期間中の発信は、公職選挙法に抵触する恐れや、炎上のリスクを伴うことから避けるべきという風潮があり、あまり肯定的ではない文脈で受け取られることが多いように感じます。

私たちも、今日までに沢山の葛藤を抱え、自分自身のなかにある「選挙権」や「投票」というものへのバイアスに何度もぶつかり、そのたびにチームで議論を重ねてきました。

その上で、たとえリスクを負ってでも、福祉の可能性を拡げるために、ヘラルボニー「だからこそ」行動すべきと考えたのです。

このnoteでは、今回のアクションに込めた背景を伝えたいと思います。

私たちには、ケアしたい一票があります。


「当たり前」の一票のなかの、「当たり前じゃない」一票の存在

選挙で一票を投票する。
それは本来、誰にでも与えられている権利
——と、一般的に認識されている私たちの社会。

選挙期間中の日常の光景といえば、街中に候補者のポスターが掲示され、街頭演説が繰り広げられ、テレビでは政党党首による白熱した議論の様子が放送され、ネットは膨大な情報で溢れかえります。

「投票する」それはわたしたちにとって、ごく自然で「当たり前」のこと。

なぜなら、

当たり前に、情報を得ることができるから。
当たり前に、投票所に行くことができるから。
当たり前に、自分で投票することができるから。

だからこそ、選挙期間中の家族や友人との何気ない会話のなかに「今年の選挙に行くかどうか」の話題がのぼり、選挙の重要性に触れる発信のなかでは、「投票率向上」を呼びかける取り組みや意見も飛び交います。

当たり前に「できる」。それが “普通”。

けれども、本当にそうでしょうか。

「情報を得る」・「投票所に行く」・「投票をする」
それらの選挙権を行使するために欠かせないプロセスの
どれか1つにでも「できない」障壁があるとしたら。

ヘラルボニーが「#CAREVOTE」というアクションで可視化したいのは、「知的障害のある人」の投票と、そこに生じるさまざまな課題です。

彼ら・彼女らが投票権を行使するためには、さまざまな「むずかしさ」を乗り越えなければなりません。

選挙に関する情報を普段の生活のなかで受け取ることの「むずかしさ」、自分以外の家族や支援者、投票所での支えが必要不可欠となる投票方法の「むずかしさ」。

それらの「むずかしさ」から、そもそも知的障害のある人が「投票に行くかどうか」の議論すら、日常で生じにくいというのが現状です。

私たちが「当たり前」に行使できるものだと信じて疑わない選挙権は、本人とっては「当たり前ではない」権利として存在しています。

もちろん、投票に行くかどうかは本人の意思が何よりも尊重されるべきで、私たちのアクションも、投票率の向上や、投票に行くことを義務として訴えたいのではありません。

また、知的障害のある人に「正しい知識」をもって投票することを促したいものでもありません。

選挙権の行使を通じて政治に参加することができることは、人間としての尊厳が守られ、この国の主権者の一人として声をあげるための重要な権利です。

本来、生活そのものに政治(福祉施策等)の影響を受けやすいはずの人たちの「選挙権」が当たり前の選択肢として保障されていない状況を、社会側の認識を、ヘラルボニーは、変えたいと思いました。

そんな、私たちの思いに共鳴し、快く協力を引き受けてくれたのが、岩手県の新聞社として「岩手日報」を発行する岩手日報社と、知的障害のある人に向けてわかりやすい情報を発信している一般社団法人スローコミュニケーションです。


ケアしたい人たちと、ケアすべきわたしたちに向けて、届けたいメッセージ

選挙期間中、めまぐるしい情勢の変化の中で、さまざまな情報が飛び交っていますが、候補者やメディアを通じて、知的障害のある人に向けたわかりやすい情報発信をわたしたちが目にすることはほとんどありません。

一方で、海外や国内の一部の地域では、知的障害のあるひとのための街頭演説が催されたり、候補者と対話をするための公開討論会がおこなわれています。

そこにあるちがいは、「彼らは大切な一人の主権者である」

という、一人ひとりへの確かなリスペクトが当たり前にあるかどうかなのではないかと思いました。

「投票を行うことができない」のは、その人個人だけの問題なのか。
社会の側に障壁があるのなら、その障壁は、私たちの無意識な「知らない」「興味がない」「気づかない」が形づくってしまっているのではないか。

投票の機会そのものをケアをすることで、変えられる社会が、その先にあるのでは?

その第一歩の試みとして、私たちヘラルボニーは、新聞という多くの人が当たり前に目にする場に「#CAREVOTE」というメッセージと「やさしい投票ガイド」を、放つことにしました。

(画像:「#CAREVOTE」背景のデザインは、本アクションをきっかけに
社会に手を挙げ、声を届ける人たちの「手」をモチーフにしています)
(画像:「やさしい投票ガイド」)

#CAREVOTEの最初の実践として、今回私たちが制作した「やさしい投票ガイド」は、知的障害のある人が投票に行きたいと思ったときに参加するうえで役立つ情報をまとめたガイドです。

この「やさしい投票ガイド」は、今日発行された岩手日報の新聞の紙面や、印刷したもの(#CAREVOTEのWebサイトからダウンロードが可能です)
を投票所に持っていくことができます。

青色の左面は「字を書けなくてもてもよい」「メモを持っていってもよい」といった知的障害のある人が投票したいと思ったときに役立つ情報を、赤色の右面は、実際に投票所で係の人や周囲に指差しをして伝えるためのコミュニケーションボードとなっています。

この2つのアクションを新聞の紙面で発信するにあたり、これまでにスローコミュニケーションと一緒に知的障害のある人にとってわかりやすい文章や表現について考え、何度も何度も議論と検証を重ねてきました。

(画像:これまでの#CAREVOTE・やさしい投票ガイドの検証アーカイブ)

今回の「#CAREVOTE」や「やさしい選挙ガイド」で私たちがやさしい情報づくりのために意識した6つのポイントをガイドラインとしてまとめています。

(画像:やさしい情報づくりガイドライン)

これらの発信が、知的障害のある人が投票へ行きたいと思った時の一歩目のサポートとして、 障害のある家族の投票やそのケアについて考えるためのきっかけとして。

そして、「知的障害のある人」に向けただけではなく、 社会側が認知するきっかけとして、広く活用されることを期待しています。



「#CAREVOTE」に込めた思い

「#CAREVOTE」のなかにある「ケア (care) 」という言葉には「配慮すること、気にかけること」という意味があります。

「知的障害のある人の選挙権」を考えることを起点に、家族の投票についての議論のきっかけが生まれたり、私たち一人ひとりの選挙権についても、その1票を投じる機会が大切に保障されているかを考えるきっかけになれば幸いです。

選挙がみんなのものになっていない今を知ること、関心を向けること。

そこから、私たちの選挙がはじまります。


#CAREVOTEから、「ありのままの姿」を肯定する社会へ

知的障害のある人は「できない」から、投票することも「できない」のでしょうか。

それは違います。

 知的障害のある人は「できる」のに、投票をするには、あまりにも障壁があるため「できない」ことがあるのです。

“ケアしたい一票“があります。

言い換えるならば、

“ケアしなければならない一票“が、確かに存在しているのです。

だから私たちは、やさしい情報づくりで、やさしい社会の土台をつくることから、はじめたいと思います。

知的障害のある人の「一票」が現代社会に受け入れられることは「普通」を肯定する社会ではなく「ありのままの姿」を肯定する社会や文化の醸成に繋がっていくと、信じています。


ケアしたい一票がある。

#CAREVOTE


#CAREVOTEプロジェクトの特設Webサイトはこちら
https://heralbony.com/pages/carevote2022




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