見出し画像

150もの色彩で世界を構築する。ギャラリーの開幕を飾った木村全彦の制作背景に迫る。

去る4月26日、ヘラルボニーの岩手本社に新たに、障害のあるアーティストの作品を披露する「HERALBONY ART GALLERY」が誕生した。
クラウドファンディングを通して、オープンを支えて下さった全ての方に、この場で改めて感謝申し上げます。

そんな記念すべきギャラリーの幕開けを飾ったのは、京都府に在住の木村全彦(アトリエやっほぅ!!)さんだ。
彩度の高いあらゆる色彩を繰り出し、彼が独自に生み出した「キュニキュニ」と呼ばれる楔模様の筆致によって、一見平面的に見えつつも確かな空間が表現されている作品は、国内外で高い評価を得ている。
今回は、そんな木村さんと施設職員の中島さん(以下敬称略)の最新インタビューの様子をお送りする。どんなに評価されても、変わらず突き進む彼の姿勢を感じていただけたら幸いだ。
[インタビュー・執筆:カサハラリカコ(インターン)]

スクリーンショット 2021-06-10 9.33.25

アトリエやっほう!!の木村全彦さん(左)と職員の中島さん(右)

選び抜かれた「色鉛筆」という素材との出会い

——この度は原画展の開催、おめでとうございます。まず展示の感想を教えてください。
木村「楽しい!楽しかった!嬉しい!」

——今回は11点ほど作品を出されていますが、一番のお気に入りの作品はなんですか?
木村「…ベルニナ!

ベルニナ鉄道

ベルニナ鉄道
2015年製作

中島「木村さんはね、鉄道大好き。それまでこの辺(関西)の電車はたくさん描いてきたので、海外の電車に挑戦してみよういうことでネットで色々と調べていって、スイスのベルニナ鉄道がエンブレムや色がかっこいいということで一緒に選びました」

——木村さんは普段からたくさんの色彩を使われていますが、一番好きな色はなんですか?
木村「赤色!

——ギャラリーに飾られている作品には青色がメインで使われているようですが、お好きな色は…?
木村「赤色!!」

——なるほど。そこはやはり区別されているんですね。
中島「そうみたいですね。」

伏見稲荷赤門 (1)

伏見稲荷赤門

——既に色鉛筆で独自の路線を開発している木村さんですが、今のスタイルにたどり着くまでの経緯を教えてください。他に使われた画材はありますか?
木村「ボールペン!と、絵の具。クレヨン。ポスカ」

——結構紆余曲折があるんですね。
中島「やっぱり初めてここ(アトリエやっほう!!)に入ってこられて、色鉛筆にたどり着くまでは結構いろんな画材に挑戦してもらいましたね。初めは(水彩)絵具の水の量が多かったりして、シャバシャバになって、乾くのが待てなくて混ざって黒くなって…、本人的に使いにくいようだったので絵の具はやめて、クレヨンも試してもらって、でもクレヨンだと色数が少なくて…。色鉛筆は初め50種類くらいから始めてもらって、100、150って増えていった感じですね」

スクリーンショット 2021-06-09 10.30.26

美人画
2010年制作

——今は最大150種類も使われてるんですか?
中島「そうですね。そんな一気に全部は使わないですけどね」

——色々試していく中で、木村さんの気質としてスピード感を持って手数多く描かれるので、速乾性があって色数の多い色鉛筆が選ばれていったんですね。木村さんの絵画からは、色鉛筆なのに油画のような質感を感じます。筆圧がお強いんでしょうか?
中島「どう?優しく描いてる?」
木村「優しく!描いてます!」
中島「木村さんがそういうならそうなんでしょうけど、普通の画用紙に描くとしょっちゅう破れます。そのくらい筆圧は強いです。なので今はイラストボードに描いています」

あの絵も実は…?ショクヨクオウセイな制作秘話

画像6

伏見稲荷の小路

——普段の制作では、職員の方と一緒に写真を見ながらモチーフを決めると伺っています。職員の方のモチーフの選定基準や、木村さんが特に好きなモチーフを教えてください。
中島「題材は食べ物大好きですね。伏見稲荷の絵とかも、看板に反応して…」
木村「うどん!」
中島「うどんっていう看板に反応して、それで決めたお題で。実際よく食べますし。弟さんとお寿司屋さんに行って、50?70?皿食べたとか聞いたことありますよ。」

——建築物モチーフの絵が実は食べ物のなまえに反応しているとは思いませんでした。木村さんが一番好きな食べ物はなんですか? 
木村「ワッフル!
中島「ほんま?今回の作品関係なしですよ」
木村「お寿司!!
中島「あ、それ絶対そうですね。お寿司の作品も結構描いてますしね」「まだ「キュニキュニ」がない時代はお寿司のシャリを一粒一粒書いてました」

——下書きは描かれるのかどうか、構図はどうやって決めているのか等、制作の進め方についてお伺いします。
中島「実は今日からF50号の作品を描き始めたんですけど、下書きはしないんですよ。ある部分から書き始めて、そこからだんだん広がっていく感じ。だから大体クローズアップの構図になる。でも電車とか乗り物になると、イメージがあるのかちゃんと決まった構図になることが多いですね。前は右から描くとかもあったんですけど」

——モチーフによって進め方や構図が変わっていくんですね。作品を一枚制作するのにどれくらい時間がかかりますか?
中島「一日何時間くらいかかりますか?」
木村「四時間」
中島「一応9時から15時まではやってるんですけど、お昼食べたりしてたら四時間くらいになりますかね。ベルニナ鉄道は、何日くらいかかったっけ?
木村「15!」
中島「そうですね、大体2週間くらいだと思います」

職業画家としての自負を持って

——集中力は高い方ですか?
中島「ずっと集中して描いていて、でも休憩入る30秒くらい前になるとパッと片付けて、オンオフははっきりしていますね」

——ご自宅では描かれないんですか?
中島「絶対に描かないです。木村さんにとってはもう仕事なので、仕事場(施設)でしか絵は描かないです」

——自己管理がすごい、職人ですね。木村さんの普段のご様子についてお聞かせください。家では何をされていますか?
木村「手洗い、うがい

——さすが!!!素晴らしい!
中島「コロナの時代!そのあとは?」
木村「お風呂、テレビ」
中島「何見るの?」
木村「バラエティ」
中島「お笑いとか好きですね。今誰が好きなの?」
木村「…しずる、レーザーラモン。マジカルラブリー」
中島「そのあとは?ずっとテレビ見てるの?」
木村「アニメ。プリキュア!」
中島「寝るまでテレビ見てるの?iPadは?」
木村「iPad!!」
中島「動画は何見てますか?いつもの好きなグループを告白しましょう」
木村「Perfume!」
中島「好きなメンバーはよく変わりますけど、これはずっと変わりません」

——Perfumeのライブは行ったことありますか?
木村「京セラドーム。大阪」
中島「そうなの?初めて知った(笑)でもそんな感じでバラエティとかが大好きですね。タモリとか…」
木村「笑っていいとも!」
中島「いいともの作品も描きました」

スクリーンショット 2021-06-09 13.30.09

笑っていいとも
(2014年制作)

——最後に、ご来場されるお客様に一言お願いいたします。
木村「絵を描きました!見てほしいです!
中島「この間、親戚で集まった時、職業を聞かれて木村さんは『画家』と答えられたそうです。それぐらいの自負をもっておられます。今回は盛岡という木村さんも行ったことのない遠い地域で見ていただけるのは本当に嬉しいです」

スクリーンショット 2021-06-10 9.33.53

——ありがとうございました!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?