できるだけ高い頂上に立ってもらうために。
〜漫画家さんとのやりとりで気をつけていること。②〜
今回も新人編集あるあるから書いてみます。
僕も新人時代に思っていましたが、面白い話や素敵な絵を描ける漫画家さんは魔法を使えるような存在だと感じている人が多いのではないでしょうか。
今でもネームや原稿を見て「すげえなあ。なんでこんなの描けるんだろう」と驚嘆させられることがあります。
だけど、読者やファンの方にはぜひそのままそう思っていてほしいのですが、編集者がそう思ったままでいるとあまりよくないことがあります。
漫画編集者の大事な仕事の一つは、これからの漫画家さんたちを見つけ伸ばし売り出していくことだからです。
山の頂上を麓から眺めているだけでは役に立たない。
すごい漫画家さんに対して闇雲に「魔法を使えるような存在」「雲の上の存在」と思ったままでいると、どうやったらそこにたどり着けるのかという道筋がいつまで経っても分からないままでいることになります。
分からないままでいては、投稿者や若手の漫画家さんにアドバイス出来ることもほとんど増えません。
自然陥りがちなのが、自分に分かる範囲のことばかり言い続けるという状態です。
例えば「もっと丁寧に」とか、「もっと描き込んで」とか、「デッサンが崩れてる」とかです。また、国語(知識量的な意味で)は自分の方が得意という自意識があるので、やたらと表面上の言葉や「文章的」な直しをすることも多いです。
残念ですが、その程度の自分に分かる範囲のことだけ言ってても、なかなか漫画家さんの役には立てないし、漫画も面白くなりません。全部自分も昔やってたことなので、書いてて本気で恥ずかしいですけど(苦笑)。
悪くすると、何も具体的なことは言わず「漫画家として活躍したいならもっと頑張らないと」と根性論みたいなことに終始してしまうケースも目にすることがあります。
もっと悪いのが「漫画家として成功したいなら自分で努力して当たり前」だと思い込み、すごい漫画家さんに比べて全然頑張ってないと責めるだけのパターン。(面と向かっての場合と、心の中での場合とどちらもいます)
若い編集者にはよく言うのですが、もし僕が漫画家でそんなことされたら「成功するための努力の一環として、全力でその担当を替えてもらうか、よその編集部に行くか」します。
漫画家だけが努力すべきなら、我々は直ちにいらない人になってしまう。僕はそれは嫌です。
今回のケースも自分の身に置き換えてみると分かりやすいです。
「もっとちゃんと導いてほしい」「もっと前の担当さんみたいにしてほしい」「もっと頑張ってほしい」「全然頑張ってくれない」とばかり言われたらどうでしょうか。僕なら頑張れません。
自分に何かが足りていないのは分かりますが、人はそれだけでは頑張れないし、もし仮に頑張ったとしてもきっと望まれていない方向に頑張ってしまうことになり、何も伝わらず徒労感が増すばかりでしょう。
自分も自分なりに山を登ってみる。
とはいえ、漫画を描けない僕たちがどんなに頑張ってみたところで「漫画が上手くなる方法」を思いつくことなんて絶対にできません。
だから僕は漫画が上手い人に「どうやって上手くなれたのか」を聞きます。
すごい漫画を描けている人に「どうやったら描けるのか」を聞きます。
(もちろん、本などで勉強もしたうえでです。)
そして、知り得たことをどんどん投稿者や若い漫画家さんに伝え、一緒に考え試します。
実際に描くわけではありませんが、投稿者や若い漫画家さんと一緒に苦労していくと、段々体験として上手くいく方法が分かるようになっていきます。
試してみてよかったことは、逆に上手い人やすごい人に伝えます。上手い人やすごい人にも新たな発見になったり刺激になったりするし、その分また新たなことを聞けたりするからです。
それでまた新たに知り得たことは、また投稿者や若い漫画家さんに伝えてまた一緒に考えて試します。
直接描けはしないものの、そうやって、山登りに例えれば何度も上り下りするかのようにやりとりをしていくと、道に詳しくなることはできます。
どんな道が待っていて、どこまで行けばベースキャンプがあるのか。どんな装備を準備すればいいのか。それが分かるだけでも人は頑張れるものです。
編集者という仕事には色々な面がありますが、すごい漫画という高い頂を目指して行くのが漫画家さんだとしたら、僕たちはシェルパみたいなものだなとも思ったりしてます。
少しでも高い頂にたどり着いてもらうために、途中までは少しでも早く楽に登っていってほしい。途中といっても、できるだけ高い位置がいい。
そのために出来ることを少しでも増やしたいと思うので、「すげえなあ。なんでこんなの描けるんだろう」と思った時は、「なんでこれ描けたんですか」と聞くようにしています。
本当は単に聞きたいから聞いてるだけでもあるんですけどね(笑)。
ではでは。
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