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ゲート東京トロイメライ【高校生:T.W氏の変身文庫】



ゲート東京トロイメライ 【サウンドトラック】

第1章

目覚まし時計のけたたましい音が部屋中に響き渡る。重いまぶたをこじ開けて、枕元の時計を確認すると、午前5時を指していた。眠気を振り払ってベッドから起き上がると、部屋の狭さが改めて目に入る。古びたパソコンやハッキングツール、学校の教材が無造作に散らばっている様子は、まるで小さな戦場のようだ。まずは簡単なストレッチをして体をほぐし、顔を洗って簡素な朝食を取る。心地よい温かさが、冷たい現実を一瞬忘れさせてくれる。
窓から外を見下ろすと、ノースサイドの荒れ果てた街並みが広がっていた。巨大な壁が東西を隔て、富裕層が住む『サウスサイド』と、貧困と混沌が渦巻『ノースサイド』に分かれている『ゲート東京』。近未来のこの都市は、高度な監視システムに覆われ、行き来には厳重なセキュリティが設けられている。この街の現実は、まるで監獄のように閉塞感を感じさせるが、それでも希望を捨ててはいけないと自分に言い聞かせる。
 
机に向かい、電気工事士の資格試験の勉強を始める。参考書やノート、電気工事に関するツールが並ぶ机は、まるで怪しい実験のようだ。集中して勉強に取り組む。問題を解き、メモを取りながら、真剣な表情で取り組む自分を感じる。時間が経つにつれ、少しずつ自信が芽生えてくる。手が動くたびに、未来が少しずつ見えてくる気がする。
 
学校へ向かうためにノースサイドの雑踏を歩く。道中、荒廃した建物やスラム街の光景が目に飛び込んでくる。空気には排気ガスの匂いが漂い、路上にはゴミが散乱している。途中で友人のサクラとレンジが合流し、一緒に学校へ向かう。彼らと学校生活や将来の夢について話しながら歩くと、少しだけ心が軽くなる。
「泰生、サウスサイドの生活って、どんな感じなんだろうね」とサクラが夢見るように言う。 「たぶん、毎日がパーティーだろうな」とレンジが冗談めかして笑う。 「俺たちも頑張れば、あっちで暮らせる日が来るさ」と自分も励ますように言う。
教室に到着し作業制服に着替え、実習室へ向かう。先生が実習の指示を出し、生徒たちはそれぞれの作業に取り掛かる。配線作業に取り組むと、手元に集中することで周囲の雑音が遠のいていく。先生が「渡邊、よくできてるぞ」と褒めてくれると、ほっとした気持ちと少しの自信が心に広がる。
昼休み、学校の屋上でサクラとレンジと共に昼食を取る。冷たい風が吹き抜けるが、それが逆に心地よい。サウスサイドでの生活への憧れを語り合う時間が心地よい。
「見て、この新しいツール。これならどんなセキュリティも突破できるんじゃない?」とサクラが興奮気味に言う。 「俺も新しい暗号解読の手法を試してみたんだ」とレンジが自慢げに話す。 彼らの話を興味深く聞きながら、自分も何か役に立てることがあればと思う。
 
放課後、学校から帰宅する途中、やはりノースサイドの厳しい現実に直面する。道端に座り込むホームレス、壊れた窓ガラス、朽ち果てた建物。家に着くと、すぐにネットフィッシュとしての活動に取り掛かる。パソコンの前に座り、インターネット上の闇市にアクセス。依頼されたハッキングの仕事をこなす。
依頼内容を確認し、必要なツールを準備する。画面には高度なセキュリティを突破するためのコードが並ぶ。冷静かつ迅速に作業を進め、依頼を成功させる。報酬を受け取り、満足げに微笑む。そうやってスレスレギリギリの毎日を、自分なりに謳歌している。
一日の疲れを感じながらも、達成感に満たされている。ベッドから窓の外に広がるノースサイドの夜景を見つめながら、ハマっているバンドの音楽とその世界観に、心と感覚ごと没入する。疲れとストレスを打ち消しながら、サウスサイドでの新しい生活を夢見て、ゆっくりと目を閉じる。夜景はまるで、夢と現実の狭間にある境界のようだ。明日もまた、同じような一日が待っている。でも、いつか必ず、この壁の向こう側へ行けると信じている。
 
狭い部屋でサクラとレンジと過ごす時間は、いつも心地よい。部屋の壁には、未来の夢や計画が書かれたメモが所狭しと貼られている。サクラがネットで見つけたサウスサイドの写真を見せてくる。
「これが本当の生活ってもんだよね、泰生」とため息交じりに言うサクラ。写真の中の豪華な街並みや、きらびやかな建物がまぶしい。
「そうだな。でも、俺たちには無理かもな」とレンジが冗談めかして言うが、その目には本気で憧れる光が宿っている。サクラの見せる写真を見て、自分もその未来を夢見ていた。
 
その時、突然携帯が鳴った。尾根公香からの連絡だった。驚きつつも電話を取る。
「もしもし、泰生?今、時間ある?」公香の声が耳に届く。彼女との出会いや経緯が頭に浮かぶ。以前のことだ。ノースサイドでの仮想通貨偽造の仕事を請け負ったとき、初めて仮想通貨のウォレットを作成する必要があった。初めての大規模な仕事で緊張していたため、手が震えていた。ウォレットの生成や仮想通貨の移動には高度な技術が必要で、初めて直面する複雑な手続きに戸惑っていた時、突然現れたのが公香だった。
「お困りのようね」と声をかけてきた彼女は、まるで待ち構えていたかのように現れた。彼女はすぐにウォレットの生成手順やセキュリティの強化方法を指摘し、自分を導いてくれた。その仕事が成功したことで、彼女とは連絡を取り合うようになった。彼女はコネクターで、情報や仕事を仲介する仕事をしている。日和見主義で、状況次第で有利な側に着く。手のひらを返すようなこともあるが、彼女の仕事の質と広い人脈は評価している。自分の保身を第一に考えて動くことを知りつつも、彼女からの情報が有益であるため、関係を続けている。
「ちょうどいい仕事があるんだけど、どう?」公香が続ける。
「どんな仕事?」と訊ねる。
「三雲コーポの重要なデータを盗み出す仕事。成功すればサウスサイドに移住するための資金が一気に手に入る」と説明され、胸が高鳴る。一瞬ためらうが、サウスサイドへの移住資金という誘惑に勝てず、引き受けることを決意した。
 
電話を切った後、サクラとレンジに協力を求めることにした。二人はリスクを承知の上で協力を約束してくれた。
「これは私たちの大チャンスだ」とサクラが意気込む。
「成功すれば、夢が現実になる」とレンジが期待を込めて言う。
三人で具体的な計画を練り始めた。情報収集から始めることにし、三雲コーポの組織図やセキュリティプロトコルについて調査した。次に、サクラが物理的な侵入の計画を立てる。彼女は三雲コーポの建物の地図を入手し、警備パターンを分析して最適な侵入ルートを見つけ出した。
レンジは暗号解読の準備を進めた。彼は最新の暗号化技術に関する資料を読み込み、必要なツールを準備する。彼の手は常に動き続け、休むことを知らない。
「俺がまずデータの入口を探る。サクラがその間に侵入ルートを確保。レンジはデータを解読しながら進行状況をサポートする」と説明する。各々の役割を明確にし、それぞれが持つスキルを最大限に活かす計画を立てた。連携が成功の鍵だ。
夜が更けるまで作戦を練り続けた。外の冷たい風が窓を叩く音が聞こえる。ノースサイドの厳しい現実が目の前に広がっているが、それでも希望を捨ててはいけない。サウスサイドでの新しい生活を夢見ながら、準備を進める日々が始まった。

第2章


 可能な限り、三雲コーポの情報を集めることにした。レンジが持ってきた古いラップトップが、部屋の薄暗い照明の中で青白く光っている。インターネットで企業の概要や組織図、セキュリティプロトコルを調査しながら、キーボードをカタカタと叩く。
「三雲コーポって本当に厳重だな」とつぶやき、画面に表示された複雑なセキュリティシステムの概要を見てため息をつく。
サクラは地下ネットワークを駆使して物理的なセキュリティ情報を探し、建物の地図や警備パターンを入手するために目を凝らしている。指先がキーボードをすばやく打つ音が心地よいリズムを刻む。
「この地図、かなり古いけど使えるかも。警備のパターンも見つけたけど、これが最新の情報かどうかはわからない」とサクラが少し不安げに言う。
レンジは暗号解読の方法をリサーチしながら、必要なツールとスクリプトを準備している。机の上には、資料やノートが散乱し、彼の集中力が感じられる。
「これなら、あらゆる暗号も突破できる。少し時間はかかるかもしれないけどね」とレンジが笑いながら言う。
三人が集まり、集めた情報を基に作戦会議を開く。自分がデジタル侵入の手順を説明し、サクラが物理的な侵入ルートを示し、レンジがデータ解読の手順を詳しく説明する。各自の役割を確認し、タイミングや連携の重要性を強調する。
「だけど、まだ何か足りない気がする…」と心の中でつぶやく。全てのピースが揃っていない感覚が拭えない。
 
次の日、テックメディアで『企業が廃棄したルーターが、初期化されずに中古市場で流通してしまっている』という記事を見た瞬間、閃いた。これならば、内部情報にアクセスできるかもしれない。
中古市場に赴き、初期化されていないルーターを探すことにした。市場は賑やかで、様々な商品が並ぶ中、電子機器の店をいくつか訪れる。最終的に条件に合うルーターを見つけたとき、心臓が高鳴った。
店主との交渉が始まる。
「このルーター、いくら?」
「少し古いが、五千円だ」
「なら、三千五百円でどう?」と交渉を持ちかけ、なんとか自然に振る舞いながらルーターを手に入れる。
ルーターを自宅に持ち帰り、解析を始める。レンジが技術的なサポートを行い、サクラが物理的なセキュリティ対策を見守る。
「こっちの端子を繋げて…そう、次にこれをスキャンするんだ」とレンジが指示を出す。
ルーターから内部ネットワーク情報やVPN認証情報を抽出する作業が進むにつれ、成功への期待が高まる。企業へのハッキングが格段に容易になることを実感する。タイムラインと各自の役割を再度確認し、連携の重要性を強調する。
「自分たちならやれる」と心の中で言い聞かせる。緊張感が高まりつつも、成功への意気込みが感じられる。
 
各自が個別に精神的な準備を行う。自分の部屋で音楽を聴きながらリラックスし、サクラが静かな場所で呼吸を整え、レンジが別部屋でヨガ瞑想をする。それぞれが明日への決意を固め、最終的な準備を終える。夜が更ける中、全員が新しい一日に向けて休息を取る。
 
緊張がピークに達する中、三人が指定の時間に集合する。部屋の薄暗い照明の下、各自の道具と装備をチェックする音が響く。パソコンの前に座り、深呼吸を一つ。サクラは工具を手に取り、レンジが持ってきた最新の暗号解読ツールを確認している。
「準備はいいか?」と問いかける。
サクラが頷きながら、「いつでもいけるよ」と自信満々に返す。レンジも「準備万端さ、やっちゃおうぜ」と笑顔で応える。
最初のステップはデジタルセキュリティの突破。パソコンに向かい、セキュリティシステムに侵入を試みる。画面に流れる無数のコードが青白く輝く。緊張で手汗がにじむが、集中を切らさずに続ける。
同時に、サクラが建物の外で監視カメラの死角を利用して進行する。薄暗い路地を慎重に歩き、警備員の動きを見極めながら鍵のピッキングを行う。彼女の動きは猫のようにしなやかで無駄がない。
レンジは暗号解読の準備を進めつつ、自分とサクラのサポートを行う。「こっちのコードが怪しいな。注意して進めて」とアドバイスを送る。
最初は順調に進んでいたが、突然、想定外の事態が発生する。セキュリティシステムの強化に直面し、侵入が失敗。システムがアラートを発し、赤い警告ランプが部屋を染める。画面に「侵入検知」の文字が大きく表示され、警告音が鳴り響く。心臓が一瞬止まるような感覚に襲われる。
「やばい、撤退だ!」と叫び、すぐに行動に移る。サクラは近くの物陰に身を潜め、警備員の足音が近づく中、息を殺してじっと待つ。影が過ぎ去るのを確認し、安全を確かめてから静かにその場を離れる。
レンジは即座にパソコンの画面を操作し、データの痕跡を消去する。「すぐに消すから、もう少し待って!」と焦りを抑えつつも冷静に対処する。データを消し終えると、全員で一気に撤退を開始する。
 
何とか無事に集合場所に戻り、全員が安堵の息をつく。心臓がまだドキドキと速く打っているのを感じながら、「全く…こんなに厳重とは思わなかった」と息を切らしながら言う。
三人が作戦の失敗を振り返ることにした。自分のミスを認め、「セキュリティが想定以上に強化されてた」と説明する。サクラが「警備の動きは予想通りだったけど、内部はもっと複雑だった。追加の情報が必要だね」と報告する。
レンジも「暗号解読の進捗は悪くないけど、もう少し時間が欲しい」と共有する。全員が納得し、次のステップに進むことにした。
 
公香に連絡を入れ、失敗を報告しつつ、再挑戦のための追加情報を求める。電話越しに、「失敗したが、次は必ず成功させる。そのために、もっと詳細な情報が必要だ」と伝える。公香との連絡はいつも緊張する。彼女の反応が予測できないためだ。
「セキュリティが想定以上に強化されてたんだ。公香の情報は正しいのか?」と問いかける。彼女の日和見主義を知っているため、公香が他の誰かにも情報を売ったのではないかと疑念が頭をよぎる。
返答は少し間があってからだった。「分かったわ。私の情報が不完全だったのかもしれない。でも、これで私の信頼を疑わないでね。追加情報を送るから、それを基に再計画を立てて」とのことだった。彼女の声は冷静で、期待と失望が入り混じっているように感じられる。
 
新たな情報が送られてくると、すぐに三人が再び集まり、失敗からの学びと公香からの追加情報を基に改善策を話し合う。「次回はセキュリティの強化点に焦点を当てて進行しよう」と提案する。
「うん、警備の動きも細かく確認して、新しいルートを考える」とサクラが補足する。「暗号解読の部分も改良する。次こそは絶対に成功させる」とレンジも決意を新たにする。
「次こそは成功させよう」と言い、全員が頷く。チームの絆が深まり、次回の作戦に向けた意気込みが高まる。

第3章


 再び三人で集まり、新しい情報をもとに最終計画を確認する。レンジが持ち込んだ最新の暗号解読ツールが部屋の中央に広げられ、サクラが広げた地図に目を走らせる。全員の顔に集中の色が浮かび、緊張感が高まる。
「これが最新の警備パターンだ。ここが死角になるから、このルートで侵入する」とサクラが指差しながら説明する。彼女の声は冷静で、自信に満ちている。
「暗号解読にはこの新しい手法を使う。これなら時間を短縮できるはず」とレンジが補足する。彼の目は輝き、計画の成功に対する期待が高まる。
各自が装備を再チェックし、必要なツールを揃える。自分のデジタルセキュリティ突破用のプログラムを最終確認し、サクラが物理的な侵入ツールを整理する。緊張と期待が濃く入り混じった空気の中、全員が集中力を高める。
 
準備が整った。深夜の静寂が周囲を包み込む中、再び行動を開始する。レンジは近くの廃ビルの一室を拠点に、自分は地下のサーバールームに身を置き、そこからサクラに遠隔で指示を送り、セキュリティの監視を行う。
サーバールームのパソコンに向かい、デジタルセキュリティを突破するためのプログラムを実行し、システムの穴を探る。「ここだ、セキュリティの弱点を見つけた」とつぶやき、プログラムを走らせる。画面に次々と表示されるコードが青白く輝く。レンジがリアルタイムでサポートし、コードの解析を行う。
「こっちのコードが怪しいな。注意して進めて」とアドバイスを送る。レンジが複数のモニターを操作し、サクラの進行を監視する。
サクラが監視カメラの死角を利用しながら建物に接近する。薄暗い路地を慎重に歩き、警備員の動きを見極めながら電子ロックの開錠を始める。彼女の手は迅速で正確に動き、数分でドアを開けることに成功する。
「ドアが開いた。進入開始」と無線で伝える。胸の鼓動が速くなり、緊張が高まる。建物内に入ると、独特の無機質な匂いと冷たい空気が、モニター越しにも伝わって来る。静寂が一層の緊張感を生み出す。
サクラが建物内に進入し、無線で進行状況を報告する。「警備員が一人、右側の廊下をパトロールしている。慎重に進むわ」と低い声で伝える。彼女の動きは影のように静かで、足音一つ立てない。
セキュリティシステムを一時的に無効化し、サクラが安全に進行できるようにサポートする。「こっちのルートはクリアだ、進んで」と指示を送る。画面上の地図とサクラの動きを照らし合わせながら進行する。
レンジは暗号解読の準備を進めながら、チーム全体の連携を監視する。「進捗は順調だ。気を抜かずに行こう」と励ましの声をかける。彼の手も忙しく動き、次々とデータを解析していく。
サクラが目的の部屋に到着し、内部のセキュリティを突破する。「今から内部に入る。準備して」と無線で伝える。リモートでサポートし、システムにアクセスするためのコードを送信する。
レンジが暗号化されたデータを解読し、必要な情報をダウンロードする。「データの転送開始。約10分で完了する」と冷静に伝える。全員が集中して作業を進め、緊張の中で成功への一歩を踏み出す。
データの取得が完了すると、各々が撤退の準備を始める。「撤退開始、慎重に行こう」と指示を出す。サクラが安全なルートの確保を始め、レンジがデータの痕跡を消去する。タイムラインに沿って計画通りに進行する。
サクラが、建物からの脱出を開始する。「クリア」と囁き、警備員に気づかれないように慎重に進み、監視カメラの死角を利用して移動する。廊下の壁に耳を当て、警備員の足音を確認する。
自分とレンジも迅速に行動し、彼女の脱出に続く。それぞれが無事に建物を離れ、集合場所に到着する。集合場所でデータの確認を行い、任務の成功を確信する。
「やったな、これで一歩前進だ!」と喜びを隠しきれずに言う。全員が安堵の息をつき、成功の喜びを分かち合う。
「次のステップについて作戦会議!これが始まりだね!」とサクラが微笑む。三人が成功の気持ちを露にする。
 
データ解析のために、レンジがパソコンに向かい、タイピングの音が部屋に響く。画面に映し出された暗号化されたデータを次々に解読していく様子を見守る。サクラも一緒にスクリーンを覗き込み、彼の作業を手伝う。部屋の中は緊張感に包まれている。自分の心臓もドキドキと早鐘のように鳴り響いていた。
「これ見て。ここに何かある」とレンジが声を上げた。画面にはノースサイドの住民に関するデータが表示されている。詳細なリストには、住民の健康状態や実験内容が記されていた。震える手でマウスを操作し、さらに深く掘り下げていく。
 
データの中に、具体的な実験の内容が記されているファイルが見つかる。そこには、ノースサイドの住民がどのように捕らえられ、どのような実験が行われたかの詳細が書かれていた。実験は新薬の試験、遺伝子操作、さらには脳へのインプラント技術のテストまで、多岐にわたっていた。そのすべてが、サウスサイドの富裕層向けの治療法や延命技術の開発に利用されていた。
「こんなことが…信じられない」と呟く。データには、ノースサイドの住民が秘密裏に人体実験の対象にされていたことが明記されていた。この実験が、サウスサイドの富裕層向けの高価な治療法の基礎となっていることに気づく。これがどれほどの人々の命と尊厳を踏みにじった結果であるかを思うと、胸が締め付けられるような痛みを感じる。
「これは…許せない」とサクラが震える声で言う。彼女の目には怒りと悲しみが交錯している。データには、具体的な被害者の名前や症例がリストアップされており、彼らの痛ましい運命が記録されていた。その中には、サクラが知っている人の名前も含まれていた。自分も同じ気持ちだった。ノースサイドの人々が、富裕層の利益のために犠牲になっている現実に、胸が締め付けられるようだった。彼らはただ生きるために日々を過ごしているだけなのに、その命がこんな形で利用されていたことに、深い憤りを感じる。
 
さらにデータを調べていくと、三雲コーポの常務取締役である倖田雅臣の名前が頻繁に登場する。彼がこの計画を主導している証拠が次々と見つかる。倖田の指示で行われた実験の詳細や、彼が承認したプロジェクトの記録が次々と表示される。彼の冷酷で計算高い性格が、これらの非人道的な実験を推進していたのだ。
「倖田…」と名前を呟きながら、彼の経歴に目を通す。倖田は若い頃、失敗や挫折を繰り返し、その都度立ち上がってきた人物だった。彼の過去には、多くの人を裏切り、犠牲にしてまで野心を燃やし続けた記録が残っている。倖田は自分の成功のためには手段を選ばず、多くの無実の人々を踏み台にして現在の地位を手に入れたことが明らかになる。
倖田の経歴には、彼がいかにして現在の地位に登り詰めたかが詳しく記されている。彼は若い頃、いくつかのプロジェクトで失敗し、会社の信頼を失った。しかし、その度に巧妙な策略を駆使して責任を他者に転嫁し、自分は無傷で切り抜けてきた。彼の冷酷な手法は、多くの同僚や部下を犠牲にし、その結果、彼は会社内で強力な権力を握るようになった。彼の野心は底知れず、成功のためにはどんな手段も辞さない姿勢が明らかになる。
 
「この男が…全ての元凶か」と怒りが込み上げてくる。倖田の顔が頭に浮かび、その冷酷な笑みが自分を苛立たせる。彼の野心と権力欲が、多くの無実の人々を苦しめていることに、言い知れぬ憤りを感じる。彼の行動がどれほどの人々の命を犠牲にしてきたかを考えると、怒りで体が震える。彼の成功の裏には、無数の命が踏みにじられ、絶望に追いやられた人々がいることを知り、その重さに圧倒される。
 
「何とかしなければならない」と決意が固まる。単にサウスサイドへの移住を目指すだけではなく、ノースサイド全体を救う責任を感じ始める。この真実を暴露し、三雲コーポの悪事を世間に知らしめる必要がある。
サクラとレンジに目を向ける。彼らも同じ決意を持っているのが分かる。自分たちはこの事実を公にし、ノースサイドの人々を救うための計画を立てることに決めた。
「これからどうする?」とサクラが訊く。
「まずは、全ての証拠を整理しよう。そして、尾根公香にも協力を仰ごう。彼女の人脈を使って、メディアやSNSを通じてこの情報を拡散するんだ」と答える。
「わかった。準備を始めよう」とレンジが応じる。彼の目には決意の光が宿っている。
全員がそれぞれの役割に戻り、準備を進める。データの整理、証拠の集め方、拡散の方法。やるべきことは山ほどあったが、自分たちの心には一つの目標があった。ノースサイドの未来を守るために、そして倖田雅臣の悪事を暴くために。
この瞬間から、自分たちの戦いが本格的に始まった。

最終章


 三人が部屋に集まり、データの山に囲まれて対策会議を始める。レンジがパソコンの画面に映し出したデータを一つ一つ確認し、サクラがその内容をノートに書き留めている。自分も一緒に、データの分析を手伝いながら、これからの計画を練る。
「まずは証拠を整理しないと。公香にも連絡を取って、協力を仰ごう」と言う。
レンジが頷きながら、「彼女の人脈を使えば、メディアやSNSでの拡散が効果的にできる」と補足する。
サクラが手を止めて、「でも、公香を完全に信用していいの?」と疑問を投げかける。彼女の目には警戒心が浮かんでいる。
「確かに心配だけど、今は彼女の協力が必要だ。しっかり監視しながら進めよう」と答える。
電話を手に取り、公香に連絡を入れる。緊張が走る。彼女の反応が予測できないためだ。しばらくのコール音の後、公香が出る。
 
「泰生、どうしたの?」と落ち着いた声が耳に届く。
「公香、重要な話がある。三雲コーポのデータを手に入れた。あの会社の悪事を暴露するために、公香の協力が必要だ」と伝える。
一瞬の沈黙が続いた後、彼女の声が少し震えて、「それは大変なことね。でも、私にはリスクが大きすぎるかもしれない」と答える。公香の声には不安と戸惑いが感じられる。
「分かっている。でも、公香の広い人脈があれば、メディアやSNSを使ってこの情報を効果的に拡散できる。これが成功すれば、多くの人々を救えるんだ」と説得する。公香の助けがなければ、この計画は実現不可能だ。
公香はため息をつき、「わかったわ。でも、慎重に進める必要がある。これ以上の失敗は許されないから」と渋々承諾する。彼女の言葉にはまだ疑念が残っているが、具体的な計画を話し合い、協力を得ることに成功する。
数日後、公香と再び連絡を取り、具体的な証拠の整理と拡散の計画を立てるための会議を行う。公香が持ってきた資料を見ながら、三人で詳細を詰める。しかし、公香が突然態度を変え、三雲コーポ側につこうとする兆しを見せた。彼女の顔には不安と焦りが浮かんでいる。
「公香、何を考えているんだ?」と問い詰める。
「三雲コーポからの圧力が強すぎるのよ。最近、匿名の脅迫状が家に届いたり、家族に危害を加えると言われたりしているの。私だって生き残るために手段を選ばなきゃいけないの」と彼女が答える。公香の声には揺れ動く感情が感じられ、彼女の目には焦りと恐怖が浮かんでいる。彼女の震える手がその緊張を物語っている。
「そんなこと言って、公香は一体どちらの側にいるんだ?俺たちの計画に参加する気があるのか、それとも裏切るのか?」と苛立ちを隠せない。
サクラも怒りをあらわにし、「私たちの信頼を裏切るつもり?それがどれだけの人々の命に関わるか、考えたことがあるの?」と問い詰める。
公香は目を逸らしながら、「ごめんなさい。でも、これ以上は…」と言いかけたところで、レンジが冷静に口を開く。「公香、公香の協力がなければ、たくさんの人々が苦しみ続けるんだ。今、公香が選ぶべきはどちらか、もう一度考えてみてくれ」と説得する。彼の言葉は真剣で、彼女の心に届いていることがわかる。
 
しばらくの沈黙が続く。公香は目を閉じ、深く息を吸い込む音が聞こえる。彼女の顔には苦悩の色が浮かんでいる。部屋の中の空気が重く感じられ、全員が彼女の答えを待つ緊張感に包まれる。
「分かった。協力するわ」と、ようやく口を開いた公香は、小さく震える声で言った。その声には、決意と共にまだ残る不安が感じられる。彼女の目には、完全な安心感は見受けられない。
「本当に?」と問い返す。公香の言葉が信じきれない自分がいる。彼女の過去の行動や、三雲コーポの圧力を考えると、彼女が再び裏切るのではないかという懸念が拭えない。
「ええ、本当に」と公香が力を込めて答える。「あなたたちが正しいことをしようとしているのは分かる。でも、私の命が危険にさらされることも忘れないで。だから、慎重に進めてほしいの」と続ける。彼女の言葉からは、自己保身の気持ちと正義感が入り混じっているのが分かる。
サクラが一歩前に出て、公香の肩に手を置く。「分かった。公香、あなたの不安も理解してる。でも、私たちがしようとしていることは、多くの人の命を救うためなんだ。あなたの協力がなければ、実現できないのよ」と優しい声で説得する。
レンジも加わり、「俺たちは公香を裏切らない。だから、公香も俺たちを信じてほしい」と言う。彼の目には真剣な光が宿っている。全員が彼女を支えるためにここにいることを示すため、彼の手が軽く公香の手を握る。
公香はもう一度深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。「ありがとう。みんなの気持ちはよく分かったわ」と、彼女の声は少し落ち着きを取り戻している。しかし、完全に安心しきっているわけではないことは明らかだ。
それでも、公香の協力がなければ成し得ないことが多く、彼女の協力が成功の鍵となることを全員が理解していた。
 
具体的なコンテンツを作成する作業に取り掛かる。被害者の証言動画やインフォグラフィックを用いて、視覚的に訴えるコンテンツを作成し、SNS上での拡散を目論んだバイラルキャンペーンの準備を進めた。
「これで視覚的なインパクトを与えられるはずだ」とサクラが言う。
レンジも賛同し、「うん、これなら多くの人々に真実を伝えられる」と頷く。
公香の広い人脈を活用して、信頼できるジャーナリストや影響力のある人物にコンタクトを取り、リーク情報の信憑性を高めることを目指す。彼女が持っている連絡先のリストは膨大で、それぞれがメディアやSNSで大きな影響力を持つ人物ばかりだ。
「このジャーナリストたちは信用できる。彼らに情報を提供すれば、確実に世間に広まるだろう」と公香が言う。
具体的なタイムラインを設定し、情報公開のタイミングを計画する。どのメディアにいつ情報を提供するか、どのSNSプラットフォームでどのタイミングで拡散するか、細かくスケジュールを組み立てる。
「すべての証拠を整理し、公開タイミングを慎重に計画しよう」と言いながら、最終準備を進める。証拠は三雲コーポの不正を明確に示すものであり、公開タイミングを計画することが重要だ。
この計画が成功すれば、三雲コーポの悪事を世間に知らしめることができる。そして、ノースサイドの人々を救うための第一歩を踏み出すことができる。
 
証拠を整理し、信頼できるジャーナリストたちに送信すると、すぐにニュースとして取り上げられた。ニュースキャスターが画面に映り、冷静な口調で三雲コーポの不正行為を報道する。映像には、ノースサイドの住民が秘密裏に人体実験の対象にされていることが示され、視聴者の目には冷たい現実が突き刺さるようだった。胸が高鳴る。テレビの前で固唾を飲みながら見守る。信じがたい事実が明らかになると、手のひらに汗が滲む。
ニュースは瞬く間に広がり、三雲コーポに対する世間の厳しい視線を感じる。メディアの反応を見守りながら、さらに詳細な追加情報を提供し、拡散を加速させる。公香が協力してくれた。彼女の人脈を駆使して、被害者たちとのインタビューを手配。リアルタイムでライブ配信し、SNSやメディアへの再拡散を試みる。具体的な被害者の声が広がり、注目が集まるのを待ち構える。
真実を伝えるために、緊張感が高まる中、シークレットイベントを開催することにした。会場には信頼できるジャーナリストや市民が集まり、スクリーンに映る証拠映像を見つめる。プレゼンテーションやライブパフォーマンスを通じて、詳細な説明を加える。
「みんな、これが現実だ!」とスクリーンに映る証拠を指し示す。
映像には、実験の様子やその結果として苦しむ住民たちの姿が映し出される。住民たちがカメラの前で涙ながらに語る証言や、治療の副作用で苦しむ姿が次々と流れる。視聴者たちはその場で息を呑み、会場の空気がピリピリと張り詰めるのを感じる。背筋が凍るような静寂の中、心臓の鼓動だけが響く。
イベントが終わると、ニュースはさらに広がり、世論が三雲コーポに対して厳しい目を向けるようになる。ノースサイドの住民たちも声を上げ始め、被害者としての証言が注目される。これにより、さらなる情報が公にされる。住民たちが実験の被害者としての声を上げる様子を見て、心が痛む。しかし、これでようやく正義が果たされると思うと、胸が熱くなる。
 
倖田雅臣も追い詰められる。メディアや世論からの強い批判を受け、地位を失う。彼の行動が公に非難され、会社からの追放や法的措置が取られることが決定する。ニュース番組では、彼の冷酷な決断と非人道的な行為が次々と暴露される。倖田は何度も反論を試みるが、圧倒的な証拠の前には無力だ。法廷での審議や記者会見の様子が流れ、彼の顔に浮かぶ苛立ちと焦りが痛々しい。彼は最終的には孤立し、失墜する。彼の冷笑が頭に浮かぶたびに、怒りと共に達成感が広がる。
 
ノースサイドの復興に向けた計画が始まる。サウスサイドへの移住を断念し、得た資金をノースサイドの復興に使うことを決意。違法増改築の長屋を新築し、住民たちに安全な居住空間を提供するための具体的な計画を立てる。仲間たちと共に新しいコミュニティを築き、ノースサイドの未来を切り開くために歩み始める。
新しい長屋が完成し、住民たちが感謝の言葉を述べる姿を見て、胸が熱くなる。「本当にありがとう」と涙を流しながら感謝する老人、「これで安心して暮らせる」と笑顔を見せる子供たち。新しい家が建ち並び、明るい未来を感じさせる光景が広がる。仲間たちと共に未来を見据え、これからの挑戦に向けて心を一つにする。「これが始まりだ」と胸に強く誓って。
 

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