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地方創生はなぜ必要か?

はじめに

地方創生という言葉に注目が集まった年といえば、2014年ではないでしょうか?

2014年は、地方創生担当大臣が新設され、「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、「まち・ひと・しごと創生本部」が設置されるなど、地方の活性化に脚光が集まりました。

しかし、その背後にある「地方創生がなぜ必要か?」という視点は当然視されすぎているように感じます。

ここでは、改めて「地方創生がなぜ必要か?」を突き詰めて考えたいと思います。

いわゆる増田レポートの紹介

「地方創生がなぜ必要か?」に対する最も簡単な答えは「人口減少によって地方が持続できない危機が迫っているため」でしょう。

2014年に日本創成会議・人口減少問題検討分科会(座長:増田寛也)が「人口再生産力に着目した市区町村別将来推計人口について」という資料を報告しています。

この資料では、2010年から2040年までの間に「20~39歳の女性人口」が5割以下に減少する自治体を「消滅可能性都市」と呼び、その数は896自治体に上るとされています。

消滅可能性都市と聞くと、都市がそのまま丸ごとがなくなる印象を受けます。しかし、消滅可能性都市は「20~39歳の女性人口が5割以下」を基準に判断しています。

そのため消滅可能性都市に該当しても、「20~39歳の女性人口が4割存在する」状況もあり得ます。

また、「20~39歳の女性人口」以外の人口があまり減少していない状況もあり得ます。すなわち、住民はある程度存在するため、都市が人口減少(少子高齢化とも言えます)に直面しているという状況の方が正しいです。

日本の総人口減少トレンドが現状変化しない中で、日本の全ての地域が人口増加を望むことはできません。そのため、地方創生によって、特定の地域が人口減少を人口維持・増加に転換せずとも、人口減少の速度を遅くさせることができれば御の字です。

人口減少が地方のまち・生活に与える影響

それでは、その人口減少によって、我々の生活はどんな影響を与えるのでしょうか?
国土交通白書2015(以下、白書)の第1章第2節「人口減少が地方のまち・生活に与える影響」では、下記5点が挙げられています。


( 1 )生活関連サービス(小売・飲食・娯楽・医療機関等)の縮小

( 2 )税収減による行政サービス水準の低下

( 3 )地域公共交通の撤退・縮小

( 4 )空き家、空き店舗、工場跡地、耕作放棄地等の増加

( 5 )地域コミュニティの機能低下


それぞれの項目を他の資料をも用いて詳細に考えていきます。

( 1 )生活関連サービス(小売・飲食・娯楽・医療機関等)の縮小

これらは経済活動のため、人口減少によって利用者が減少すると採算が取れなくなり、サービス提供をやめる事業者が生まれます。
ただ、実際には各省庁や事業者側の努力によって、縮小を食い止める、あるいは縮小したとしても最低限の維持をすることに成功していることもあります。

例えば、小売店の撤退について。
経済産業省「買物弱者・フードデザート問題等の現状及び今後の対策のあり方に関する報告書 (抜粋版)」によれば、

「買物弱者とは、住んでいる地域で日常の買物をしたり、生活に必要なサービスを受けたりするのに困難を感じる人たちのこと」とされ、

(2010年度の調査と2014年の人口を掛け合わせて)約700万人程度と推計されています。しかし、この買物弱者を救うようなサービスも生まれています。

具体的には、移動スーパーとくし丸移動販売サービス「セブンあんしんお届け便」「イトーヨーカドーあんしんお届け便」が挙げられます。

また、医療機関等の撤退について。

人口減少によって医療機関が撤退すれば、無医地区となる可能性があります。

厚生労働省>「無医地区等調査」>調査の結果>用語の解説、において、無医地区とは、「医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として、おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地区であって、かつ容易に医療機関を利用することができない地区。」と定義されています。

厚生労働省「令和元年度無医地区等及び無歯科医地区等調査」から下の図表を抜粋すると、無医地区数は減少傾向を維持していますが、無医地区人口は2014年から2019年にかけて微増しました。

無医地区数と無医地区人口

これをどのように評価するのか、難しい点もありますが、無医地区人口を減少させることの限界なのかもしれません。

しかし、情報通信技術の発達に対応して、従来より、離島やへき地では、対面診療を補完するものとして遠隔診療は認められていました。(平成9年12月24日通知「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」について)」

現在は、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」も作成されています。これらの取り組みによって、医療機関等の撤退の悪影響を抑えることに期待できます。

とは言え、これらの政策にも課題はあるでしょう。また、飲食・娯楽は移動型化・オンライン化に限界もあると思われます。

人口減少によって、地域の魅力向上にも繋がる飲食・娯楽等のサービスが縮小・撤退することは地域にとって大きなダメージです。

( 2 )税収減による行政サービス水準の低下

行政サービス水準の低下が起きた最たる例は、北海道夕張市の財政破綻だと思われます。

夕張市が財政破綻に陥った主な理由は、炭鉱の閉鎖による人口減少への対応が遅れ、夕張市の観光投資が失敗したためです。(夕張商工会議所HPを参照すると5つの要因が記述されています。)

夕張市の人口推移(年次別一覧表)を見ると、ピークの人口は1960年4月30日の住民登録人口の116,908人でした。1965年以降の炭鉱の閉鎖によって徐々に労働者が転出し、その人口流出に歯止めが効かなくなっています。

2013年には人口が1万人を切り、2018年9月30日の人口は約8,200人となっています。(下図の人口推移はRESASより)

夕張市の人口推移_RESAS

この凄まじいペースの人口減少に対応できなかった夕張市は2006年6月に約353億円の借金を表明し、財政破綻に陥りました。(日経新聞「6月20日 財政再建団体の申請 夕張市が表明」


自治総研通巻342号 2007年4月号「夕張市の財政再建と財政健全化法」のp57では、2004年度の夕張市の標準財政規模(基準財政収入額+地方譲与税+普通交付税)は約48億円と紹介されています。

夕張市の標準財政規模は夕張市の主たる収入ですから、この353億円は、収入の約8倍に及んでいたことが分かります。そして、夕張市は、市民からの税金を増やす・支出を減らすことで、この借金を返済しなければなりません。


その内容を、夕張市の「財政再建計画書」から一部抜粋すると下記になります。

夕張市の財政再建計画_歳入について

夕張市財政再建計画において廃止する主な事務事業

住民負担の増加と住民サービスの低下が如実に表れています。

夕張市のように財政破綻しないまでも、人口減少に陥った地域は財政難に直面します。

人口減少すればある程度支出も減りますが、人口減少が減ったとしても維持する必要性があり支出を減らしにくい道路や下水道といったインフラ整備といった分野が存在します。

そのため、(人口減少による支出の減少<人口減少による税収の減少)=財政難に陥り、増税・行政サービス廃止に至る可能性があります。

( 3 )地域公共交通の撤退・縮小

この問題については、国土交通省 総合政策局地域交通課令和元年9月9日「地域交通をめぐる現状と課題」に詳しくまとめられています。

最も重要な点は、高齢者の自動車免許返納数が増加する中、全国の路線バス事業者の約7割が赤字で、このままでは高齢者の移動手段を確保できないという点だと思います。

これは、(1)で述べた買物弱者の問題でもあります。

( 4 )空き家、空き店舗、工場跡地、耕作放棄地等の増加

白書では、

空き家の増加とともに、地域の景観の悪化、治安の悪化、倒壊や火災発生といった防災上の問題等が発生し、地域の魅力低下につながってしまう。

と指摘されています。


2015年から空家等対策の推進に関する特別措置法が施行されたこともあり、

総務省「平成 30 年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計 結果の概要」(下画像も同資料より)を見ると、平成25年→平成30年の空き家数・空き家率の増加は従来よりも緩やかになってきています。

図2-1 空き家数及び空き家率の推移 -全国(昭和38年~平成30年)

また、耕作放棄地については状況があまり好転していません。

農林水産省令和2年4月「荒廃農地の現状と対策について」(下画像も同資料より)を見ると、「荒廃農地面積の中でも「再生利用困難」に分類されているもの」「土地持ち非農家の耕作放棄地」が増加傾向にあることが読み取れます。

荒廃農地の現状と対策について

※「荒廃農地」とは、「現に耕作に供されておらず、耕作の放棄により荒廃し、通常の農作業では作物の栽培が客観的に不可能となっている農地」。
※「耕作放棄地」とは、「以前耕作していた土地で、過去1年以上作物を作付けせず、この数年の間に再び作付けする意思のない土地」。
(いずれの定義も「荒廃農地の現状と対策について」より)

これらの空き家や農地が有効活用されなければ、その分機会損失が発生してしまいます。

( 5 )地域コミュニティの機能低下

地域コミュニティを維持する上で小学校は重要な働きをします。

小学校の存在によって、その地域で子育てが可能になり、地域の将来の担い手になる次世代を輩出することができるためです。

文部科学省「小中高等学校の統廃合の 現状と課題」によれば、2011年度→2018年度にかけて小学校の数は約2000校(約8.5%)減少しています。

公立小学校の推移_小中高等学校の統廃合の 現状と課題

児童数の減少のため当然の流れではありますが、小学校の統廃合によって、その地域から通学できない場合には地域の世代更新が止まってしまうリスクがあります。

その他の観点

上記以外にも人口減少によって生じる問題は挙げられます。
総務省「平成30年度版 過疎対策の現況 (概要版)」(下折れ線グラフは掲載データを基に筆者作成)を見ると、

大学等への進学率について、過疎地域と全国平均を比較すると、2005年度・2010年度・2015年度・2017年度のいずれの年度でも概ね約15%程度の差があります。

過疎地域の大学等進学率_総務省「平成30年度版 過疎対策の現況 (概要版)」


人口減少の著しい過疎地域に居住する高校生の進学に地域間格差を放置すれば、それだけ社会にとって損失になります。


また、人口減少により労働力不足となった山間部で、適切な森林保全がなされず、森林の治水機能が低下し、山崩れといった土砂災害リスク上昇の恐れもあるでしょう。

まとめ

これらの問題は必ずしも人口減少によってのみ生じる問題ではありません。そのため、地方創生以外のアプローチで改善を図ることは可能です。

しかし、人口減少の問題が改善・解決すれば、波及的に上の全ての問題を改善・解決する余地があるのです。だからこそ、地方創生を通じて地方の人口減少の速度を緩めることが今なお求められているはずです。

トップ画像の写真について

筆者が2020年3月16日13時40分頃に撮影した群馬県庁付近の商店街の様子です。シャッター通り商店街になっています。

全く同じ場所ではないですが、この写真地点付近の2019年8月のGoogleストリートビューの様子も同様にシャッター通り商店街となる様子が見受けられます。新型コロナウイルスの影響以前からこのような状況だということであると思われます。

引用資料・参考資料

<その他参考資料>
「地方創生をめぐる経緯と取組の概要 ― 「将来も活力ある日本社会」に向かって ―」
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2015pdf/20151201003.pdf 
厚生労働省作成資料「医療分野における未来技術の活用に関する取組について」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/miraigijyutu/h31-04-10-shiryou4-2.pdf
夕張市HP「夕張市の概要」
https://www.city.yubari.lg.jp/gyoseijoho/shinoshokai/yuubarucitygaiyo.html 
国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の概要」
https://www.mlit.go.jp/common/001080534.pdf 
国土交通省令和元年5月「空き家対策について」
https://www.mlit.go.jp/common/001290020.pdf 

<本文中で言及した資料>(本文にもリンクを載せています)
日本創成会議・人口減少問題検討分科会 提言
「ストップ少子化・地方元気戦略」記者会見 資料1 
http://www.policycouncil.jp/pdf/prop03/prop03_1.pdf 
国土交通白書2015
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h26/hakusho/h27/pdf/np101200.pdf 
経済産業省「買物弱者・フードデザート問題等の現状及び 今後の対策のあり方に関する報告書 (抜粋版)」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/distribution/150427_report_summary_2.pdf 
移動スーパーとくし丸
https://www.tokushimaru.jp
移動販売サービス「セブンあんしんお届け便」「イトーヨーカドーあんしんお届け便」
https://www.7andi.com/csr/theme/theme1/shopping-support.html 
厚生労働省「令和元年度無医地区等及び無歯科医地区等調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/76-16b/dl/r02-01_teisei.pdf 
無医地区の用語解説
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/76-16b.pdf 
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
https://www.mhlw.go.jp/content/000534254.pdf 
平成9年12月24日通知「情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」について)」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/johoka/dl/tushinki01.pdf 
夕張商工会議所HP「夕張市の財政破綻の概要」
http://yubaricci.sakura.ne.jp/revival.html 
夕張市の人口推移(年次別一覧表)
https://www.city.yubari.lg.jp/gyoseijoho/tokeidata/jinkosuii/suiikokusei.files/jinkousuii.pdf
RESAS夕張市の人口推移
https://resas.go.jp/population-composition/#/transition/1/01209/2015/2/6.073248982030639/43.748893665/143.87061755/- 
日経新聞「6月20日 財政再建団体の申請 夕張市が表明」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31938900Z10C18A6EAC000/ 
自治総研通巻342号 2007年4月号「夕張市の財政再建と財政健全化法」p57
http://jichisoken.jp/publication/monthly/JILGO/2007/04/ktakagi0704.pdf 
夕張市財政再建計画書
https://www.city.yubari.lg.jp/gyoseijoho/zaisei/zaiseiayumi/zaiseisaiken.files/3_SAIKEN_2007_03_06.pdf 
国土交通省 総合政策局地域交通課 令和元年9月9日「地域交通をめぐる現状と課題」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001311082.pdf 
総務省「平成 30 年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計 結果の概要」
https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/pdf/g_gaiyou.pdf 
農林水産省令和2年4月「荒廃農地の現状と対策について」よりhttps://www.maff.go.jp/j/nousin/tikei/houkiti/Genzyo/PDF/Genzyo_0204.pdf 
文部科学省「小中高等学校の統廃合の 現状と課題」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000638148.pdf 
総務省「平成30年度版 過疎対策の現況 (概要版)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000686432.pdf 


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