『張山光希は頭が悪い』第25話:魔法が解ける
第1話(末尾に全28話分のリンクあり)
(文字数:約7800文字)
第25話 魔法が解ける
「魔法が解けたシンデレラほど、みじめな存在は無いと思わないか?」
とりあえず家電量販店の駐車場はすぐに出て、近くのコンビニに移動してそこで買ったレッドブル一本を回し飲みしていた間に、そんな話の切り出し方をされた。
「と、言ってはみたが勿論、この例えは間違っている。シンデレラは靴のサイズのみで本人が特定できたほど、見た目に変わりが無かったわけだし、私は女性でもない。しかし男性が魔法を掛けられる話は、どういうわけか醜い姿に変えられその姿で過ごした歳月など無かったかのように、年齢もそのまま元の姿に戻る。私を例える物語が存在しない。どこかには存在しているかもしれないが、人口に膾炙していない」
「何。そのジンコウニ何とかって」
「誰にでも知られ愛された話ではない」
前の並外れてカッコよかった頃のおじさんなら、知らない自分の方を恥ずかしく感じていたのかもしれないけど、
「だったら初めからそう言ってよ」
今は普通のおじさんだから、つい呆れ気味にツッコんでしまう。
「すまない。あの家で、古文書なんかを読み込める父に育てられた」
じゃあ仕方ないね、って分かってしまえる自分にちょっとだけイラッとして、炭酸で飲み流した。
前のおじさんも、もしかしてツッコまれたら同じ言い方で返していたのかもしれないけど、いつだってこれが正解みたいに堂々として見えたから、ツッコむ人なんて誰もいなかった。頭には浮かんでも、口に出して言葉に変えてまでは。
「西の端の、港町まで着いたらそこで、腹ごしらえでもしよう。知っている店がある」
そう言っておじさんがヘルメットをかぶり直した時には、前に行ったハンバーガー的なお店かなと、期待していたけど、
海鮮居酒屋だった。
「まかない丼二つ、と赤だし、も二つ」
しかもメニューを決めさせてくれもしない。店内の、漁船に吊るしてあるっぽい針金で囲まれたデザインの灯りで、照らし出されたテーブルに向かい合わせで座っている。
「お飲み物は?」
「ああ。ごっつぅ酒呑みたいんやけどもな。今日はコイツ連れてバイクで来てんねん」
コイツ、のところで僕の頭に手を置いて、ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き回してきた。
「ちょ、とおじさん。そんな話、何もお店の人にしなくたって……」
「ええことあれへんがな。こないな店がなんで安ぅに食いもん出してくれるか言うたら、合わせて酒も呑んでくれるからそっちで回収してんのやないか。すまんな。コイツが酒呑める年になったら常連にさせるから、今日は堪忍してや。あ。ウィルキンソンあるやん。俺これもらうわ」
「僕は水で……」
「炭酸、きついのよぉ飲めへんねんな」
ガハハハと店中に響き渡りそうな声で笑ってくるから、注文を取りに来た人も吹き出し気味の笑顔だけど、僕を笑っているのかおじさんが笑われているのか分からない。
「やめてよ。もう、恥ずかしいから」
お店の人が遠ざかって行ってから、
「性格、ものすごく変わってない?」
顔を近寄せて声を潜めて言ってみたら、
「似合うやろ?」
片目を軽くつぶって笑みを浮かべてきた。
「山の上に暮らしてた頃の憧れやってん」
口元の笑みは残したまま、切れ長の、今は目尻にシワも刻まれた目を開けてくる。
「……こっちもな。えらいこと長うまでかかったけども」
まず届けられた炭酸水を数口飲んで、「かーぁ」とか言ってるのを横目に見ながら、僕は水を飲んだ。
「俺と姉貴の父親に比べたらマッシやで。務めから、退いた時点で七十過ぎにしか見えへんかったし、姪っ子が産まれてから一週間かそこらで、御臨終、やからな。めでたいんか悲しいんかよぉ分からんて、家中で言い合って」
「おじさん」
うちのおじいちゃんともまた違った訛りで荒っぽい上に、深刻な話なのにやたらと軽く聞こえる。
「赤だしですー」
ちょうどそこにお椀が二つ届いてきて、フタを開けるなりおじさんは、
「おう。目んとこ入ってるやん。得したなぁおい!」
って笑顔になって思いっきり、手首のスナップ効かせて僕の左肩を、背中辺りまで響く感じに叩いて来た。
「痛いよ。って、目?」
僕の方のフタも開けてみたら、赤みがかったお味噌汁の中に魚の頭のちょうど目の辺りが浮かんでいて、真っ白の目玉と目が合う、って言い方したらおかしいけど。
「て、目、食べるの? ってか食べられるの?」
「何言うてんねん。目玉周りの肉がいっちゃん旨いんやないか」
「そういうの、僕、今まで食べた事無いんだけど……」
「ほな。せめて食うてみてから文句言えや」
割り箸を渡されてからもちょっとためらっていたら、おじさんはまず両手を合わせて、少し間を空けてから割り箸を割ってガツッと、取り出した骨にいきなりしゃぶりついている。
僕も一旦息を飲んで、とりあえず手は合わせなきゃって「いただきます」って思ってから、割り箸を割ってまずは赤だしを一口飲んで、
おいしい、って普段飲み慣れていなくて新鮮に感じたから、スープの中に魚の頭入れられても食べにくいけど、って腹の内側ではぼやきながら箸を入れて、骨から外した肉一口分を食べて、
「うま」
って口から出たら、
「せやろ。うまいねん。申し訳無いけどな」
っておじさんが、よく見たらまつ毛の長い目を細めて笑ってきた。
正直料理を食べていると言うより、口に入っちゃったウロコ取り除いたり解剖している感覚に近いけど、目玉周りの肉までくるとある程度慣れてきて、箸の先でプルプルしてうまそうにも思えてきて、恐る恐る口にしたわりにしっかり味が染みておいしかったから、視覚と味覚のギャップが大きくてハマる。
メニューには鉄火丼とかしらす丼とか、鮭といくらの親子丼もあって、そっちの方が見た目も綺麗に盛り付けられて美味しそうに見えたんだけど、
テーブルに届いたまかない丼は、明らかに他の客に出したお刺身の残りだろって端切れに、しらすに、いくらよりもかなりちっちゃなオレンジ色の粒々の、その真ん中に半熟卵が乗っかっていて、おじさんはそこにわさびを溶いた醤油をかけてまずはぐっちゃぐちゃに掻き回してた。
「ええやん。俺こういうヤツめっちゃ好きや。美味けりゃ何の魚のどこでもええねん」
「おじさん……」
さっきからボケに対するツッコミみたいに「おじさん」を使っている感じがする。
「もっとひと切れずつ丁寧に味わって食べようよ」
「はぁあ? さっすが山の上育ちはお上品やなぁ。色白でぇ」
「おじさん」
そっちだって一年ちょっと前までは日焼けなんかしない感じでいたくせに。
「他人は何も味わえてへん思うてんのかい失礼な。食える時点で有り難みがとんでもないでこっちには」
一口分、と言うより口いっぱいに掻き込むなり目を閉じて、顔中で幸せそうにむしゃむしゃやってる。
「とびっこがちょうどええプチプチ感出してるやんけ」
「とびっこ、ってこの、卵? 何の魚?」
「とびっこ言うてるやないか。トビウオや」
ああ、と思いながら箸の先で取った十数粒を口に入れてみて、確かにこの小ささじゃ、少しずつを味わうとか、かえって難しいよなって、僕もある程度醤油をかけ回して、全体をかき混ぜはしなかったけど隣り合わせた刺身やしらすと一緒に掻き込んだ。
素直に認めるのが悔しいけど、うん。混ぜ合わせて味わった方が旨い。
「あっこのカミサンは女である前に、ごっつい肝の座り込んだ、母親やからな」
「おじさん」
気が付いたらずっと外ではしゃべらないように言われてきた内容が、結構ザツな感じで話し出されていた。
「娘は出来るだけ早いこと、母親になるように持ち込まれるし、男が『演じて』みせたらその時点でバチが当たる。寿命もガッツリ削られるし、時々壊れて魂を抜き取られる奴も出る、っちゅう事に、俺が壊れかけるまで誰一人気付けへんかったわけや。実に三百年も」
それもつい昨日全国大会の帰りに聞かされた内容を、深刻なはずなのに、苦笑しながらずいぶんと軽く聞こえる方言で。
「俺らの家が悪かったわけちゃうで? ちょっとは悪かったかも分からんけど、全体で見たら微々たるもんや。女の側から自分の旦那、選べるわけないやろ、選んだところで一族が、集落に受け入れるわけないやないかて、思い込まれて今から三百年より昔の、一千年前よりは後に、男の務めに替えられてん」
「その、前に……」
口に出したら食べ進めながら目線を上げてきた。
「聞かされたか」
「うん」
僕も食べ進めながら、話そのものはその場では、繰り返さなかったけど。
集落が選び抜いた、一族のためだけに望まれた男性を、その当時はまだ神様だったかもしれない、「鬼」の同意も得ず無理矢理に、捧げた。
その年の「鬼」は暴走し、二度と人には戻り得ず、「鬼」の面も外して素顔をさらし山の全体に、血の涙と呪いを撒き散らした。山肌は崩れて森は荒れ、それまでは毎年豊かだった実りも、他所からは信じてもらえず冷笑を返されるほどに絶え、かろうじて穫れた分も、季節外れの霜や虫や病気にやられて腐り尽くし、山の上の集落だけでなくふもとに至るまで多くの餓死者が出た。
二度とそのような事態だけは招くまいと、「鬼」は男性が「演じる」ものになった。寿命を削ろうと、壊れた結果地中深くに埋める形で封じ込められようと、それはただ一人に起きる事であり、
必要な犠牲と見なされた。
「色んな面で運が良かったんやな。俺は」
この流れで聞くには意外な言葉に思えたから、
「運、が良かったの?」
ついオウム返しにくり返したけど、おじさんは笑ってこない。
「ああ。まず子供を家ん中に閉じ込めて、外も見せずに育てるのはあかんて、決められて山の上でも言い逃れでけへんようになった。そんで、鉄道網が発達した事で」
食べ進めようと丼に目を落とした時に、声は変わらないけど前のおじさんみたいな話し方で聞こえてきて、
「集落を通り抜けていた街道は廃れ、職を求めて山からは人口が流出した結果、他にも複数軒あった舞を担う家は絶え、うちの一軒だけ、になってしもうた分、大事に残されるようにもなった」
顔を上げておじさんの顔形を目に入れたら、今後は方言しゃべりで聞こえてきて、ああこれも、小石川の習性だなって気が付いた。姿が見えなければ身に感じ取れる「声」の方に変換される。
「山の上の小学校はつぶれてもうて、ふもとに通わなあかんようになって、父親とそん時父親やった祖父の代から一気に、見聞が広がった。その結果私が死ぬ事を、『必要な犠牲』では済ませないでくれる人が、私が思っていたよりも多かった」
面白い、と感じたけど、話の内容はもちろん面白い、で済ませ切れるものじゃなくて、
「その一方で家の務めは、『必要な犠牲』として姉が継いでくれた」
顔を上げたらおじさんは丼の残りを掻き込んでいる。
「どっちが良かったんか、俺には分かれへん。俺がおっ死んでいよいよもって、祭は仕舞い、になってくれた方が、諸々スッキリできたんかもしれへんし」
丼に目を落とすと赤身にしらすに卵の黄色にとびっこのオレンジが混ざり合って、全体に掛けられた醤油と、赤身の端っこにわさびの緑。
「それはそれでより恐ろしい事態に繋がっていたのかもしれない。私から判断を付ける事は、誰に対しても敬意を失する気がする。君に対しても」
僕にボールが回ってきた、と思ったけど、なんでか顔は上げ切れなかった。
「姉が継いでくれなければ君は生まれていないか、姪はともかく君は生まれて来られたかもしれないが、ふもとの家にほとんどを預けられて育った、今の君ではなかっただろう。繰り返すが、私には分からない。判断が付けられないんだ」
「僕は……」
丼の残りに目を落としながら、これは今、僕が返さなきゃいけないボールだなって事は感じていて、それにしても、
「今の、僕が、嫌いじゃない。うん。僕はこれで良かったような、気がしてる」
一つずつ、僕の、今の気持ちに合った言葉を選び出しながら、思わず涙ぐみそうになったくらい、ただ僕だけの個人的な感覚に思える事が、
「そっか」
と親や兄弟以外の誰かにホッとした、溜め息をつかせて、
「それは何よりや」
心からの嬉しそうな笑顔を返される事にもなるなんて、思ってもみなかった。
レジに出たふくよかな年配の女性は、おじさんとは顔見知りみたいで、
「息子さん?」
と訊かれておじさんは、
「カッコええやろ。甥っ子やねん」
と返していた。
「ああ。道理でぇ」
「似てるような微妙に似てへんような感じやろ。俺も若い頃はコイツ以上にモテまくって、キャーキャー言われてたんやけども」
冗談みたいに思われてお店の人からは笑われていたけど、本当に一年とちょっと前まではそうだったんだって、僕は知っていて何とも言えなくなって、
去年の鬼神楽を終えてからの、母を見た時にも思ったけど、いつか魔法が解ける事を知りながら過ごした、十代後半からの約二十年間って、その気持ちを想像してみようとしても絶対に、その本人じゃなきゃ分かり切れるわけがなくて、
ここから自分の人生が始まるんだって、思おうとしても、本当は三十代の後半なのに、見た目は五十代とか六十代。だけど、それを気の毒みたいに思うのも、失礼な気がして。おじさんや母には、あとこれからは姉にとっても、本当に逃げられない人生だから。
僕の父親はまず母と姉の二人を守る事に決めて、これからは光希がその立場になって、父親側の親戚とはほとんど縁を切られたとかで僕は会えた事が無いんだけど、光希のお父さんは事情を知っているから、これからも関わり続ける事に、きっと前々から決めていた。
「今でも、何ていうかその、ダンディだからさ」
居酒屋を出て駐輪場に向かいながら、呟いていたけど、
「何も別れなくても、付き合ったままでも良かったんじゃない? あの人見た目とか、多分、気にしないよ」
「私の方で気にするんだ」
灯りが届かない暗い所だとおじさんは、(僕が変換したわけじゃなく)元の話し方に戻った。
「彼の子が産めるならともかく、容色が衰えた私を抱いてもらうのは忍びない」
もしかしたら内容的にザツなしゃべり方が難しかったせいかもしれないけど。
「おじさんがそっちだったんだ……」
かぶろうとしたヘルメットを途中で止めて、
「真剣な話、つい軽んじそうな部分を考えずに耳に入れてもらいたいんだが」
顔をほとんどシルエットだけど僕に向けてきた。
「自ら選び抜いた男性の、子を宿せる以上の喜びなど、人の身においては存在しない」
言われていたから出来るだけそのままで耳に入れるようにしたけど、結構しっかり気を付けて、そうしていないと難しい。
「いくら技術が進歩し、条件通りの子供がしかも健康に作り出せようと、そこは女性、と言うより女体にしか成し得ない、まさに神秘だ。そうしたところが下賤な話ででもあるかのように、笑われ避けられている現状は、嘆く以外に無いな」
ヘルメットをかぶってアゴの留め具を締めて、
「ここから目的地までは南に向かう。右手側に君がまず見たかったものが見えるだろう」
僕にそう聞かせてからシールドを下ろした。
居酒屋に着くまでの、西に向かっていた途中から、期待は高まっていたけど、
広い川沿いに進んで少しずつ、道の両側の緑と暗がりがなくなって、視界が開けてきて、水を入れたばかり苗を植えたばかりの田んぼが見渡せる先まで広がってきて、進む先で西の空が、青から濃いオレンジまでのグラデーションに、綿のような雲をいくつか浮かべて、巨大なスクリーンみたいに見せてきて、
風の流れに空気が変わって、ちょっとベタッとするけれど、強く吹き通ってくれるとかえって気持ちが洗われそうな感じに、水気と潮の香りを含んでいて、
南に向かってちょっと走らせた辺りから、右手側に確かにまず見たかったうちの一つ、海が現れた。
町の景色の右側にいきなり、気を持たせようもない感じに堂々と。漁港だし夜で暗いから、遠くに夕陽の最後の明るさが残って、灰色に重たく鈍く光る感じだけど、海だ。山の上からもふもとからも、行こうと思えば行けるけど、夏休みの間には行けなくて、親が許しても集落や自分の気持ちが許さなくて、わざわざ行かなきゃならないほどの場所に感じ切れていなかった。大晦日はここよりも手前で南に曲がって、山道を抜けようとして迷っちゃったし。
まず一つクリア、ってヘルメットの内側で何気に微笑みながら、南に向かう道を走らせて、線路沿いの道に入って道幅はちょっとずつ細くなって、目的地への最寄り駅に着いたらハスクバーナは、駅前の無料駐輪場に向かって行った。
シールドを上げて、
「ここでバイク、停めるの?」
って訊いたら、
「ああ。こっからは歩きや」
駅からの照明で明るいせいか、おじさんは方言で答えてきた。よっこいしょ、と溜め息と一緒に聞こえてくる感じに、バイクから重たげな身体を下ろす。
「こんな大型の目立ちまくるハスクバーナ、閑静な住宅街に乗り入れ切れるかいな」
「僕……、前来た時その、先まで……」
「そのドラッグスターでか。はた迷惑なやっちゃなぁ」
「冬だったから七時頃には帰ったけど……」
「それやったらまぁギリ許したろかい」
おじさんが許す事? って思ったけど、口に出すまでもなくこの辺りの住民の人たちだって分かってたから、おじさんに言う事じゃないけど「ごめんなさい」って言った。
「懐中電灯、いるやろ。俺二個持ってんで」
「僕も持ってる」
「ええ心掛けやないか」
「ふもとも街灯少ない、ってか無いから、必需品だよ」
「女が真っ先に守られなあかんわけやな」
両側に民家が並んだ細い道、だから、なるべく声は出さずにおじさんと、前後に並んで懐中電灯で照らしながら歩く。同じように懐中電灯を点けた人影が、向かい側からやって来て、すれ違う時に暗い中でも分かる笑顔で頭を下げてきたから下げ返した。
「この辺の人間や思われたな」
おじさんが小声で笑ってくる。
進む先にはこの地域を守っているらしい神社が見えて、民家は少なくなってきた辺りで、
「楽しいな」
っておじさんが呟いてきた。
「俺お前ぐらいの年にも友達と、こないなとこ行けた事無いわ。あの家で、毎日生き抜くだけでも大冒険で」
「本当だよね」
冒険とか青春とか友情とか、生まれた家が普通じゃないと選ぶ余裕すらなくなるんだ。刺激とか変化とか、普段はやらない事なんかも周りとは違い過ぎて。
「光希の自動車工場のおじさんも、今のおじさんみたいなしゃべり方してたよ」
「バレたか」
ちょうど行く先に短いトンネルがあって、おじさんはそこに入って行って、
「彼からは色々と、学び取れる事が多かったな。もちろん君のお父さんからも」
暗がりに入ったからかまた元の話し方に戻った。
「人にはそれぞれ得意分野があって、誇るべきところがある。本人は、具体的にどこと気が付いていなくても」
そしてトンネルを通り抜けても同じ話し方でいる。
目の前は目的地で、前に来た時はここまででタイムオーバー。だけど、ツタが絡み付いたフェンス越しで、全容はまだ見えていない。
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