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『レ・ミゼラブル』

 話題になったミュージカル版ではない。
 ファンからもそれほどの支持を得られなかった、
 主演リーアム・ニーソンの1998年米版である。


 さもあろう。
 私自身初見時は理解できなさ過ぎて怒りに震えた。
 当時は原作を読んだ事も無く、
 ミュージカル化されている事すら知らなかったので、

 ここで終わるのか?
 主人公はこれから一体どうなるんだ?
 下手すれば誤解に誤解を招いて、
 最悪のバッドエンディングになりかねないではないか!

 説明を求める説明を!
 否、私が原作を知らない事が問題だな?
 その足で書店に向かい買い込んだ、
 分厚い原作しかも全4巻を読破してやる。
 待っていやがれ!

 怒りに任せて読み終えて、
 再び映画館に赴きようやく、
 監督が観たかった物語を理解した。

 原作そのままの『レ・ミゼラブル』ではない。
 ミュージカル版の見所すらも、
 大幅に大胆にカットされている。
 (アンジョルラスが登場しないなんて考えられるか?)

 しかしながら言わせてもらおう。
 私はこのバージョンが大好きだ!
 なぜならば奇しくも原作にほど近い!

 主人公ジャン・ヴァルジャンが、
 聖人君子でもなければ怪力超人でもない。
 その辺にいるただの親父だ!
 弱いし怖がるし逃げちゃうし、
 苦しみを打ち明けずにいられない。

 それだから原作ファンに、
 ミュージカルファンの怒りを買ったけども
 (コゼットへの対応とかそりゃ有り得ないし、
  フランスの話英語で演じる時点でもう失敗、
  という意見も聞いた)、

 だけど原作を熟読すれば確かにこうだったよこの人。
 2時間4時間でまとめようとしたら、
 派手なシーンばかりにならざるを得ないけど、
 ヴァルジャンとジャヴェールに的を絞ったら、
 グッチャグチャウッジウジドッロドロした、
 あくまでもどこまでも人間だったよ。

 空を舞う鳥を見上げて思わず微笑むくらい良いじゃん!
 ちょっと通常では考え切れない精神状態で、
 「何て奴!」って初見は驚いたけどそれで良いじゃん!
 それまでどれほどの恐怖が心に、
 重く暗くのし掛かっていたかを思えば!

 同時にまた、
 何と美しい背面跳びを見せるジャヴェールだろう。
 ハマり込んでミュージカルはもちろん、
 様々なバージョンを見まくったが、
 ジェフリー・ラッシュ版が最も潔い!

 映画において「原作」とは、
 ただただ純粋に「based on」なんだ。
 クリエイターたる者万人に望まれるものばかりではなく、
 自らが愛する要素を抽出し再構成して何が悪い!

 正直に言うとみなもと太郎作の漫画版が最も好きだけどな!

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