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オリゴ党『ばいなら』からの大阪論

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 オリゴ党、
 という劇団がありまして、
 大阪を拠点に活動されていまして、

 脚本を書かれている岩橋貞典さんが、
 配偶者が20代の頃からの知人という事で、
 公演の度にフライヤーを送って下さるのです。

(文字数:約2000文字)



御無沙汰不義理

  しかしながらここ2、3年、
  よりにもよって劇団として最も苦しかったであろう、
  コロナ禍の時期に足が遠退いていた。

  しかしながら実はコロナ禍が理由ではなく、

  岩橋さんの脚本が毎回毎回、
  私の臓腑には突き刺さり過ぎて、

  『エクスカリバーズ』公演の際には、
  岩橋さんや出演者さんたちへの挨拶もそこそこに、
  会場を出た途端号泣しまくってしまった。

  「うわぁぁあぁぁ!
   死にたいぃぃいぃあんなん地獄だぁあぁ!
   いっそ殺してくれぇええぇ!」
  「どうどう」
  隣に配偶者がいなければ始末の付けようもなかった。

  しかしながら一観客の精神をそこまで崩壊させてくれる、
  脚本の筆力に出演者さんの演技力は素晴らしいと思うの。
  好きではあるの。台本も買ってるの。
  しかしながら他人様には容易にお勧めし切れない。


9月30日の『ばいなら』公演

  その後配偶者の繁忙期が続き、
  一人で観劇するのは帰り道が不審者確実なので、

  オリゴ党本来というより、
  プロデュース作品や別の方の脚本回に、
  こっそり紛れ込んではいたけれども、
 
  「今回行こうかなぁ。行けそうだしぃ」
  と配偶者が予定に入れ出したので、
  ならば行きましょうと、

  久しぶりに岩橋さん脚本回を観ましたら、
  なんという事でしょう。
  オリゴ党作品から毒が消えた……!

  さすがは岩橋さん。
  おそらくは丸くなられたわけでも、
  何か心境の変化があったわけでもない。

  毒に満ち溢れ、
  毒の使い方に長けた人間だからこそ、
  毒を抜く事も可能という絶妙なさじ加減。

  もっと高い技術を持った人間が、
  あえて寸止めにしておく時の、
  滲み出すゾクゾク感がたまらないわ。
  つまりフラメンコで言うところの色香。

  と言うか私の小説も我知らず、
  そういった辺りを狙ってないか?


それは人によってはどうだろう

  オリゴ党作品を観た後は、
  喫茶店や帰りの車の中で、
  配偶者と感想を語り合うのが常なんだが、

  「だけど大阪はさっ、
   移住してくる人たちに優しい街だよねっ」
  と、

  ざっくり言うと、
  「移住者のアイデンティティ構築」をテーマにした、
  今回の作品を味わった上で、
  配偶者がのたまったので、

  「うん。私はそう思う」
  と答えた上で、

  「しかしながら私は、
   故郷から要らない人間として、
   ほとんど追われる形で出て来たからな」
  「う」

  「大阪でも大した仕事が出来るわけない。
   いじめられて迷惑も掛けまくって、
   職場に損害を与えて逃げ帰るに決まってると、
   親も親戚も半笑いで送り出したからな。

   そしたら意外にも人間らしく扱ってもらえて、
   仕事でも割と評価されて万々歳、
   大阪の水合いまくったぜ最高だったが、

   これが故郷にある程度の居場所があったり、
   同じく追われて来た身だとしても、
   大阪でどうにか居場所を作りたい、
   と願いながら来たらまた印象は違っただろう」
  「あ。うん。そうか」

  「と言うより同じ職場で働いた九州出身組の中には、
   それこそ『大阪耐えられない。
   人間の住む所じゃない』って逃げ帰った奴もいる」
  「え。あ。そうなの?(汗)」

  「流れで今思い出したけれども、
   『土地の訛りちゃうけど、どこの人?』とか、
   『標準語やけど、もしかして関東の人?』とかも、
   人付き合いの序盤で結構訊きまくられたし、

   『九州なん? なら博多弁しゃべってや』
   と来られる事だけは不愉快だったな。

   おどんは博多の人間じゃなかとじゃけん。
   本意気の高木弁ばしゃべり出したなら、
   ほい見れ。誰一人話の通じらんじゃろが。

   しかしながら『九州です』と答え切れなければ、
   それ以降の博多弁イジリすら、
   無かったと思うと恐ろしい。

   イジリという応接技術は、
   相手側が自己表明・自己開示し切れる場合のみ、
   有効なものだからな。

   なんのかの言って大阪の人間って、
   腹の底の本音まではしゃべらず、
   ハッタリを効かせ合う人達だからな。
   そこを楽しめる余裕が持てなければ、
   優しい街だとは思い切れないかもしれない。

   ただ私の口から確実に言える事として、

   貴方が岡埜一族の集落に移り住むよりは、
   大阪の方がはるかに優しい街だな」

  「ありがとう、ですけどごめんなさいぃ。
   僕は極めて珍しい経験をしてきた方に、
   同意を求めてしまいました(泣)」
  「あるあるネタが存在できないんだ私には。
   大阪で生まれ育った者として、
   妻の同意が欲しかった気持ちは分かるけども」

2023年11月の追記

  ところでフジモトの台詞、
  「あなたは幸せ者です!」
  は実にその通りだと、

  頷き合った我々夫婦は、
  折に触れて口にも出し合っている。

  触れる折がどこにあるのかって、
  世間を眺めるにこれが結構、
  応用が効くようだ。

以上
ここまでを読んで下さり有難うございます。

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