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絶対に粉が食べたい『人は夜と水に』

 文学フリマ大阪で購入した書籍群は、
 よっぽど自分に合わない内容でない限り、
 3回は通読して、

 来年度の大阪での開催日までには、
 感想を書けたいと思っているのだが……。

(文字数:約2000文字)



絶対に粉が食べたいさんと書籍情報

  出店者目録からピックアップはしていたが、
  ブースを訪れて接してみての人柄買い。
  展示品原本限りになっていたので半額でゲット。  

シンプル・イズ・ザ・ベスト

  『人は夜と水に』
    著者      維櫻京奈
    発行日     2023年1月15日
    A6版 50ページ

  ブース名は大阪来訪に当たっての意気込みのようで、
  お名前はイサクラさん(京奈の読みは分からず)。


ストーリーとは何ぞや

  しかし初読後は配偶者にぼやいてしまった。
  「面白かったし楽しく読めたんだが、
   明確なストーリーが存在していないので、
   どう感想を書いていいのやら」

  「ストーリーとか別にいらなくない?」
  「おおう。簡単に言うてくれるが、
   私はある程度の物語を構築したい系小説家なので、
   ストーリーがいらないと言い切れる、
   感覚自体がよく分からないんだ。

   勝手な推測であって間違っていたら何だが、
   男性は日々発言や文章に、
   意味や目的を結構強めに求められるので、
   小説、となるとイメージや雰囲気の世界で、
   遊びたくなってしまうのではないかな。

   女性は普段から脈絡の無い会話大得意だから、
   小説、となるとむしろ文脈や世界観の構築が、
   積木遊びみたく楽しく感じられそうな気がする。

   無論精神的男女であって身体的男女とは別だが」

  「んーと、
   僕には興味が無い分野で何とも言えないけど、
   佐野元春が『情けない週末』って歌の歌詞で、
   ジャズメン、とか、地下鉄の壁、とか、
   ただただ風景を書き並べてる感じは好きだよ」
  「なるほど。あの歌は格好良いよな」


全体の印象

  表紙デザインに組み込まれた英語タイトル、
  The man dissolves  in night  and water.
  がネタバレになってしまうような、
  結果的にネタバレにも成り得ないような。

  改行の仕方が独特で、
  私には違和感があるんですが、
  筆者は筆者なりのルールで、
  意図的にリズムを作り出している気がする。

  ストーリーが無い、ように思えても、
  五つの景色、あるいは、
  三つの景色+αには分けられそうだ。

  そんな次第で景色ごとの感想を書いてみます。


導入パート

  冒頭の文章がちょうどいい。
  なんかおかしいけど、
  まだ現実が舞台の話かもしれない微妙なあたり。

  徐々におかしさが増していって、
  決定的な一文が現れたあたりで準備完了。
  完全におかしな状況に移行する。

  とは言え主人公にはある程度の、
  リアリティがなくてはならず、
  そこを補強してくれる妻、
  麻子の存在感がカギ。


和風ターン

  冷やしあめ売りの老婆も秀逸だが、
  筆者がこのターン、
  というよりもこの作品全体で、
  最も書き表したかったのは、

  16p13行目の、
  一単語とそのイメージじゃないかな。
  って勝手に決めつけて大丈夫かな。

  少なくとも私ならそれを核に書きたい。
  お題、レベルではない。
  タイトルに出来るレベルのキラーフレーズだ。

  しかしその前後で残念なのが、
  拍手は柏手、だと思うし、
  8万回以上って多過ぎないか?

  1秒2回で計算しても11時間かかるぞ。
  いくら幻想的な世界だとしても、
  現実的な感覚を引きずったまま読むと、
  「夜」が明けるぞ?

  「夜」がテーマの一つなんだろ?

  とは言え単位は「万」が良いよな。
  なんとなくだけど分かるよ。
  じゃあせめて、
  「なぜか夜は明けなかった」
  みたいな一文を加えてくれないか。

  それなら違和感が解消できる。


中東風ターン

  とっさに弊社ホームページの、
  マニュアル的発言が出るところが、
  普通に面白い。

  「私」のリアリティは重要だし。

  とは言え砂漠が舞台になったため、
  もう一つのテーマである、
  「水」を表出させるのが難しかったと思う。

  結果的に最終場面では、
  両方を印象付ける事に成功しているけど。


ヨーロピアンターン

  上司がなんとなくの雰囲気で言うけど、
  坂口安吾の『風博士』を思い出させた。

  筆者がどこまで意図して書いているのか、
  「私」同様理解していないのか分からないが、
  この上司、気持ち悪いよな。
  もしかすると善い人でもない気がするぞ。

  嫌いじゃないけどな。
  そばにいる間は楽しい気分でいられそうだけどな。

  「夜」と「水」の組み合わせとして、
  一番印象に残ったターン。


帰結パート

  ああ。元に戻ったか。
  って気にさせながらもちょっとずつおかしい。

  しかしエーリッヒなんて、
  読書好きでもない人には誰かも分からない本、
  読んでいそうな妻だな。確かに。

  そして酒豪で綺麗というね。
  この妻の存在が最もファンタジーだが、
  それで何の問題もあるまい。


  総じて、楽しかったです、
  としか言いようがないです。

  しかしそれが何よりな作品でしょう。

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