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いしいしんじ『麦ふみクーツェ』

 はじめましての人も、
 前から知ってる方も、
 ごきげんよう。

 偏光です。

 Pixivに公開してきた小説以外の文章を、
 noteに移して行きます。

(文字数:約1200文字)


  『麦ふみクーツェ』
  いしいしんじ 平成17年 新潮文庫

あらすじ:
  打楽器の王様みたいな祖父から、
  ほとんど「楽器」として育てられた「ぼく」が、
  物心ついた頃から指揮者を目指すまで
  (しかしどうやら成長した後の、
   手術台の上で回想しているらしい)。

  クーツェは子供の頃の「ぼく」にしか見えない存在。
  成長するにつれ「ぼく」にも見えなくなっていくが、
  麦ふみを続ける足音だけは残り続ける。

気に入った本は少なくとも、
2回以上は読み通す事にしている。

読了冊数を増やしていく事が、
必ずしも本好きの読書とも限らない。

先が気になって読み飛ばしてしまう部分はどうしてもあり、
初読の時のそれは致し方ない。

読書自体もひとつのリズムに乗っ取っているものだから、
さくさく進みたい場面もあれば、
一文字一句一文を大事に追いたい場面もある。

張られていた伏線に、
前もっての雰囲気作り、
凝らしてある工夫を堪能出来るのは、
熟読の醍醐味。

ゆえに図書館等で一読し気に入った本は、
私の場合購入し本棚に置き並べ続ける事になる。
(私の本棚に並べられた本はいかに幸せであることか!)

音楽を如何に文章で表現するか、
という話でもあり、

音楽(あるいは非言語文化)において、
言葉などは必要無い、
わけではない(!)、
という話でもある。

「ぼく」に「おじいちゃん」「お父さん」、
「先生」「郵便局長さん」「用務員さん」と、
登場人物の名前に地名、建物、国名に至るまで、
個体を特定する名詞は一切出て来ない。

「ぼく」は他の人達から、
ある「楽器」の名前で呼ばれるし、
「クーツェ」すら名前なのかどうか。

強いて言うなら犬の名前と、
偶然犬の名前と同じ意味を持つ名前の女の子は登場するが、
実際に何語で綴られる、
どういった響きの名前なのかは分からない。

すると読み手としては、
「どこかにいる名前も知らない誰か」ではなく、
自分が知っている「先生」や「楽器」や「港町」のイメージ、
その中でも特になつかしく思い出せるものに引きずられながら、
読み進めていかざるを得ない。

誰にでも出来る工夫ではない。
文章自体が微笑ましいものでなければ難しい。

気に入った本がある、
という事は、
その分打ちのめされる事でもある。

このような作品を書きたいものだが、
似たような作品など必要無い。

まだしも慰められるのは、
いしい氏は関西出身の男性、
私は九州出身の女性であり、

これまでに蓄積した経験に知識、
素養に醸し出す雰囲気も異なっているはずなので、
似たような事柄について書いたとしても、
自ずと異なる作品になるしかないだろう。

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