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呼ぶ声はいつだって悲しみに変わるだけ〜「片目で立体視の星間飛行」観劇録②〜

【本文は読み終わるまでに約4分かかります。また、短編作品のうち一作品にのみ触れており、他の演目については後日記載させていただきます。予めご了承ください。】

 「片目で立体視の星間飛行」について、昨日から感想を書いている。
 第1.5章と銘打たれた「たかしの星」は、章立てに表れているように、他の章とは毛色が異なっていた。物語の舞台も時間もぼかされていて、フワッと始まりフワッと終わる、ごく短く軽妙な会話主体の演目。それでいて、突き詰めて考えてみると深みにハマっていく一編である。

 3つの椅子が主な舞台だ。 
 友人同士(嵯峨瞳、日坂さと)の他愛もない会話の途中、日坂(でいいですよね)が席を外す。その途端、特に嵯峨が頼んでもいないのに、たかし(新沼温斗)のスペクタクルが幕を開ける。
 とにかく「たかし」は人類と異なる生命体で、名前を呼ばれることで増殖していくらしいのだ。増殖を繰り返した果てに「たかし」だらけになった星、それはもはや「たかしの星」ですよね、と、嵯峨の隣に座った「たかし」は述べる。嵯峨、かなり引いてる。私も理屈は分からんけど気持ちは分かる。そしてとにかく「たかし」のズボンが気になる。ずっと気になる。気になりすぎて増殖の説明に対する意識もそぞろ。たかし、お前さん、そのズボンどこで買ってきたんだい。随分な玉虫色じゃあないか。玉虫厨子から装飾だけ引っ剥がして貼ったくったみたいじゃあないかい。しかも見たとこサロペットパンツか。もしそうなら玉虫色が末広がりだよ。ゲン担ぎに拝んでおこう。
 たかし、お前の話は分からん。ただそのサロペットパンツはどこで売ってたかだけマジで知りたい。買いはしない。好奇心を満たしたい。岩手にあったなら、せめてどんな店にあったのかだけでも知りたい。そういや友人が「数年前、盛岡の古着屋にVaundyが来てたらしい」と言っていたけれど其処だろうか。Vaundyがわざわざ来るほどの店なら置いていそうだ。手に取るかは知らないけれど。

 話を戻そう。嵯峨の隣に現れた「たかし」の見解に異を唱えたい。理由を端的に言えば、増殖したたかしが玉虫色のサロペットパンツを絶対に履くとは思えないからだ。生物学的には同じ「たかし」でも、環境や偶発的な要因により、オリジナルの「たかし」とは少しずつ異なっていくはずだ。仮に見た目も嗜好も同じでも、服屋で手に取ろうとした玉虫色のサロペットパンツが目の前で在庫ゼロになったら、よくあるジーンズで妥協するたかし ' になりうるのではないか。果てなき増殖の過程で「毎日パジャマで過ごしてます」と宣うたかし ' ' ' が発生するかもしれないし、裸族のたかしβも生まれうるだろう。もはや自分でも何を言ってるか分からなくなりかけているが、「たかしの星」があったとしても、無数のたかしがそうだと思っているだけで、外から見たら少しずつ違う生命体が集う星なのではなかろうか。それとも無数のたかしが玉虫色のサロペットパンツを奪い合う、混沌とした輝きの星だったりするのだろうか。

 サクッと終わる割には、考え出すと思考実験もどきが止まらなくなる本作。人を喰った話ながら地に足がついた雰囲気も漂っていたのは、過去幾多の舞台を共にした、友人二人のリアルな関係性がなせる業でもあったろうか。
(第2章へ続く)

(文中敬称略)
(所属団体等は省略させていただきました。ご了承ください)
(文責:安藤奈津美)
(くどいようですが 続 き ま す )

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