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「テスカトリポカ」読了

膨大なスケールで描かれる、暴力と犯罪の物語

本の世界への旅行へ、今日も出発する予定の皆様こんにちは。
本日は圧倒的衝撃作品、「テスカトリポカ」を読み終えての感想を執筆していこうと思います。
ネタバレはなし、あらすじは簡潔にわかりやすい言葉で、思った事を書いていきます。
第165回直木賞受賞の怪作を、是非とも読んで欲しいので参考までにお願いします!

あらすじ

メキシコにて行われている麻薬密売組織の抗争。4兄弟で組織を統率する【ロス・カサソラス】は敵対する組織【ドゴ・カルテル】の奇襲により、ほぼ壊滅状態になっていた。組織の中枢である4兄弟のうち、唯一生き残った三男のバルミロ・カサソラはメキシコから逃亡し各国へと渡る。新たな組織の設立と、復讐を胸に抱いていたバルミロは、ジャカルタにて日本人医師の末永と出会う。2人は日本・神奈川県川崎市で新たな「心臓密売」ビジネスを開始する。

一方、別で語られる川崎市の少年、「土方コシモ」の生い立ち。
犯罪組織と、恐ろしいまでに無垢な少年が出会い、物語は強烈に加速する。

感想①圧倒的スケール

この物語は、全553貢、章にして52で語られている。まず僕が読んで1番に感じたのはとにかく膨大なスケールで描かれている事だ。
物語で主に語られるバルミロを軸とした展開が、時には国々を渡らせ、時には痛々しい拷問のシーンを産み、時には神を語る暗い部屋を思わせる。自分も一緒にバルミロと旅をしているかのように、事細かく記載が続く。
それは、単にバルミロの行動だけではない。

登場人物も数多く存在するのだが、その一人ひとりのこれまで生きてきた過程などが、細部まで語られているのだ。なぜ、その子供を産むに至ったか。なぜ、犯罪に手を染めるようになったのか。なぜ、その行動に移ったのか。作中で人が生き、死んでいる。それを痛感できるほど目の当たりにさせてもらった。

更には、アステカの神々の物語や、麻薬に対する知識、時にはナイフについてなど、専門用語や詳しい記述が数多く執筆されている。佐藤究先生の怖いまでの情報を伝える執着に、心を惹かれ続けた。
本の最後に載っている、参考資料数は共学の54にまで至っていた。

感想②アステカの神話

ネットでこの本の感想を調べてみたら、アンチな意見もちらほら見られた。
この箇所は、もしかしたら、この本を難しいとか読みにくいという感想に繋げる一大部分なのかもしれない。
バルミロの物語は、作中に何度も登場する名前、「テスカトリポカ」に沿って進む。アステカの神々の中で闇の神として信仰されてきた存在だ。
途中、アステカの神話についての記述があるのだがこれがきっと、読書初心者では酔うほどに長い。僕は飽きずに読めたが、先程書いた通りここでも佐藤究先生は手を抜かない。アステカの神々の事や祭祀、トナルポワレ暦での解説など、全ての箇所を含めれば50貢は埋まるだろう。
だが、この解説なしにこの物語は楽しめない。読んでこそ、直木賞受賞までに至る圧倒的なスケールとパワーを知るだろう。

夜と風(ヨワリ・エエカトル)
われらは彼の双隷(ティトラカワン)
煙を吐く鏡(テスカトリポカ)
感想③暴力描写と、犯罪のシーン

本で痛々しい場面が描けるのかと、最初この本の帯を見た時思った。だが、実際に暴力描写の場面を読んだ時、背筋が凍るほど身に染みて痛みを感じた。
犯罪小説___クライムノベルというジャンルのこの本は、痛ましい暴力や恐ろしい犯罪が次々に行われる。
本では映画やドラマにはない、感情が描かれる。それは、勿論暴力を受ける側もだ。場面や景色を想像させるために、あらゆる筆者は文章でそれを表すが、痛みをここまで表現出来ていることに至極驚かされるばかりだった。
犯罪も同じく。麻薬の密売や種類、銃火器で人を殺める感覚までも。

この作品は川崎でバルミロが新たに作る組織があるのだが、メンバーも秀逸でどこか狂っていて、野蛮な者達ばかり。感想としては、もっともっと彼らの犯す犯罪を眺めていたい、そんな気分だった。

総評

冒頭で読んで欲しいとは書いたのだが、この作品は見事に人を選ぶ。多分だが、読み終わったあとの感想は「めちゃくちゃ面白かった」か「めちゃくちゃ面白くなかった」のどちらかだろう。だが、人と人とが寄り添う話を読んだ後にでもこの本を読んでみるといい。恐ろしい程の急角度で先程までの他作品をかき消すだろう。(ちなみに僕はこれを読んだ後に「52ヘルツのクジラたち」を読んで涙腺崩壊しました。)

非日常を味わえるのも本の醍醐味。
たまにはホテルからの絶景を眺める読書旅ではなく、燃え盛る火山へのヒッチハイクの読書旅も、経験してみては如何だろうか。

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