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晴人という人(の、素描)

【あわせて読みたい:これは短篇『大人の領分②晴人』の付録です。なにやら複雑な事情を感じさせるこの人に、さまざまな角度から光をあてるこころみ。花咲ける青少年、豊かさと恐怖心の相反関係、こんにちは川奈くん、私たちは無力ですが自由です、大人な晴人の、こどもの国。ほか】

晴人くんはKO大の意識高い系学生(のうち、特に、家の財力とルックスに惹かれて集まってくる女子)に囲まれたSFC中等部生え抜きのお坊っちゃま。家は財閥というほどじゃないけど、業界10番手クラスの老舗商社で、晴人は次男坊です。長男坊は8つ上、同じく幼稚舎から生え抜きで、もちろんストレートに卒業、いま会社の専務直下に配属され経営勉強中の賢人さん。しかも晴人から6つ上の長女・美香さんは賢人への反骨精神からケンブリッジに行ってしまわれてます。多分しばらく帰って来ませんが、両親はもうこの二人に言うことなし。晴人はオマケで生まれた年の離れた子ということもあり、両親はもちろん兄姉からも猫可愛がりされ、自由が一番だよ、せっかく不自由ない家に生まれたんだから、好きなように生きなさい、と言われて育ってまして、このままずるっと勉強して、親の資本の入った私立校で教員になろうかな、とか思いながら、モヤーっと毎日を過ごしてます。若いですね、この感じ。はい。先日20になったばかりです。

若いというか…。こどもじゃん…!

そうなんです、こどもだと思ったらそうでもない、ところがたまにあるため、ドキッとしてときめいちゃう瞬間が、梨恵さんにはたまらなかった模様です。晴人は晴人で、昔から年上の人に囲まれて育ち、家でもママンがフライパンをジュージュー言わせながら、立って晩酌してるパパンとマンションの転がし方について話す、みたいなのが日常で、さすが老舗と言いますか、結構保守的なところ、ちょっとジジくさい側面もあるんですね。実を言うとイベントやミートアップにいる「若い女の子」枠のキラキラ女子が苦手だとか。そういう側面ですね。後述しますプロフから想像するに、梨恵もかなりキラキラしいほうだと思われるのですが、若い子たちのあの「愛されたい…」「確かめたい…」「あげたぶん返せ…」みたいな、「おんな」の血生臭さがないところ、晴人くんにおかれましてはぞっこん、惚れてしまったご様子です。…晴人ね、それ、落とし穴だからね、本命の人にそんな、ほどよくライトなわけないじゃん。います。必ず影になにかいますよ。と一般も一般な私なんかは囁きたくなりますが、晴人は「やっぱ大人は違うわー」くらいにしか思ってなかったようですね。変なとこで、こどもなんだよなぁ。ま、半分は当たってます、「やっぱ梨恵は違うわー」だったらまあ、半分は当たり。といってもやはり、何にも疑わないところ、晴人にもお子様っぽいとこあるんだな、と、晴人には申し訳ないですが、なんだかほっとしちゃいますね。

ちなみに晴人くん、やたらに「日本人」とか「コミュニティ」とか「価値」とか「創る」とか言う人も、苦手なんです。「〜したほうがいいよ」とか「〜は、ないよね」とかも苦手。なんでKO大なんかに行ってるんでしょうねこの人。家の都合とはいえ、お坊ちゃんもお坊ちゃんで、大変なんですね。

さてさて、こんな、ほんのりジジくさい男の子・晴人なんですが、その基本属性はといいますと、まさに「おかん」。飲み会では常に皿を重ねてテーブルを拭き、飲み会メンバーより店員さんと仲良くなりがち。コップも一度で8個、すっと下げちゃいます。道はさっさと人に訊き、小さい子、妊婦さん、高齢者などに大変優しい晴人、井戸端会議に出席して下品なくだらない話を集めるのが意外に好きで、興味がないように見えてなにげに情報通です。実家の鎌倉から三田に通うのが面倒で、綱島に一人暮らししてる晴人ですが、スーパーで買える物はコンビニでは絶対に買わず、スーパーはスーパーでネットチラシをチェックして3店舗は回ります。パワースポットに対する敬意が半端なく、神社では必ず二礼二拍手一礼。合コンでは女子の性的な露出度やイージー感を大変気にして、下ネタを嫌い、すぐに「人品」とか言っちゃう。心配性ですが、カラッとした性格で裏表はなく、喧嘩した翌日に何事もなくおはよー、とか言って関係を修復してしまうタイプです。

本篇に出てきた『鮎川兄弟カムパニイ』とは晴人の1年先輩の鮎沢くんと川奈くんが主宰している、フラッシュモブ対応のゲリラ系インカレ演劇サークルなんですね。というのはこのサークルの片面で、もう片面は学内で起業する子たちのプラットホームになろうと、なにかとガヤガヤしているイベントサークルでして、晴人はこちらイベント系の「おかん」担当。青色申告のお世話係や税金関係の相談係になってます。高校で勉強がてら、簿記、FP、ビジネス実務法務は取ってんだよね。簿記は1級です。さすが秀才を兄姉に持つ生粋のお坊ちゃま。だらーとしてるのはモチベーションだけで、家のお手伝いもたまに、きちんとしてるんですね。偉い。お家でも「ハルくんは、とってもいい子ねぇ」が親族一同の共通見解です。皆様におかれましてはご理解のことと思います、ええ、とっても、いい子なんです。

はい。こんな感じで、イキッた若者に囲まれて淑やかに日々を過ごす、容姿に加えて情まで持て余してる才媛おかん・晴人の心の泉が、半分フリーランスのイベントコーディネーター、37歳の梨恵さんだったわけになります。いつもおっきなデジタル一眼レフを持ち歩き、趣味がジュエリー制作で、活動名をどうしても教えてくれないんだけど、どうやらマニアの間ではよく知られたイラストレーターという横顔もある梨恵ですが、つまるところ、二人の出会いも、イベント会場。起業学生にクラウドファンディングのフォーカスを当てようみたいなワンドリンク制のやつです。おかんは疲れたらこっそり休むんだぜ、ということですかね、グループからトイレだと言って抜けて、プロジェクションマッピングを使った作品の前のハイテーブルで、ひとりグラスを傾けていた晴人に、もう学生の頃の年齢感なんて記憶にない梨恵は、そのグラスに入ってるのがハイボールではなくジンジャエールだなんてつゆとも思わずに、話しかけたのでした。「これ、私が作ったんだぁ。今日、ここで、見れてよかった?」。
振り返った晴人の目に入ったのは一人の天女。あ、はあ。と、晴人は頷きましたが、次の瞬間、「ええと、はい、あなたに今日ここで、会えてよかったと、思ってます」と、いきなりナンパを倍返し。梨恵は晴人を上から下まで眺めてにっこり笑って、君、男前だね。と呟きました。

晴人は女性経験ないわけじゃないんだけど、経験した二人の二人とも処女でしたので、「女」との交渉は梨恵が初めて。しかもこれね、梨恵の部屋、気弱な男性なら、勢いで来たとしても「あ、ごめん、俺、お腹痛くなったから帰る…」と言って撤退するであろう、バリバリのデザインホテル仕様。壁紙赤で、ベッドはサテンの深紫ですから。燭台立ってますから。晴人、おかんなだけじゃなくて、勇者でもあるんですね。お坊ちゃんって恐怖感薄いのかなぁ。ちょっと尊敬しちゃいます。

1夜限りだと思ってた梨恵さんですが、翌日も晴人から連絡が来て苦悩…というらへんは、この付録のカウンターパートである梨恵の素描に譲りましょうね、ともかくも、褒められ慣れてるはずの晴人なのですけれども、にもかかわらず、「かっこいいね」「人のことちゃんと見てる」「優しい」「大胆なところがとってもセクシー」「賢い人好き」「綺麗な体…」「すっごい相性いいね(♡)」などと、直球で降りかかる全裸の天女のお言葉にうっとりしてしまい、その後、言われるがままに自分では絶対に行かないような場所にデート行ったり、デート代を払って強がってみたり、ベッドでぞくぞくするような夜を明かしてみたり、旅行とかいう理由でお預けくらったり、ひととおり恋愛らしい手順を踏んで、ひとまわり大きくなったのでした。

柏木くん柏木くん。インタビュー頑張ってみよっか。

柏:年下の勝ち組になんて、なんの興味もわかないっす。KO大なんて、ブランド志向すごそうだし。27くらいになって、「私は挫折したことがないのがコンプレックス」とか「自分が幸せなのはわかってるけど」とか言う連中でしょ。不定愁訴のタネが感染ります。

うーん、え、言っていいよね?それ、柏木くんのことだと思うよ…?

柏:いいんです、自己嫌悪で。嫌悪は嫌悪ですから。

まあねえ。柏木くん、時々そうなるよね。チラチラ若くて、私はそこがいいと思ってる。

柏:あざっす。苦手にも前向きに取り組む柏木ですから、インタビュー行く決心、できてますよ。お相手はどなたですか?

お、だよねーだんだん、君のテンポ、掴めてきたよ。

えっとね…やっぱり川奈くんがいいなぁと思って、呼んどきました。

ほら、来た…!

マイクチェックして、スタンバイしてくれてます。可愛いなぁ。あ、普通に言うと、かっこいい、ですかね、清潔感!て感じの、短髪で甘い顔立ちの、日焼けした、すらっとした子なんですが、私は川奈くんも好き。川奈くんもすとーんとさっぱり、いい子なんだよ。これ質問用紙ね。ね。いってらっしゃい。

柏:はじめまして、アシスタントの、柏木です。
川:はじめましてー。
柏:あー…はい、川奈さんですが、なんというか、今風のおしゃれをした元気な感じの青少年ですね。海水浴のCMとかでビーチボール投げてそうです。
川:投げる投げるー。自分も投げ出しちゃう。ビーチも釣りもスノボもキャンプも大っ好き。パーァーティ!B・B・Q!すみませんね、わかりやすくて。
柏:いえ、頼もしいです。あんまり複雑だと疲れるし。早速ですが、晴人さんとのご関係をお聞きしていいですか。
川:きたぁ…♡ 恋人に、なりたいです♡
柏:ええと…。早速ですね…。
川:冗談にしては本気すぎる恋です♡
柏:ええと…つまり…。
川:片思いー。誰かに言いたいけど、親友の鮎沢しか知らないんです。あーやっと話せるわー嬉しい。晴人のことなら、なんでも訊いてください。
柏:一応その、性別的なところの社会的な感じのプレッシャー的ななにかについて、ふんわりお話をお聞きしていいですか。
川:えー。複雑で疲れるからやめようよー? うーん…?あ、質問用紙にあるんですね、てか読ませて?…あは、言い換え過ぎですけど受ける。ありがとございます。
柏:いえ、むしろすみません、「恋愛について、自分が人と違うせいだ、と思う時」って、読めば読むほど性別も社会も関係ないな。そのままを言って、川奈さんに考えてもらうべきでしたね。
川:えー全然。俺だって、読んだらそう思うんじゃないの。違う気はしてるし、それなりにプレッシャー感じる時もありますよ。気にしないで? じゃあ、まあ、…自覚するのが性的なところからってのがあるから難しいけど、自分はできるだけ「普通」にいたいほうです。かな。わかんないけど、好きな人できたときに、わざわざ「異性愛者です、それで、人として好きなのもあるけど、そういう意味でも好きです」って言わないんじゃないですか。ただ、まず、好きなんでしょ。女だから好きなのかその子だから好きなのかとか、考えないでしょ、その子を見て、かわいいな、いー匂いするな、かっこいいな、近づきたいなって思う、それがスタートだと思う。だから俺もわざわざ言わない。結構、そういう人多いと思うけどなぁ。声を出してる人たちに対する罪悪感みたいのは、あるかもしれないです。これでOK?
柏:ありがとうございます。それでは仕切り直しまして、晴人さんには恋心を抱いていて、それは鮎沢さんにしか明かしていないと。
川:うん。大好きでいるのは、俺の勝手でしょ。独り占めとかやりたい放題とか、野望はあるけど、まだそういう段階じゃねえなーって思う。知りたいし一緒にいたいし、まずは、そこ。まあそれなりに、愛し合えたらいいなみたいな欲求はあるけど…自分、結構、仮性だって言われるんですよね。本物ならちゃんと相手がわかるって言われて。すげー不安だけど、とりあえず晴人のことは「普通」に「大好き」。昔も好きな子いて、でも、全然違うな。ほんと、この気持ち、大事にしたい。晴人のことも大事にしたい。ほんのちょっと、距離が縮まっただけでガッツポーズなんだよねー恋の病。っていう、いまは、それでいいや。アユもいるし。
柏:鮎沢さんは、その…
川:アユは俺のこと、好きって言ってくれてるんだー。俺って幸せ者。
柏:はあ。
川:狡いかな。
柏:まあ。
川:いいんじゃないこういうのも。だんだんほだされてる俺も、この感じ嫌いじゃないかもって、思ってて。アユは、それでいいよって。だんだんわかるもんだからって言うんだよなぁ。浪人でいっこ年上だからってさ、大人ぶんなっつの。
柏:ええと…そうですか。
川:そうなんです。
柏:そうなんですね。さて、では、晴人さんらしいな、と思うエピソードをひとつ、お願いします。
川:ひとつだけかぁ。…先月かな、朝帰りで、渋谷の、井の頭線の改札前歩いてたの。したら、隣から急に晴人が走り出してさ、どした?って思ったら、結構前の方で、倒れかけてたみたいなお姉さんがいて、その腕をさ、倒れる前にぐわって掴んでて。端っこに寄せて、服汚れないようにしゃがんだ自分の膝に乗せてあげてさ、なんとなく遠巻きにしてたスーツのおじさんに、「おにーさん電車乗るでしょ、駅員さん呼んで」ってね。俺とアユはさ、晴人のそういうのは見慣れてんの、でもやっぱり悔しいよね、なんで晴人だけ気づくのかな?
柏:周りがよく見えてるかたなんですね。
川:そうなの。みんなはさぁ、晴人のことは土壇場に強いとか行動派だとか勇敢だとか言うけどね、本当はそれって苦手でさ、「対処」してるだけなんだよね。
柏:対処?
川:うん。基本的に、予防第一なの。何かが起こるのって、晴人には「事故」なんだよね。いっつも、予想外のことが起こらないように起こらないように考えて動いてて、その考えのなかで、もし起こったらこうする、ああする、って心の準備してんだよね、たぶん。調子悪そうだとか、ちょっと困ってるとか、晴人は当てるのすっげー得意でね。失敗しそうなアスリートとか、失恋しそうな女の子とかも結構な確率なの。行動もできるんだけど、基盤として、観察的で用意周到な子なんだよね。でも、みんなにはさ、俺にしてみればってことだけど、とっさに、誰かを助けてあげる晴人しか見えない。
柏:それを…川奈さんは、歯がゆく思ってます?
川:うーん、歯がゆいっていうか…みんなは晴人に助けてもらって、晴人のこと好きになるんだけど、晴人は内心「助けさせてんじゃねーよ」って思ってると思うなぁ。晴人は世話好きなんじゃなくて、単に、心配するのが嫌なんだよねきっと。でも気づくから、モヤモヤしたくなくて世話しちゃうっていう。
柏:はあ。
川:俺はさぁ、晴人のそういう、優しくて、繊細で、本心のとこ寡黙で実直で、躊躇しないで行動に移せて、恩着せがましくも恨みがましくもしないの、すごく好きだし、尊敬してます。
柏:なるほど。
川:あー。時間ぱっつぱつに使っちゃった。
柏:ええ。まとめの一言で時間ジャストでした。助かります。
川:どういたしまして。話してたら、晴人に会いたくなっちゃったなあ。
柏:はあ。大好きなんですね。
川:うん。大好き♡ …困ってない?
柏:いえ、頼もしいです。ご協力、ありがとうございました。

さみしいなぁ。もっと話すとこ見てたいよ、川奈くん。鮎沢くんにも、よろしくね。鮎沢くんは、一回二回は恋に破れた匂いがしますね。腰を据えてかかってますねぇ。こちらはこちらで、気になります。あ、余談になりますが、この鮎川兄弟、最近、演劇方面の活動が疎かになりがち。その二足の草鞋はキツいと思うけど、出会いを大切にする彼らは今日も全力でお祭り騒ぎをしています。頑張れ鮎川兄弟。

柏木くん? 渋い顔して、どうしたの? 今日は結構、上手にできてたと思うよ??

柏:僕、ずっと、思ってたんですけど。恋愛って、そんなに大事なんですか? もっとほかに、大切なことたくさんあるし…誰かのこと考えるって、まず、面倒ですよね。なにより、よく知りもしないのにあーだこーだ、考えてぐるぐるして、むしろ好きな人に失礼じゃないですかね。ここの人たち、みんな何かにトチ狂ってる気がしてます。たまに会えてやれる相手がまあまあ楽しくて、向こうも向こうでそれくらいでよくて、日頃は自分のことしてて、お互い彼氏彼女って約束してれば、僕はそれでいいと思います。

まあねえ。でも、そういう感じの人たちを、反対にここの人たちは、何かを諦めてるって、思うかもしれませんよ。それに、そういう恋愛できるのは、柏木くんが恋愛強者だからかもしれないじゃない。向こうはそうでもなくて、一生懸命我慢してるのかもよ。

柏:そんな惨めな状態、恋愛じゃなくないですか。隷属ですよ。なんのために好きなんですか。自分のためでしょ。相手のために我慢って。は? て思いますけど。気色悪いというか。

柏木くん…。内輪だからって、いけませんよ、読んでる人がいるんだから、あんまり攻撃的にはならない。ね。

柏:はいっす。…なんかなぁ。僕は、みんな何でそんな、必死に、手に入りそうにもないものを追いかけてるんだろうって、思うんです、ただ。もっと、手に入るもので、そこそこ満足すればいいのに。そしたら、他に色々、出来ること、あるんじゃないですかね。

柏木くんもあれだよね、根が優しいから、心配になっちゃうんだね。

柏:そうなのかな。優しさというか義憤というか…なんだかみんな、幸せそうに不幸を噛み締めてませんか?  僕は、もっと、客観的に幸せになれる道を選べばいいのになって、思います。見てるとね。

むーん。そうですね。あれなんですよ、先人もね、言ってますよまさに。「岡目八目」ね。当事者には運命の糸は見えないんですよねぇ。柏木くんもね、いつか本当に恋をしたら、わかります。

柏:?…ちゃんと恋愛、してますよ。

そうね。そうなんだよね。そうなの。そういうのも、本当の恋なんだろうなぁと、私も最近、やっと思います。でもやっぱり、身も心も洗われるような、ずぶ濡れになるような恋、してみたいじゃない。

柏:否定はしませんが。押し付けないでほしいですね。

そうね。そっすね。押し付けないでいきましょう。

いやーしかし。書き込みました。川奈くんにも会えて、満足満足。

今回の…いいところは、ギリギリ、晴人が梨恵に会いに行く「かもしれない」ところで糸を止められたところでしょうね。現実にはそんなこと、ないかもしれない、でも、晴人ならどうにか梨恵を見つけ出して、成田空港だか羽田空港だかで梨恵を止めにかかるかもしれません。

そんなはずないんですよ。

もちろんわかってますよ、そんなはずないんです、人生、振り返ると、ああ、あの時、ほかにどうしようもなかったんだろうか、いや、やっぱりどうしようもなかったけれど、あれがなければ今の自分もない、というような、やるせない経験があるもので、晴人のこれはまさにそれでしょうから。

だって…こういう時、どうしますか?どうもしませんよ。ねえ。

何にもしなくて、何にもしないせいかどうかはわかんないけど、何にも起こらない。よくも悪くも、あとは、忘れるだけなんです。

でも…。

私がなにかを空想するのは、少なくとも、自由でしょうね。



大人な晴人の、こどもの国。実家でみつけて学習机に置いといたのを、なんとなく持ってきちゃって、とはいえ置き場がないため綱島宅のトイレに設置してある、セルと悟飯とベジータのフィギュア。通りがかりの公園のジャングルジムのてっぺんに登って見た、東京の薄っぺらい星空。法事に行ったら親戚に、まだ高校生だと思われてたこと。「社会人の彼氏」を自慢する同級生が3年経ったら「女子大生の彼女」じゃなくなることが心配になる、クラス飲み。ネット通帳で毎月、実家からの仕送りの金額の下に並ぶ、鮎川兄弟からの山分けの金額。知らない花の名前がたくさんあることや、コーヒーの良さがいまいちわからないこと。コルクボードのサークル写真や家族写真に紛れさせてさりげなく貼ってある、梨恵とのツーショット。梨恵とは普通に行けるけど同級生とは行けない、オトナ飲食店というカテゴリの存在。ぎゅって抱きしめてもらうときの、成長ホルモンが出るような、ふわっとする感じ。花見中、梨恵と年齢のことでちょっと、お互い、言った自分に傷つくような言い合いをしてしまい、そのあとライトアップを二人で見ながら無言で歩き続けた、深夜の目黒川沿い。渋くて嫌いじゃないけどついてもいけない、国立西洋美術館の常設展、の物陰で、こっそり梨恵とキスした、思い出。





本篇は、こちら:

梨恵は、ここにいます:


今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。