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『劇場版 春を謳う鯨』 / 西村 ちなつ presents ミナガワ

【合わせて読みたい:これは大村鈴香という複雑なひとの心の奥に悠々と横たわる、訪れる者のない美しい湖、の水面を、みんなでひっそりと覗き込む連載小説、『春を謳う鯨』の、特別企画!劇場版の完成披露試写会で公開の特別映像、キャストインタビュー②西村ちなつさん(ミナガワ役)編です。←長すぎて全部タイトルに入らなかった!! ※わぁい、華やか〜♡なキャスト紹介はこちら、次は柳居桔平さん(楢崎拓海役)編です】

(ハンディカム、普段着、古民家カフェで撮影されていて、チャプターでふわっと字幕が入ります→)

冒険から始まる本質への旅
のっけから、「セックスフレンドに鈴香への愛を激白」っていう、ミナガワファンには抵抗があるかもしれないシチュエーションから、映画がスタートしますよね。原作がある作品ですが、瀧仲監督は随所でこういう冒険をしています。例えば、麗のストーリーと奏太のストーリーが初めから別立てで描かれています。楢崎くんは飲み会の席で彼女トークして、鈴香の家に合鍵で入って、昔の手帳をこっそり調べて、何にも出てこないけど、「皆川」の字がたまに見える。佐竹さんは鈴香へのメールからねちっこい表現を削除しながら、古い携帯電話を電源につないで、鈴香の写真を探します。初めのほうに一連のこういう、原作にはない解釈的な場面を持ってきたのは、「映画では全然違うアプローチで行きますよ」っていう、一種の宣言になっていると思う。
ただ、だからこそというか、アプローチを変えるからこそ、本質は絶対に見失わないぞ、って気迫が、キャストも含めたスタッフ全員にあったと思います。原作は、鈴香の目線で他の人物が描かれて、人物たちとの関係性のなかで鈴香という人が彫り込まれていく作りになっていますが、映画では視線の向きがほとんど逆転して、鈴香以外の人たちから鈴香がどう見えているかが、丁寧に追いかけられています。

鈴香の複雑さ
どうして視線が逆転することになったのかというと、この作品の心理描写の部分での、ハードルの高さがあったからではないでしょうか。大胆で情熱的な性的交流が大きなハードルだったように見えるかもしれません。映画になるってわかった時に、一番に期待されるのはそこだったしょうし(笑)。もちろんハードルでした。
ただし、それが作品の主眼かといえば、そうでもないんですよね。この作品のテーマはというと、非常にオーセンティックに、人間性、人間関係なんです。
鈴香の内省が言語的には表現できないという制約のなかで、「鈴香という人を描ききるためには、どうすればいいか?」というのが、どのキャストにとっても課題になっていたと思います。
私は文学作品をもとにした叙情的な作品にも多く出させてもらってるんですが、文学的にエモーショナルな部分の演出ってすごく、難しいんですよね。
鈴香という人は見たところ、受身でだんまりでしょ。簡単に自分の気持ちを言わないし、いつも一般的な考えが台詞に入っていて、自分なりの何かを感じさせない。素で演じるとこれ、退屈な人になっちゃう気がして。私は、原作を先に読んでしまっていたので、そこが心配でした。
読んでいる時は、鈴香の内省の豊かさ・繊細さと、鈴香の行動の生硬さというか、ニヒルで決断的な面の複雑なギャップが、鈴香という人を知っていく快感、読みの推進力になっていますよね。でも、その複雑さを、鈴香の行動だけで表すのは、なかなか難しい。
私の考えですが、その課題に対して瀧仲監督はひとつの解決として、むしろ鈴香の内省を捨象して、代わりに登場人物それぞれの視線から鈴香らしく見える場面を丁寧に切り取ることで、鈴香を描ききったのだと思います。

すべては主人公のために
演じていて思ったのは、原作で鈴香から人物が描かれているのは、文章の流れとかじゃなくて、実はよく設計された仕掛けなんです。鈴香がはっきり描かれないまま話が進んで、一方で鈴香を取り巻く人たちはみんな魅力的で、読む人はまるで彼らが自分の恋人になったみたいな気持ちになるじゃないですか。それってちょっとしたトリックというか、目くらましなんですよね、みんな、一種の仕掛けにすぎなくて。鈴香は初め、主人公なのに他人みたいな登場の仕方をしますよね。考えていることと行動がどことなく解離してるような印象があるし、どうにも得体が知れなくて、一貫性がないようにみえる。どうして鈴香がそんなに魅力的なのか、そこがある意味、物語のミステリー、サスペンス性を担っています。そのミステリーに促されて、登場人物の言動に注意深くなったりね、そんなふうに物語にハマってから、やっと仕掛けに気付くんです。登場人物の本当の役割は、主人公の鏡なんですよね。読み手は鏡を見て、そこに鈴香じゃなくて自分が映っているような気持ちになってきて、次第に物語に、鈴香に入り込んでいって…気づくと、初めに他人みたいに見えた鈴香の世界のなかで、息をしている自分がいる。原作のそういう不思議な引力というか魔力というかを、瀧仲監督は別の形で、でも同じように顕現させていると思いますね。

役作り
ミナガワはわかりやすく両性的な魅力がありますよね。男性的なところと女性的なところのバランスで言うと、プラスプラスで、溢れてるって感じ。性格面でも、自分の美学があって、成果を自慢したがって、ちょっと自分を優先しちゃうところがあるっていう、「明るいけど気が利かない男子」みたいな一面と、好きな人には負担をかけたくなくて、自分が我慢できるなら我慢して、もっともっと気持ちはあるけど重くないように気をつけるっていう、「控えめで健気な女子」みたいな一面があって、その陰から性的な魔性が(笑)垣間見える。かと言って、キメラみたいな人でもなくて、ちゃんとそういういろんな面がひとつの人格として混じり合ってて、なんとも言えない「ミナガワ」感になっています。「鈴香大好き♡」っていうのが最前面に出てるから、ミナガワって結局、わかりやすく見えますけどね…こんな色々考えて、演じてるのに(笑)
ミナガワ頑張れ!って応援したい気持ちと、結構好き勝手やってるんだろうなって疑いが、どこまでも交錯して、ベッドシーンでだけ、「やっぱりちゃんと、ここにいるんだな」って思わせるような、そんな役になるように心がけました。
撮影秘話的な? …ブラインドタッチのところは、実はほとんど代役のかたがしてくれてるんですよ(笑)でも自分でするシーンを諦めきれなくて、すごく練習して、監督に駆け込みで、撮ってくれって、泣きつきました。

終わり、かな? ありがとうございました。劇場版、よろしくお願いします。


次回、柳居桔平さん(楢崎)
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①小松悠莉さん(鈴香)
④崔真央人さん(佐竹)
⑤千住光太郎さん(麗)
⑥伊月陣さん(奏太)&成田穂乃さん(倉沢)
⑦瀧仲安嗣さん(監督)




今日は明日、昨日になります。 パンではなく薔薇をたべます。 血ではなく、蜜をささげます。