見出し画像

雨とはいえない雨が降ってきた。
雲の色に隠れていた一筋の粒がすっと姿を表し、手のひらよりも大きな紫陽花の葉の中心に落ちる。雨粒は葉をこする音を立てながら滑り落ち、それから静かに土の奥へ吸い込まれていった。
次のは屋根の上に落ちた。鬼瓦に叩きつけられると弾け、もっと小さな粒へと形を崩した。
三つ目の粒は、その次やその次の次と一緒に落ちて車の窓ガラス張り付いた。充分重力に耐えてから力が抜けたように下がる。三つは惹かれあうように近づいてくると、一つの大きな粒になった。
次の瞬間、雨粒が千単位で降ってくる。庭中へ降り注ぐ。蝸牛は驚き触覚を素早く引っ込め、体をよじらせた。その間も雨は降り続ける。蝸牛は体に当たったものが雨だと分かると、そろそろと体を伸ばし始めた。
欠けた殻の持つ蝸牛は塀に張り付きながら歩いていた。白い粘液が彼の後ろに伸びている。消えそうなまでに細くなってはいるが、庭先にまで続いている。

久しぶりの雨。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?