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壁の向こうで人が生きている音がする。
食器があたる硬い音だったり、紙がこすれる音だったり、やかんから蒸気が吹き出る音だったり、洗濯機の回る音だったり、不規則なリズムの足音だったりが、壁の隣に座っていると聞こえてくるのだ。
聞こえてくる音は私もよく知っているものなので、どんなことをしているのか想像することは容易いが、そこに生きているのが男なのか女なのか若いのか年寄りなのか、知らない。
生きているその誰かは私と関わることなく生きている。
そして、本当はそこに壁がないのに、私にはその誰かが見えない。

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