大阪府立高校における必履修科目の配当学年についての一考察
この考察は、平成30年告示の高等学校学習指導要領が新しく施行された令和4年度における大阪府立高校の教育課程を調査してまとめたものです。
教育課程データの入手方法は情報公開請求(公文書開示請求)によるものですが、紙データから拾った(紙データしかくれない)上に、なぜか「漏れ」も何校かあって、全学校を網羅していません。ただ、一定の傾向は見られると思いますので、調査によって得られた考察を載せます。
同様に、東京都のものも全校分入手しましたが、数が多くて処理し切れていませんので、ご興味のある方はお声かけいただければデータを提供します。
1.はじめに
各高等学校は新学習指導要領に合わせた新しい教育課程(カリキュラム)を編成したと思われるが、これら教育課程は学校によって特色があり、教育課程(カリキュラム)を分析することで、各学校がどんな科目を重視し、どのような思想によって教育活動を行っているのかを垣間見ることができる。(と私は考えている。)
今回の分析は、各校において学習指導要領における「必履修科目」をどの学年に配置しているのかを調査し、分析したものである。
分析の対象校は、大阪府立高校全校であるが、同一学校に複数学科がある場合、教育課程が異なっていれば別の教育課程として扱った。令和4年度から、旧大阪市立高校が大阪府立高校に移管となったが、これも全て含めている。逆に、定時制高校・通信制高校、特別支援学校は、教育課程が大きく異なるため除外している。
また、少数の学校ではなぜか教育課程に「不備」があるとのことで、データを欠損しており、分析の対象から漏れている。結果的に、分析対象は150校・学科である。
この150校・学科は、学科によって「文理」「普通」「特色」「職業」「総合」「エンパワーメント」に分類した。また、入学時偏差値については民間学習塾のものを用いた。
2.学習指導要領における必履修科目
地理歴史・公民科について、新学習指導要領で新しく設置された「地理探究」の履修は「地理総合」履修後のみであり、同じく「日本史探究」および「世界史探究」の履修は「歴史総合」履修後のみであるとされている。すなわち、「地理総合」や「歴史総合」を3年次に配当した場合、「地理探究」や「日本史探究」、「世界史探究」は開講することができない。これは、理科における「物理基礎」「化学基礎」などが、「物理」「化学」と同時並行履修が可能であることとは異なる扱いである。
必履修科目の配当学年は、基本的には1~2年生にすることが望ましいと考えられている。最大の理由としては、必履修科目が高等学校における基礎的内容であり、これらを踏まえて発展的な科目を学習することが想定されていることである。また、編入学・転入学を希望する生徒がいた場合、他校で必履修科目を履修していない状況では編入学・転入学を断られたり、あるいは入学後に1人だけ必履修科目を別途履修させるなどの措置が必要となるため、望ましくない。なお、体育は標準単位数が7~8であるため、1~3年次に亘って配当されるし、保健は1~2年で1単位ずつ配当されることとなっている。
ただ、実情として、必履修科目を3年次に配当している学校は散見される。事情によりいくつかのタイプに分けられるが、まず1つは「低学力校」である。基礎的内容であっても1~2年次に配当するのが難しいため、3年次に配当している。こうした学校で3年次に配当されがちな科目は国語や英語などである。
2つめは、「専門(職業)学科高校」である。専門(職業)学科高校では、専門科目を25単位以上履修するように学習指導要領で定められており、「必履修科目以外は全部(ほとんど)専門科目」といった教育課程を編成している学校も多く見られるため、必履修科目は各学年に亘って配当されるというものである。こうした学校では、特に地理歴史科・公民科や理科、芸術科は、科目数が多いことや、その後に発展科目を履修させることを予定していないため、3年次に配当されがちである。
3つめとして考えられるのは、「選択科目の特化」であるが、これについては後述する。
3.国語科における必履修科目の配当年次
国語科の必履修科目の配当学年は、150校・学科のうち、137校・学科において1年次配当である。
「現代の国語」を1年次以外に配当している高校は、「職業」と「エンパワーメント」のみであった。
これらはいわゆる低学力校であり、通常1年次に配当すべき「現代の国語」を、1年次に配当するには課題が多いため、1年次にはさらに基礎的内容の科目を配当した上で、2年次において「現代の国語」を配当しているものである。本来、基礎的科目として位置づけられる必履修科目であっても、1年次に配当するには難しいと判断されていることがわかる。
なお、実は1校のみ(偏差値70台)で1~2年次の継続履修をしている学校があったが、これは標準単位数以上の内容を、科目名を変えずに履修しているものであり、事情が異なっていると推察できる。
同様に、「言語文化」を1年次以外に配当している高校は、同様に「職業」と「エンパワーメント」のみであった。
4.地理歴史科(地理)における必履修科目の配当年次
先述の通り、地理歴史・公民科について、新学習指導要領で新しく設置された地理探究の履修は地理総合履修後のみであり、同じく日本史探究および世界史探究の履修は歴史総合履修後のみであるとされている。すなわち、地理総合や歴史総合を3年次に配当した場合、地理探究や日本史探究、世界史探究は開講することができない。これは、理科における「物理基礎」「化学基礎」などが、「物理」「化学」と同時並行履修が可能であることとは異なる扱いである。
そうした条件があるにも関わらず、地理総合あるいは歴史総合を、1~2年次に配当しない理由を探っていく。
まず、地理総合を3年次に開講している学校は、入学時偏差値で言えば60程度~30台まで幅広く分布しており、計25校・学科である。
(ところで、この25校・学科のうち9校が総合学科である。総合学科は「幅広い選択科目の中から生徒が自分で科目を選択し学ぶことが可能であり、生徒の個性を生かした主体的な学習を重視すること」を目標としているにもかかわらず、集計対象17校の総合学科のうち9校では地理総合を3年次に開講している。→すなわち地理探究は開講できないということになる。実態として総合学科は低学力校に多く、当初の目標が必ずしも達成できていない実態を示唆している。)
これらの学校が、必履修科目である地理総合を3年次に配当している理由を、先述のタイプに分けて分析する。
まず、「専門(職業)学科高校」については、専門(職業)教育を優先しているため、地理探究を開講する教育課程になっておらず、地理を重視していないことが推察される。工業科を総合学科に改組した学校が3校含まれるが、これらは未だに工業高校の教育課程から脱却できていないことがよくわかる。
次に、「低学力校」については、他教科において基礎学力を養成する必要がある関係からか、地理歴史・公民科を重視しておらず、地理探究を開講する教育課程になっていない。
また、残りの学校(10校)については、「選択科目の特化」が考えられる。これらは主に入学時偏差値が50台以下の学校であるが、大学進学を目指す場合には概ね私立大学文系(いわゆる私文)がボリュームゾーンとなる。こうした私立大学は地理歴史科の受験科目として、日本史や世界史を設定していても地理を設定していない場合があり、「地理では受験できない大学」が半数を超えていると言われている。地理を開講するより、日本史や世界史を開講した方が受験に有利であることが、地理科目が軽視されるひとつの大きな要因となっていることが推定できる。また、これまでは世界史が必履修科目であり、地理が必履修科目ではなかった影響か、地理を専門とする教員が少ないこともそのひとつの要因であろう。
逆に、入学時偏差値が60台以上の学校では、全ての学校が地理総合を1~2年次に設定しており、地理探究を2~3年次に開講している学校も多い。生徒の能力を勘案しても、入学時偏差値が60台以上の学校では、仮に受験科目ではない地理探究を課しても十分にこなすことができるが、いわゆる「中途半端な進学校」「自称進学校」と呼ばれる学校では、生徒が多くの科目をこなせない可能性があったりするため、選択科目を歴史に特化した方がパフォーマンスが良いと判断されているとも言える。
ちなみに、大阪府立高校で地理探究を開講している学校・学科は76、同様に日本史探究は116、世界史探究は103であり、地理は軽視されがちであることが分かる(ただし、これら探究科目に類似する学校設定科目などは含まれていないので、実質的な数字とは若干異なると思われる)。
大阪府内の総合学科高校18校のうち、地理総合を3年次に開講している学校は9校しかないが、原因は恐らく、総合学科自体が元々「専門(職業)学科高校」をルーツとしている学校が多いことや、そもそも低学力校が多いことがその原因と考えられる。入学時偏差値が64とされるI高校は総合学科であるが、1年次に地理総合および歴史総合を履修し、3年次に地理探究、日本史総合および世界史総合を選択させている。また、S高校では、地理総合あるいは歴史総合のいずれかを2年生で選択し、3年生では地理探究あるいは日本史総合・世界史総合を選択させているし、K高校においては、前期・後期制の実施により、地理探究を3年生後期に開講しているようであり、工夫次第で改善することも可能である。
5.地理歴史科(歴史)における必履修科目の配当年次
歴史総合を3年次に開講している学校は、23校・学科であり、基本的には入学時偏差値50以下の「職業」あるいは「エンパワーメント」の学校である。
まず、「専門(職業)学科高校」については、地理総合と同様に、これらの学校では、専門(職業)教育を優先しているため、日本史探究・世界史探究を開講する教育課程になっておらず、歴史を重視していないことが推察される。
また、「エンパワーメント」については、他教科において基礎学力を養成する必要がある関係からか、同様に日本史探究・世界史探究を開講する教育課程になっておらず、歴史を重視していないことが推察される。
残る学校は、学校設定科目で3年次に地理探究・日本史探究・世界史探究に相当する科目を開講しているため、実質的には基礎科目と探究科目を同時並行開講しているし、S高校では先述の通り、地理総合あるいは歴史総合のいずれかを2年生で選択し、3年生では地理探究あるいは日本史総合・世界史総合を選択させている。
地理および歴史の探究科目の開講状況について、入学時学力偏差値別にまとめたものが次の表である。
学力偏差値が下がるにつれて探究科目そのものが開講されなくなっているが、そのなかでも開講率は「日本史探究>世界史探究>地理探究」の傾向にある。
6.公民科における必履修科目の配当年次
公民科の必履修科目である「公共」は1・2年次に必ず配当するようにされているため、それに違反する学校は存在しなかった。
7.数学科における必履修科目の配当年次
数学科の必履修科目である「数学I」を、1年次で配当していない高校は、「職業」1校と「エンパワーメント」7校であり、1年次には、さらなる基礎科目(「基礎数学」などと呼称)を履修していることとなる。
8.理科における必履修科目
理科の必履修科目は、「科学と人間生活」を含む2科目、または、基礎を付した科目を3科目となっている。地理歴史科・公民科などと違い、履修する学年や順番に特に制限はない。
ただ、「科学と人間生活」を含む2科目を履修させている学校と、基礎を付した科目3科目を履修させている学校には傾向があると考えられるので、分類別に分けると、「基礎を付した科目を3科目」履修させている学校の割合は、「文理」100%、「普通」95%、「職業」24%、「総合」53%、「エンパワーメント」25%といった具合であった。
こうした傾向は、地理歴史・公民科の必履修科目配当と似たものであると推察できる。
9.保健体育における必履修科目
体育については、標準単位数が7~8単位であり、1~3年次に平準して配当されるが、今回の分析では、150校・学科のうち、7単位配当の学校が102校(68%)、8単位配当の学校が47校(31%)、9単位配当の学校が1校となっている。
保健については、1~2年次に1単位ずつ配当するようにされている、それに違反する学校は存在しなかった。
10.芸術科における必履修科目の配当年次
芸術科については、150校・学科のうち、146校が1年次に配当している。
また、残りの4校はすべて「職業」(すべて商業科)に分類されるものであり、1~2年次に簿記や情報処理系科目を履修するために、芸術科が後回しになっているものと推察される。
11.外国語(英語)における必履修科目の配当年次
英語については、150校・学科のうち、143校が1年次に「英語コミュニケーションI」を配当している。1~2年次に継続して履修しているのは、入学時偏差値が全て40以下の学校であり、低年次には、さらなる基礎科目を履修していることとなる。
12.家庭科における必履修科目
家庭科については、150校・学科のうち、129校(86%)が「家庭基礎」(2単位)を選択しており、22校が「家庭総合」(4単位)を選択している。(重複する1校は、文系が家庭総合、理系が家庭基礎を選択している。)
家庭総合を選択している22校は、入学時偏差値は全て50台以下の学校である。また、22校中8校が、旧8学区(北部泉州地域)の高校に偏っており、地域的な要素(各学区の研究会などの影響)も考えられる。
なお、私見ではあるが、家庭科教育は今後の男女共同参画社会において非常に重要なものであるので、2単位の家庭基礎ではなく4単位の家庭総合を履修させることが望ましいと考えられる。
13.情報科における必履修科目の配当年次
情報科については、必履修科目である「情報I」を、150校・学科のうち129校(86%)が1年次に、14校(9%)が2年次に配当している。
14.さいごに
私は、普段から「教育課程(カリキュラム)を見ればどういう学校であるのか分かる」→「どんな科目を重視し、どのような思想によって教育活動を行っているのかを垣間見ることができる」と考えており、それがある程度言語化されたのではないかと思う。
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