メリーで血の気が引いた話

わが子は生後四ヶ月になったばかり。
うつ伏せにしても首が座ってきたなあという程度なのだが、足の力が強く、仰向けのまま数センチ進んでいることがある。

最初は見間違えかと思ったが、背中を床につけたままブリッジのような姿勢で動いているようだ。

少しホラー感のあるこの動きは腹ばいならぬ「背ばい」と呼ばれるらしく、どうやら彼女は背中の力が強い子がするマイナーな動きができるようになったらしい。

まあ、動けたとしても、数ミリ数センチ程度か。口に入れて危ないものも置いていないしとリビングで寝転んでメリーを見上げている娘を横目に、洗い物を片付けていた。

その時だった。

ご機嫌な声を上げていたはずの彼女から、突然、断末魔のような泣き声が聞こえた。

いつもと違う泣き方に驚き、顔を向けたわたしの目に映ったのは、メリーに顔を挟まれている娘の姿。

床置き型のメリーは、二本の脚に支えられている橋の上に、一本の枝のようなものが生えていて、その先にくるくる回るメリーが付けられている。そのメリーのブリッジ部分に、赤ちゃんの顔の一部がもぐり込んでいたのだ。
こちらからは、パーツでいうと顔の鼻と口しか見えていない状態だった。

……え!?

顔から血の気が引くのを感じながら、一目散に駆け寄ってメリーを退け、娘の顔を確認した。
目に見える怪我はないようだ。

「大丈夫!?けがは!?痛いところは!?」

ぺたぺたと目の周りや鼻などを触って、まだ話せない娘に声をかける。すると、「あう〜」となんともご機嫌な喃語が返ってきた。痛いところないよ!というようニコニコ笑いかけてくる彼女を見て、肩の力が抜けたと同時に涙が込み上げてきて、そのあと何度も何度も怪我がないか確認した。

それから、メリーの高さも高位に切り替え、顔を挟みそうなものは退けたりした。

今考えても、
背ばいでもう少し進んでいたら鼻や口が塞がっていたかもしれない…と思うと、ぞっとする。

まだまだ大して動かないはずと思い込んでいたが、想像以上に赤ちゃんはパワフルだし、まだ何も分かっていないし、危険はこんな近くにあったのだ。

けれど、少しの間でも目を離す恐ろしさを痛感したことで、「かもしれない」という危機感が芽生えたことは大きな成長だが、今はトイレの中にいても娘が泣いたら気になってしまい、急いで切り上げるようになってしまった。これはこれでまた別の問題である。

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