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言の葉の庭 解説(7,073字)

言の葉の庭を何度も観て、小説も繰り返し読んできたまとめをここに記そうと思います。また、後半では考察もしていますのでよろしければお付き合いください。参考にした記事などは最後にURLを載せています。

またこの記事はネタバレを含んでいるため、まだ作品をご覧になっていない方はお控えください。それではどうぞ。


目次の8からは考察になっています。

(スマートフォンでご覧の方へ。iPadで執筆しているため、改行がおかしかったり読みにくかったりしたら申し訳ありません)

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1 言の葉の庭の基本情報

公開日  2013年5月31日
監督   新海誠
制作   新海クリエイティブ コミックス・ウェーブ・フィルム
上映時間 46分
音楽   KASHIWA Daisuke
主題歌  秦基博「Rain」
題材   靴、万葉集、日本庭園、雨



2 言の葉の庭はどんな話か

結論から言うと、「二人の人間の再生復帰の物語」です。

というと、「いやいやいや、恋愛モノでしょ?」と突っ込まれそうですが、私はあまりそこに注目すべきではないような気がしました。もちろん公式サイトを見ても分かる通り、恋の物語です。ですが恋に落ちるのはあくまで過程であって、結果ではないんじゃないかなと思います。(←原作者に歯向かうファン)

この物語は「」がテーマの一つです。そしてこの雨というキーワードそのものが大きな比喩になっています。具体的には、雪野ちゃんと孝雄くんが人生の中の暗い時期にいるということを一年の中で一番晴れが少ない時期=梅雨に例えているということです。

どん底にいる二人が出会い、恋に落ち、人生の雨宿りを経てそれぞれ前に進んでいくというのが大きな流れになります。



3 雪野ちゃんはどんな人物か

基本情報をまとめます

名前 雪野百香里(ゆきのゆかり)
出身 愛媛県の今治
年齢 27歳
声優 花澤香菜さん

○ 雪野ちゃんが古典の教師になったきっかけは、中学校時代の恩師が国語教師だったことに由来している
○ 一人暮らし
○ 非現実的なほどの美人として描かれている
○ 美人すぎるが故に周囲から浮いてしまうことがコンプレックス



4 雪野ちゃんはなぜ味覚を失ったのか

「「──でもね、ちょっと前までは本当にチョコレートとアルコールくらいしか味がしなかったから」」

—『小説 言の葉の庭 (角川文庫)』新海 誠著
https://a.co/8nGz4fK


このセリフから、雪野ちゃんはチョコレートとお酒以外は味覚を感じられなかったということがわかります。ではなぜ味覚を感じられなくなったのでしょうか?

簡潔に言えば、職場である学校で根も葉もない噂を流され、それにより精神を病んだことが理由です。

映画では詳しく描かれていませんが、雪野ちゃんが担当していた女子生徒が事の発端でした。その女子生徒の彼氏は雪野ちゃんをからかうような行動を繰り返していました。雪野ちゃんは毎回然るべき態度をとっていました。しかしそれを知った女子生徒は雪野ちゃんがいなくなればいいと考え、無視や授業に遅刻するなどの行為をします。それを見た他のクラスメイトが雪野先生が何かしたに違いないと考え、一緒になって無視や授業妨害を行うようになりました。それがだんだんとエスカレートし、やがて真実ではない噂が学校中に広まり、生徒たちの親にも届くようになりました。そして雪野ちゃんは精神的に追い詰められ味覚障害を発症、学校を辞めざるをえなくなりました。



5 孝雄くんはどんな人物か

基本情報をまとめます

名前 秋月孝雄(あきづきたかお)
出身 東京都
年齢 15歳(高校1年生)
声優 入野自由さん

○ 言の葉の庭の主人公
○ 雨の日の午前中は学校をサボると決めている
○ 元々は「藤沢孝雄」であり、中学1年生の時に両親が離婚
○ 実年齢の割に大人なのは家庭環境も影響している
○ 母と兄と三人暮らし
○ 夢は靴職人になること



6 孝雄くんが靴に興味を持ったきっかけ

幼い頃からお母さんの靴で遊んでいて、だんだんと整理やメンテナンス、やがて靴の分解などもするようになったことがきっかけです。映画の中では孝雄くんが幼い頃、お母さんの誕生日に家族で靴をプレゼントしているシーンが描かれています。



7 孝雄くんは学校をサボっているが進級できるのか

独自で計算した結果、全然余裕で進級できるという結果になりました。興味本位で勝手に計算してみただけなので、公式から出ているモノではありません。あらかじめご了承ください。

○ 2013年の雨が降っていた日(4月〜9月まで)
○ 高校の出席日数
○ 全日制高校の進級認定条件

を考慮して計算しました。雪野ちゃんが愛媛に帰ってからは孝雄くんは普通に学校に通うようになっていたと思われますので、10月からは通常通り通っていると考えて計算しました。登校日数を200日と仮定、気象庁のサイトより2013年の東京の雨の日を割り出しました。(登校時間に雨が降っている日を雨の日として数えました)

午前中に休んだ日数 19日
(8月は夏休みなので入れていません)
高校の出席日数 200日
全日制高校の進級認定条件 出席日数の3分の2以上を出席していること

したがって、進級できます。
これが他の年だったり他にも休んでいた日があれば、また違う結果になっていた可能性はあります。また、2013年は平年に比べて梅雨が短かったようです。



8 年齢設定について

よくこの作品で問題視されるのが年齢だと思います。「年齢差のある男女の恋愛もの」というのは初めから決まっていたみたいなので、新海誠監督の理想が詰まっているっていうのはたぶん合ってると思います。(違ってたら申し訳ないです)その上で、結果論ではありますがこの年齢差について考えてみました。

まず雨がテーマになっているところからして、不安定な空模様のようなキャラクターが良かったのだと思います。これが学生と学生になれば若さゆえに自殺や非行、家出などをしかねないし、大人と大人になれば警戒心が解けず、話すきっかけもなかったのではないかと思います。現実の世界に引き戻す力のある大人あどけなさで心をほぐす青年のバランスが “結果的“ ではありますが、良かったのではないでしょうか。

(一応頑張ってみました)



9 二人が付き合う可能性はあるのか

正直に言うと、ないと思います。

孝雄くんと雪野ちゃんはその後も手紙のやり取りをしたり、メールのやり取りもするようになっていました。しかし「プライベートなことや恋人の有無を聞くのは避けていた」と小説では書かれています。また、孝雄くんはイタリアの「通いつめた靴工房でアシスタント的な仕事をさせてもらえるようにもなっていた」とも書かれており日本に住む様子はなさそうです。

「あの人が一人でもそうじゃなくても、どちらでもいい。時間が巻き戻せるわけじゃないのだ。それよりも俺はあの場所であの人にした約束を、今度こそ果たすのだ。」

—『小説 言の葉の庭 (角川文庫)』新海 誠著
https://a.co/5XGHjL3

お互いに恋愛対象というよりは人生の暗い時期を共に乗り越えた大切な人という認識になっているのではないでしょうか。



10 言の葉の庭の評価が分かれる理由

端的にいうと、共感できる人を選ぶ作品だからです。

孝雄くんは自分の夢と現実のギャップに苦しんでいます。雪野ちゃんは精神的に病んでいます。そしてこの二つのどちらかを経験した人でなければその感情というのは想像がつきません。また、よく考えると雨の日は学校をサボるなんていう大胆な行動に走る高校生はなかなかないません。雨の日にだけ会えるというロマンチックな設定も、年齢差もあまり現実的ではありません。(私の知人は「ファンタジー要素が一切ないファンタジー作品だよね」と言ってました)

したがって、孝雄くんと雪野ちゃんの状況を経験したことがない人からすれば、不安定な15歳と病んでる27歳が傷の舐め合いをしているようにしか映らないのです。(すごい失礼な言い方かもしれないけども。。)私はどちらも経験したことがあるので、なんて繊細に人の心の動きを描いている作品なんだろうと感動しました。

見る人を選ぶ作品であることは間違いなさそうです。



11 なぜ万葉集なのか

「「千年たっても人間の心は変わらんわいねえ。古典って素敵じゃろ?」」

—『小説 言の葉の庭 (角川文庫)』新海 誠著
https://a.co/dFue3tz

( 万葉集はどちらかというと小説の方がメインになるので、映画よりも小説の話になります。)

どんな時代も人は恋をするし、憧れを抱くし、悩んだり苦しんだりする。万葉集はそんな普遍的な人間の心の動きを強調しているのではないかと思いました。

言の葉の庭のキャッチコピーは「愛よりも昔、孤悲の物語」です。この「孤悲」というのは「片思いの状態」とも捉えることができます。小説では毎節ごとに万葉集が載っていますが、登場人物たちの孤独、つまり片思いというのも実は隠れたテーマなのではないかと考えました。そして万葉集は、そんな人間の片思い(恋)、それに伴う憧れや悩み、苦しみ=「人の心」の普遍さを際立たせる役割を担っているのではないかと思います。



12 孝雄くんと雪野ちゃんが恋に落ちるのは現実的か

○ 孝雄くん

孝雄くんが雪野ちゃんを好きになるのはありえると思います。なぜなら孝雄くんは高校生であり、大人をよく知りません。高校生の周りにいる大人といえば親や先生バイト先の人くらいで、比較対象が多くないからです。高校生くらいの子が同級生にはない大人の余裕に憧れたり恋をすることは割とよくあることなのではないかなと思います。(あとは自分の夢を素直に応援してくれる人が雪野ちゃんだけだったのもあるかと。。)

○ 雪野ちゃん

雪野ちゃんが孝雄くんを好きになるのは、普通に考えたらありえないです。27歳が15歳を好きになるって異常じゃない?って思うのが大多数の感覚だと思います。ただ、雪野ちゃんの置かれている状況を考慮するとありえるかもしれないなと思っています。

「友達もいなくて、味方もいなくて、顔みしりの誰ひとり私をかばってくれようとする人はおらず、世界中に存在するすべての人間から、世間のすべての視線から、悪意を注がれていると感じていたあのときの感じです。」

—『言の葉の庭』加納 新太著
https://a.co/iVg20OA

精神的な病を経験したことのある人はわかるかもしれないのですが、精神的に病んでいるときは過度に心配されるよりも日常的な会話をする方が心が楽になりやすいです。(少なくとも私はそうでした)人に心配されることでより一層自分がちゃんとできていないことを認識してしまうからです。

ラストシーンで雪野ちゃんが孝雄くんに言った「救われてた」というセリフが全てだと思います。雪野ちゃんは誰一人味方がいない世界で、唯一自分を腫れ物扱いせずに普通に会話してくれた孝雄くんにこの上なく救われていたんだと思います。

そんな孝雄くんのことを雪野ちゃんが好きになるのは自然なことなのではないかと私は思います。それが恋愛感情かどうかと言われると正直なんともいえませんが、人としては間違いなく好きになると思います。



13 なぜ新宿御苑なのか

日本庭園だったら全国各地にあるのになぜ新宿御苑なのかについて個人的に考えてみました。新宿御苑は新宿、そして東京都に位置しており日本でも変化の激しい場所です。そんな場所で新宿御苑は100年以上前からあります。(敷地だけで見れば1591年からあります)そして万葉集は移りゆく時代の中でも変わらない人の心を表しています。

○ 変化の激しい場所で100年前からずっとある新宿御苑
○ どんなに時代が変わっても変わらない人の心を表す万葉集

言の葉の庭の舞台に新宿御苑が選ばれたのは、言の葉の庭の題材である「日本庭園」と「万葉集」をリンクさせることのできる場所が、まさに新宿御苑だったからではないかと思いました。(ちょっと考えすぎかもしれませんが)

ちなみについ先日新宿御苑に行ってきたのですが、敷地があまりにも広すぎてびっくりしました。雪野ちゃんも孝雄くんも結構体力ある人だったのね、と。

実際にベンチ(?)に座ると想像以上に心が安らぎました。通いたくなるのもわかる。。。



14 学校の先生と生徒という設定について

この設定は単に物語に深みを増すためかなと考えています。ただもし他に理由があるとすれば、雪野ちゃんのギャップを作るためというのも考えられます。

雪野ちゃんは孝雄くんが最初から学校の生徒だと気がついていました。ですので基本的に孝雄くんと一緒にいる時はほとんどペルソナを被っている状態です。ですが孝雄くんは最初から最後までずっと素直な彼のままです。自分の弱さも他の人には見せようとしない部分も雪野ちゃんには見せています。(靴職人になりたいこととか)そんな孝雄くんの姿を見てきた雪野ちゃんが、最後の最後で自分の本心をさらけ出すシーンはとても心にくるものがあります。ペルソナの状態と素の状態のギャップを演出するためにこのような設定にしている可能性もあるのかなと思います。



15 私がこの作品を好きな理由

本作「言の葉の庭」の舞台は現代だが、描くのはそのような恋───愛に至る以前の、孤独に誰かを希求するしかない感情の物語だ。誰かとの愛も絆も約束もなく、その遙か手前で立ちすくんでいる個人を描きたい。現時点ではまだそれ以上のことはお伝えできないけれど、すくなくとも「孤悲」を抱えている(いた)人を力づけることが叶うような作品を目指している。

言の葉の庭 ウェイバックマシン

解説でも考察でもありませんが、これ以上言の葉の庭についての記事を書く予定がないのでこちらでおはなしさせていただこうと思います。

簡単に言えば、この作品が自分ごとにしか思えなかったからです。
雪野ちゃんの恩師に対する感情も、雪野ちゃんが職場に行こうとするけど行けない時の気持ちも、理想の自分と現実の自分のギャップに苦しむ孝雄くんも全部自分のことだなって思ってしまったからです。それと同時にものすごく救われました。自分の気持ちをこんなにも言語化してくれる小説に、物語に、私は巡り合ってしまったのだと心が震えました。人生の苦しい時間を乗り越えてきた人に、懸命に乗り越えようとしている人に光を与えてくれる作品です。「言の葉の庭」は暗闇をくぐり抜けてきた人にしか書けないような内容が含まれています。当事者の感情をこんなに繊細に描けるなんて、一体どんな人生を送ってきたのですか!と尋ねたいくらい。たくさんのことを考えさせてくれて救ってくれるこの作品が私はとても好きです。



16 その他

特筆すべき、まではいかない部分をまとめようかと思います。

○ ラストシーンで二人とも非常階段を使っているのはエレベーターが工事中だったから(1回目に観たときは普通に謎すぎた)

○ 孝雄くんが雪野ちゃんのためにつくった靴は実際に実物の制作もしている

○ 雪野ちゃんはわざと色っぽく描かれている↓

視点は15歳の主人公にあるので、ユキノは絵的にも色っぽくないといけなかったんですよ。そのため彼女の着る服も、後半にいくにしたがってわざと胸元が開くようなものにしてあります。


「ダイアローグへと歩み出すこと」――『言の葉の庭』新海誠監督インタビュー(中編)

○ 新宿御苑は2019年3月19日より、入園料(大人)が200円から500円に値上がりしている(映画の中では現金で払ってますが、交通系ICも使えます)

○ 雪野ちゃんは「君の名は。」でも古典教師をしている

○ 雪野ちゃんが学校を辞める原因となった相澤祥子という女子生徒の、中学時代の友達である「サヤちん、勅使河原てしがわら」は「君の名は。」の三葉の友達

○ 高雄くんも「君の名は。」に出ている(調べてみたけど絶対わからないとこに一瞬だけいました)

○ 「言の葉の庭」から「君の名は。」への時間軸は「小説 言の葉の庭」が繋いでいる

○ 高雄くんが見ていたパンフレットは「ノーザンプトン靴専門学校」で、実際にイギリスのノーザンプトンには靴学校や靴の製造業者が集中している

○ 雪野ちゃんが読んでいた本は、井上靖の『額田女王』(これも万葉集に関連している作品)

○ 雪野ちゃんが高雄くんにあげた本は『Handmade SHOES  FOR MEN』


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いかがでしたでしょうか。小説の内容を喋りすぎても良くないかなと思って、雪野ちゃんと孝雄くんのことに絞って書きました。小説を読むとより深く作品を楽しめるので、とてもおすすめです。ここって内容違くない?などありましたら教えていただけると助かります。

「言の葉の庭」はAmazon prime video、U-NEXT、DMM TV、FODプレミアム、huluで見放題だそうです。(私の記憶ではアマプラはたまに観れなかったりします)


今回はこの辺で🙇🏻
かなり長い記事になってしまいましたが、最後までお付き合いいただきましてありがとうございました❕🔅
それではまた 〜 👋🏻


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過去に書いた記事はこちら↓


参考にしたサイト↓



言の葉の庭の公式サイトはこちら↓

English ↓

小説はこちら↓



画像:言の葉の庭公式サイト より


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