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私たちはなぜ「助け合う」ことができないのか 〜「助け合う」種であるホモ・サピエンス〜

written by 今城直樹

エコシステムという概念があります。システムの構成要素とそれを取り巻く環境が相互に作用し、循環し、全体として成立しているという概念です。もともとは自然界におけるバランスの取れた全体モデル、いわゆる生態系を指しますが、IT業界での活用を皮切りに、ビジネス用語として用いられていることは、みなさんもご存じの通りです。

構成要素のそれぞれがメリットを享受しつつ、生態系そのものが維持され続けるには「豊か」であることが重要な条件だそうです。多種多様な要素が共存し、それぞれが自らの役割を全うすることで、お互いを支え合い、さらに豊かになっていくということでしょう。

エコシステムという概念は、私たちが所属する組織を考察する際に、重要な視点をもたらしてくれます。生態系が豊かであることでさらに豊かになっていくように、私たちの組織が発展していくには何が重要なのでしょうか?

役割を全うするだけでは足りない

自然の生態系では、構成要素が自らの命を全うすることが、他者を支え、全体への貢献になります。組織においても、構成員であるメンバーが役割を全うすることは、組織の成功に向けて、言うまでもなく重要です。営業が受注し、設計が図面を引き、工場が製造するように、機能や階層に分かれたそれぞれが、自らの役割を果たすことで組織は成立しています。しかし、昨今、組織開発が注目される現状を踏まえると、組織の発展に向けて、メンバーが役割を全うするだけでは不十分なのかもしれません。

組織の構成メンバーとしての役割に加えて、「人間としての役割」を全うすることにそのヒントがあるように思います。

「助け合う」種であるホモ・サピエンス

私たち人類は、生物学ではヒト属ホモ・サピエンスで、同属では現存する唯一の種と言われています。

かつては、ホモ・サピエンス以外にも種が存在していました。ネアンデルタール人などが有名ですが、ホモ・サピエンスは、そうした種の中でも身体的に弱い存在でした。しかし、ホモ・サピエンスだけが厳しい環境を生き抜くことができた要因に、お互いに「助け合う」という特性が挙げられます。助け合うことで個々の非力を補い、工夫をし、集団の力で種として発展してきました。

私たちに、種として「助け合う」という特性があるということは、それを全うすることこそが、組織のエコシステムに作用し、組織の成功につながっていくと言えるかもしれません。

「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれません。あたりまえのことのようにも聞こえるでしょう。しかし、「助け合う」ことは、実際には簡単なことではありません。

まずは「お互いを知る」

A社には複数の事業がありますが、M&Aや事業の統廃合などを経る中で事業間のシナジーが乏しくなっていきました。各事業の独立色が強く、ビジネスはもちろん、人の交流・異動もほとんどない状態が何年も続きました。成熟期・衰退期の事業と成長期の事業が存在し、全社的にリソースを最適化する必要が生じているにもかかわらず、各事業のトップは当然のように自分の事業を最優先します。社長としては、全社の最適を図った重要な打ち手を進めることが難しい状況がありました。

そんな中、いかに各事業のトップに会社全体の目線を持ってもらうか。そのために社長が選択したのは「お互いを知る」ことでした。

コーチングの仕組みを活用し、異なる事業の幹部同士を組み合わせ、彼らが一定期間、定期的に話をする機会を設けました。その目的は、お互いの事業や、相手の人となりについてより広く深く知ることです。最初は腰が重かった幹部も、回を重ねる毎に、自分のことを尋ねられる喜びを感じ、同時に自分以外のことについて知る機会を貴重なものとして考えるようになりました。しばらくすると、事業を越えて情報を共有する動きが出始め、全社の幹部が集まる会議でも、お互いの領域に対する発言が出始めました。今では、事業間の人事異動も生まれ始めています。

どこまでを自分にとって「最適」と捉えるか
ヒトという生物に話を戻すと、私たちは助け合って発展してきたものの、個体として見れば、個として生き残るという本能があります。組織に置き換えてみれば、それは、一人のビジネスパーソンとして、事業の責任者として、自らの最適を追求するという行動として表れます。

その時、どこまでを自らの最適の領域と捉えるかで、組織全体への影響が変わります。そして、その範囲の広さを左右するのが「お互いをどれくらい知っているか?」ということなのではないでしょうか。

A社では、各事業のトップが互いに理解を深める過程で、ビジネスへの直接的なメリットがなくとも、相手の組織を仲間と感じ、自分たちもその一部であるという認識が育っていったのだと思います。

***

組織をエコシステムとして捉えると、それぞれの役割を全うすること。仕事における役割に加えて、「助け合う」という私たちの根源的な特性としての役割を全うすること。そして、「助け合う」ためには、まず「お互いを知る」ことがスタートになります。

あなたが、お互いを知り、助け合う範囲をさらに広げると、組織全体はどう変わりますか?

【参考資料】
『NHKスペシャル 人類誕生』(全3回 2018年4~7月放送)日本放送協会

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筆者情報: 今城直樹
株式会社コーチ・エィ
国際コーチング連盟アソシエイト認定コーチ
一般財団法人 生涯学習開発財団認定マスターコーチ

名古屋大学法学部卒。株式会社リクルートに入社し、事業部門で営業、企画、人事に従事、コーポレート部門では主に新卒採用を担当。また、マネジャーとして自ら組織マネジメントを実践。採用担当時には1000名を超える人材と接点を持ち、人の行動の背景や動機について洞察を深めた。加えて、社内ミドルマネジャーの能力開発を担当した経験から、「強い組織を創る、良い組織を創る」ための本質的な取り組みへの関心が高まり、「人の主体性を高め、リーダーを開発すること」を主事業とするコーチ・エィに入社。

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