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【恋愛】出会いとは常に日常にある㉗

ミルクティーとブラックコーヒーを買い、片手に持ちながら
会議室まで戻ってきた、僕と佐藤さん
「二重螺旋さん、風通しが良くて見晴らしのいい場所ってここですか?」

「違いますよ、そこを出て階段で上に行くんです」

「そこって非常階段?」

「そうです、非常階段で屋上に行ってタバコ吸いましょう」

「屋上になんで上がれるの知っているんですか?」

「主任時代に屋上へ行った事があるからですよ」

「何処でも何でもしますね、本当に」

「屋上、見晴らしが良くて気持ちいいですよ」

「行きましょうか」

「ここでポイントです。そこの非常扉はオートロックになってるので、何か挟まないと一番下まで降りて
エレベーターで上がってこなくちゃいけなくなるので注意です」

「詳しいですね」

「オートロックって知らないで扉を閉めてしまって、一番下まで階段で降りましたからね」と笑って伝える

「経験者は語るってヤツですね」と笑ってくれた
非常扉にボールペンを挟んで、階段で屋上に行き、タバコに火を付けて煙を飲み込み
フーっと吐き出す。風が少し強かった、履いた煙は直ぐに流され散っていった
「眺めがいいですね」

「他に高い建物もないですからね、遠くに海も見えますよ」

「これで風がもう少し弱ければ最高ですね」

「そうですね、夏場は最悪ですけどね」

「二重螺旋さん、どうにかなりますかね?」

「何をどうするんです?」

「副主任候補さんたちですよ、レベルが低すぎるって言ってたじゃないですか」

「あぁ〜、お話にならないレベルでヤバいですね」

「それほどに深刻なんですか?」

「深刻ですね、あれで現場にいたらクライアントから不信感が湧きますよ。何よりも技術力がないから
主任への負担が軽減されなくて、無駄な残業が増えるんですよ」

「何回か繰り返さないと駄目ですかね?」

「今回みたいな感じで、あと4回は必要ですかね?」

「4回で何とかなりますか?」

「詰め込むだけ詰め込む!あとは僕が過去に作成した参考資料をファイルにして渡しますよ。1回やって終わりましたとは
流石に役員にも言えないですし、数回やる必要性があると伝えないと本当の意味で現場が崩壊しますよ」

「二重螺旋さんが、そこまで言うなら本当なんですね」

「僕は嘘をついた覚えはないですよ?」

「良く嘘を言っているじゃないですか」

「あぁ、あれは本当のことを伝えてないだけです。しかも嘘を付く場合は本当の言葉の中に嘘を入れるから嘘が本当になるんですよ?
嘘にも嘘の付き方ってのがあるんですよ、覚えておいて下さいね」

「二重螺旋さんって、本当に掴ませないところは掴ませないですよね」

「僕は僕であって僕以上ではないし僕以下でもないですから」

「また屁理屈が始まった」と笑う佐藤さん

「屁理屈へはないですよ。本当なんですから」

「タバコも吸い終わりましたし、下に行きましょうか?」と言いながら階段へ向かい出す佐藤さん

「あの、ちょっと」と言いながらスーツの上着を引っ張る、僕

「どうしました?」

「あの、あの、あのですね」

「どうしました?」

「抱きしめてもらってもいいですか?」

「ん?急にどうしました?そんなこと言わなかったのに」

「今回は疲れました。頑張ってます。元気をわけて下さい」

「二重螺旋さんが弱音を吐いて、甘えるってよっぽどですね。コッチに来て」

「わかりました」
佐藤さんは僕を抱きしめてくれた。1つ文句を言うのなら抱きしめるってよりも
ハグに近かったのが残念なところだった
「ん〜。僕の思ってたのと少し違いますけど、良しとします」

「ワガママですね」

「僕は誰よりもワガママなんですよ?知りませんでしたか?」

「知ってますよ。言い出したら聞かないしワガママなところも知っています」
こんな会話をしながら屋上で5分くらい抱きしめてもらった
「佐藤さん、続きをやりましょうかね」

「そうですね、やりましょうかね」

「良し、決めた。アイツ何度言っても理解しないから泣かしてやる」

「お、抱きしめ効果が出てますね」

「元気もらいましたからね」

会議室に戻り、またもや基礎を繰り返す
正直、教える側も教えられる側も苦痛を感じる状態が続く
そうこうしていると時間が定時に近くになり、道具の片付けを指示して
全体の片付けを僕と佐藤さんも行った
副主任候補を送り出して、僕と佐藤さんは最後に会議室を出た
駅までの道のりにあるコンビニでタバコを吸う
「どうですか?二重螺旋さん」

「どうですか?って副主任候補ですか?」

「そうです」

「正直、難しいですよね。レベルがバラバラでしかも低い、厳しいです」

「結果を出さないと行けないですからね」

「次の策を思いつくまで、この話はやめませんか?」

「そうですね。二重螺旋さんがそこまで思いつめているのは初めて見ますからやめましょう」

「話の話題を変えませんか?」

「どんな話題ですか?」

「地元の話とか?」

「私の地元は城下町でしたよ。そこで小学生の時に引っ越しをしてきて、就職するまでそこで暮らしていました」

「いいですね、羨ましい限りですよ。僕は父の仕事の都合で引っ越しが多くて地元と呼べる場所がないんです。
ましてや、小学生から、中学生から、高校生からの友達なんていないですから」

「そうなんですね、地元がないんですね」

「そうなんですよ。もし時間があったら佐藤さんの地元を紹介してくださいよ」

「そうですね、もし時間があったら紹介しますよ」

「そのもしが来ますかね?」

「それは、私にもわかりませんね」

「そのもしが来るのを僕は楽しみにしていますよ。タバコも吸い終わりましたし行きましょうか」

「そうですね、今日は帰りましょう」
駅に到着するまで佐藤さんと話をした
「あ〜ぁ、明日の役員への報告がめんどくせぇなぁ」

「なんて、伝えるんですか?」

「レベルが低くて困ったもんですって伝えますよ」

「ありのままを伝えるんですね」

「下手に伝えるよりも、素直に感じたことを言いますよ。下手に伝えてこじれるよりましですからね」

「まぁ、そうなりますねよ」

「次の手立てを準備しておかないとなぁ」

「なんのお手伝い出来ずに、すみません」

「気にしないでください。困ったらまた抱きしめてくださいね?」

「それならお安い御用ですよ」

「それなら頑張れる気がしてきましたよ」

「とりあえず、無理はしないでくださいね」

「無理をしているつもりはないんですけどね」

「そこが二重螺旋さんの怖いところなんですよ?」

「無理を無理だと思ったことがないですからね〜。性格なんですかね?」

「とりあえず、危ないと思ったら私が止めますからね」

「その時が来たら抱きしめてくださいね?」

「抱きしめるって約束はしませんよ?」

「無理のしようがないですね」

「だから、無理はしないでくださいよ」

「駅に到着しましたね、今日はここでお別れです。佐藤さんお疲れさまでした」

「はい。二重螺旋さん、お疲れさまでした」

つづく