「無限ビールおかわりの技」を食らって、路上に眠り込む
いつだったか、青年はあの人にこう尋ねました。
「この関係って、なんなんだろうね?」
あの人は、微笑んでこう問い返します。
「この関係って、なんなんでしょうね?」と。
お互いわかってたんです。ただの友達や親友ではないというコトを。一時は結婚しかけた。少なくとも、疑似夫婦のような生活をしてしまった。その時の記憶は、心の底に深く深く刻み込まれていたのです。
瞬間的にはどんな恋人よりも深く心がつながり合い、ふたりだけの世界を作り出してしまう。でも、しばらくすると、お互いの細かい欠点が見えてしまい、ギクシャクし始め、疎遠になってしまう。ところが、顔を合わせれば再び以前のように仲良くなる。
それを何度も何度も繰り返しました!
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「血みどろ湯舟事件」が起きてから何日か経って、あの人と話す機会がありました。確か、その場には浜田君もいたのではないかと思います。
「もう!あなたのせいで眠れなくなったじゃありませんか!」
「それは、こっちのセリフだよ…」と、青年は心の中で思いました。彼女のコトを考えて、何日も何日もまともに睡眠が取れないでいたからです。でも、口にはしませんでした。
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そういえば、こんなコトもありました。
何かの飲み会の際に、ボランティアのメンバーがまだエレベーターの中にいるのに、青年はエレベーターの外から一生懸命「閉まる」のボタンを押そうとしています。ベロンベロンに酔っぱらっていて、「開く」を押しているつもりだったのです。
何度も何度も「閉まる」のボタンを押し、そのたびにボランティアのメンバーが外に出ようとしてドアに挟まりかけるのを見て、青年はケタケタと笑いました。
それもこれも、あの人がいけないのです。「無限お茶おかわりの技」を今回は、ビールでやってくれたからです。
「断るのも悪いかな~?」と思い、青年はコップに注がれるビールをひたすらに飲み続けました。コップが空になりかけると、絶妙なタイミングであの人がビールを注いでくれます。それも、きれいに泡が立つように。なので、また飲んでしまいます。その繰り返し。
結果、前後不覚になるくらいベロンベロンに酔ってしまったのでした。
そのまま家に帰ろうとしましたが、さすがにまともに歩くことができません。心配になったあの人は、ずっと青年についてきてくれました。そうして、自分の家の近くまで連れて行ってくれました。
「ちょっと、ここで待っててくださいね。1度家に帰って、お母さんに報告してきますから♪」
そう言って、彼女は自宅のあるマンションの中へと消えていきました。
数分後、あの人はマンションから出てきました。そうして、「さあ!行きましょう!近くに深夜も開いてるファミレスがあるんですよ」と言って、近所のロイヤルホストに連れて行こうとしました。
ところが、青年は何を思ったか、その誘いを断ります。きっとプライドが許さなかったんでしょうね。こういう時には素直に助けを求めればいいのに…
「大丈夫!浜田君ともそうしたんです♪」みたいなコトをあの人は言ってます。
でも、結局、青年は彼女の手を強引に振り切り、ひとりで夜道を駅の方向へと歩いて行ってしまいました。それから5分くらい歩いて電柱の側に座り込み、グ~スカピ~と眠り込んでしまったのです。
目が覚めると朝日が照り始め、スズメがチュンチュン鳴いています。酔いの醒めた状態で最寄りの駅まで歩き、そこから電車を乗り継いで自分の部屋へとたどり着きました。そうして、朦朧とした頭で寝たり起きたりを繰り返しました。
「あ!きっと、心配したあの人から電話があるな!」と思いました。それから何時間も待って、午後の6時くらいにようやく電話の呼び出し音が鳴ります。
サッと受話器を取ると、案の定、あの人からの電話でした。
「昨日は大丈夫でした?ちゃんとおうちまで帰れましたか?」と、思った通り心配してくれています。
ところが、あろうことか、待ちくたびれた青年は「もう!なんでもっと早く電話してくれないの!」と文句を言ってしまったのです。ほんとは「心配して電話してくれたんだね。どうもありがとう♪」と言おうと思ってずっと待っていたのに!
そんなコトをすれば、もちろん嫌われてしまいます。
「ええ~!?」と驚いて、彼女は電話を切ってしまいました。
noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。