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大人になったら自由をちょうだい!

14歳の頃から見始めた空想は、この頃になってもまだ続いていました。アレから3年近くも経つというのに、頭の中には断片的なイメージが浮かんでは消え、浮かんでは消えするのです。

それらは1枚のイラストや写真のような時もありましたし、映像として脳内に再生されることもありました。時には、会話の内容まで伝わってくるのです。


このところ、少年は「魔界のイメージ」を数多く見るようになっていました。魔界の王として君臨する「伝説の悪魔」のモノも、もちろんありましたし、魔界そのものの描写もありました。

たとえば、「魔界の植物」「魔物の卵」のイメージです。魔界はいつも薄暗く、日は照っていません。いつも夜なのかもしれませんし、常に空を厚い雲が覆い続けているせいかもしれません。あるいは、太陽の光が届かない地下にある世界なのかも。

魔界には、奇妙な形の植物が多数生息しています。植物園や図鑑でも見たことがないような特殊な形状をした植物の数々。その内の何種類かは、魔王の住む城をツタのように這い、城全体を覆っています。城の中にまで侵入してくるツタもありましたが、誰も手を入れようとはせずそのまま放置されています。

もう1つ。魔物の卵の方は、魔王の城の1室に安置されています。棚や床いっぱいに様々な形状をした卵たちが所せましと置かれているのですが、どれ1つとして孵化していないのです。それは何ヶ月経っても変わりませんでした。

その光景を眺めながら少年は考えます。

「何か、孵化条件が足りないんだ。卵から魔物が生まれてくる条件が…」

植物はスクスクと成長するのに、卵は成長しない。どんなに待っても相変わらず卵のまま。何も生まれてこない。

きっと、それは「ここ」にいるからだ。この狭い世界、家庭や学校という狭く苦しい環境にいる限り、卵は卵のまま。社会に出なければ!社会に出て数多くの経験を積まなければ!

少年は、そんな風に考えました。「直感」としか言いようがありませんが、その直感は当たっていました。社会に出てから、魔物の卵は孵化し、成長を始めることになります。

でも、それはまだ先のお話。

         *

さて、読者のみなさんも思っていませんか?

「この日々は一体いつになったら終わるのだろうか?もしかして、永遠に終わらないのだろうか?」と。

少年は、毎日そう思い続けていたのです。何年も何年も…

11歳の秋に始まった戦いは、いまだに続いています。このまま行くと、もうあと3年近くは続くでしょう。その後は?

その後は、大学に行くか社会人になるかして、やっぱり戦いは続くでしょう。あの母親の望むまま、望みのルートを進まされることになります。

そうしなければ、激怒するのです。ありとあらゆる方法を使って、母親は「自分の理想としたルート」に無理やり進ませようとするに決まっています。これまでそうであったように。

「地獄だな。ここは、やっぱり地獄だな…」と、あらためて思いました。

子供の頃に読んだ「地獄」の本には、こう書かれていました。

毎日毎日、同じ責め苦が続く。
針山地獄では、毎日全身を針で貫かれ、体が壊れれば再生させられ、再び同じ罰を受ける。
血の池地獄では、血の海でおぼれさせられ、おぼれ死んでしまったら復活させられて、また同じ目に遭わされる。
そのような地獄が何百種類もあって、生前犯した罪の重さに応じて、何億年も何兆年も同じ行為が繰り返される。
死んでは生き返り、死んでは生き返りを繰り返す。

それと同じだな、と思いました。

高校を卒業した後はどうにかなるかもしれませんが、最低でもそれまでの3年近く、毎日毎日地獄の責め苦が続くのです。もはや、耐えられる気がしません。


ここで少年は再度契約を果たします。2度目の契約を。

小学6年生、12歳の秋に交わした契約。それと同じ手法を使ったのです。

「お願い。大人になったら自由をちょうだい!代わりに、もうしばらく我慢するから…」

あの時は「中学に上がってから使うはずだったエネルギー」を小学校の内に使ってしまいました。

では、今度は?今度は、何を犠牲にしたのでしょうか?

この契約によって、今度は「大人になってから使うはずだったエネルギー」を投じることになります。本来、もう何年かしてから「仕事に没頭するために使うはずだった力」です。

そんなコトをしたら、どうなると思います?大人になってから働く気がなくなってしまうのです。

でも、周りの大人たちは誰も知りません。少年がそのような危険な行為に及んでいたことを。そこまで無理をして周りの人々の期待に応えようとしていたことを…


今でもハッキリと覚えています。

それは、ある晴れた日の午後。青空には雲が浮かんでいました。自転車通学の帰り道。いくつもある小さな坂。その坂の内の1つを登り切ったところ。坂のてっぺんで、少年はイメージを見ます。

悪魔のイメージを。

少年は悪魔と契約したのです。「大人になって自由になる!好き勝手に生きさせてもらう!好きな時に眠り、好きな時に目覚め、起きている時間もずっと自分のやりたいコトをやらせてもらう!」

そういう契約です。

悪魔は答えました。まるで、画面越しに会話しているようなイメージでした。遠い国同士の人たちが画面と画面を通じて会話しているような、そんな状況。画面にはいくつものノイズが走っています。

「契約成立だ。オレが保証しよう。お前は必ず自由になるよ。大人になったら自由になる。それだけは確実。それ以外の全てが不確かであろうとも、それだけは絶対に確実な未来なのだから」

少年には、わかりませんでした。この時の悪魔が、いつも頭の中に浮かんでくる「伝説の悪魔」と同一のものであったかどうか。何か、見た目は全然違うように思えます。この時の悪魔は、それこそ図鑑に出てくるような「絵に描いたような悪魔の姿」をしていたのですから。

そう!この時の少年は知らなかったのです!

「一体、自分が誰と契約を結んでしまったのか?」を…

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