少年の夢は、ただ平凡な人生を送ることだった

さて、どこから話すとしましょうか?

一番最初ですかね?やっぱり。

…とは言っても、9歳か10歳くらいまでは、特に話すことは何もないんですよ。別段どこも変わったところもない普通の子だったので。

…となると、やはり11歳でしょうね。

では、11歳のあの日から始めることにいたしましょう。


その少年は、どこにでもいる普通の子でした。見た目もいたって平凡で。物の考え方とか感じ方とか、その辺にいる同じ年頃の子たちと大差なく。子供なら誰もが好きになる遊びが好きになり、お化けや死体なんかを怖がり、海やプールが好きで。学校は嫌いじゃなかったけれども、それでも選べるならば夏休みの方がいいに決まってました。

あえていうなら、その辺の子供たちよりもちょっとばかし頭は良かったかもしれません。学校の勉強であれば、教科に関係なくどれも上位に位置することができました。それも、さして努力することなしに。

本気を出せば、1学年で学ぶ内容を1教科につき1週間くらいで終わらせることだってできたかもしれません。少しゆとりを持って1ヶ月くらい?「算数」「国語」「理科」「社会」と4科目あれば、合計で4ヶ月。残りの8か月は遊んで暮らすことだってできたんです。

もちろん、小学校ってそういう仕組みでできてませんよね?特に日本の小学校は。どんなに勉強ができたって、「1年で学ぶ内容をさっさと終わらせて次の学年に行く」なんてことはできません。そういうルールになってるんです。

なので少年は、自分の勉強はさっと終わらせて、授業中はボ~としながら過ごしてました。もちろん、片耳で先生の話は聞きながら。


そんなある日のことです。

少年の母親は自分の子供の才能を見出し、より高度な教育を受けさせようと決心しました。

そう!その子は天才だったのです。少なくとも、母親はそう信じていました。当の少年本人は「自分は凡人だ」と信じて疑わなかったのに。

少年の夢は「幸せな人生を送ること」でした。周りの他の子たちと変わらず学校に通い、同じような遊びをして、近所のソフトボールクラブに参加し、できることならレギュラーを獲得する。その程度の夢です。

大人になってもそれは同じ。どこかで素敵な女性と出会い、恋をして、結婚し、幸せな家庭を作り、子供を育てる。そして自分の子供にも同じように素晴らしい少年時代・少女時代を過ごしてもらう。

どこにでもあるような普通で当たり前で平凡な人生。そういう人生を送り、満足しながら死んでいくのだと、そう信じていました。その日までは…

でも、そんな幸せな日々は、ある日突然終わりを告げたのです。


母親が最初に少年を連れて行ったのは、近所にある「学習教室」でした。家から歩いて1~2分の所にあるマンション。そのマンションの1室に、個人がやっている学習教室があったのです。

その教室で、少年は体験学習を受けます。1枚の大きなプリントに日本のいろんな都市がイラスト付きで描かれていて、すごろくのようになっています。

「わ~」と少年は歓声の声をあげました。一瞬で「おもしろそう!」と感じたのです。

最初の街からスタートして、問題を1問解くごとに1マス移動することができます。少年は得意になってどんどん問題を解いていきます。そうして1時間くらいの間に全部のマスを移動し終えてしまいました。

教室の先生は目をまん丸にして驚いています。

「これ、普通の子が1ヶ月かけてやる教材なのに…」

少年は次を要求しました。

「日本の都市を巡るシリーズ」の横に「世界の街を巡るシリーズ」のプリントが置いてあったのを目ざとく見つけたからです。

でも、その要求は却下されました。

「ごめんなさいね。こっちは正式に教室に入ったした人用なの。ここで勉強することになったら、一緒にやりましょうね♪」と先生はやさしくこたえてくれました。

少年は、心躍らせました。

「早くこの教室で学びたいな!世界の街を巡る旅に出てみたい!」と。

でも、その夢がかなえられることはありませんでした。

「この子には、この教室は簡単すぎる。ここはバカな子が通うところだわ。学校の勉強についていけないような子が、仕方なく通うような場所なのよ」と、そう母親は口にしました。

もしも、あの時、あの教室に通わせてもらっていたら…

きっと全く別の人生を送ることができていたでしょう。少年が一番最初に夢見たように、幸せな家庭を築き、子を成し、同じような体験をさせる。その夢もかなっていたかもしれません。

でも、残念ながらそうはなりませんでした。


※思った以上に長くなりそうなので、続き物にします。物語は、まだ序盤の序盤に過ぎません。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。