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狂ってるのは自分か?それとも世界の方か?

ここまで読んできたみなさん。この時の少年は、頭がおかしいと思いますか?精神的な病に侵されている?狂っている?

もしかしたら、その考えは正解だったのかもしれません。だって、周りの子たちが必死になって受験勉強に没頭している間、1人だけ「魔界の王」に憧れたり、「自分は死者だ」と思い込んでいたりしたのですから。

普通なら、精神病院に叩きこまれてもおかしくない状況です。

でも、少年にはもう1つの面がありました。もう1つの「能力」と言ってもいいかもしれません。

そんな自分を冷静に見つめ、分析する能力。「自分は頭がおかしいかもしれない」というコトを自分自身で見つめ、認める能力です。

「本当に頭のおかしな人間は、自分が頭のおかしな人間だと自覚してはいない」という言葉もあります。

この言葉に従えば、少年は正常であり、狂っているのは「自分は絶対に間違っていない!」と信じ切っている周りの大人たちの方だということになります。

さて、ややこしいコトになってきましたね。

「正しいのは世界の方か?大多数が支持している考え方なのか?間違ってるのは少年の方で、少数派の意見?」

ま、その判断は読者のみなさんにお任せするといたしましょう。


いずれにしても、少年が精神病院に叩き込まれることはありませんでした。なぜなら、そこから逃れる術を知っていたからです。

たとえ、病院の先生の前に連れ出され、診察を受けたとして、「心の底にある思い」を表に出さなければいいだけです。平然とした態度を取り、冷静に受け答えをするだけで大丈夫。

相手の顔色をうかがって「模範解答」を引き出すなんて簡単でした。だって、子供の頃からずっとそうやって生きてきたのですから!

心の中に「特殊な世界」を持ちながら、表面上は平然と日常生活を送ってみせるのです。


たとえば、小説家やマンガ家の頭の中はどうでしょうか?

妄想でいっぱいに決まっています!むしろ、その基準から言えば、この時の少年は「非常に優秀な作家」だとも言えたのです。

作家だって、お風呂にも入れば、ハミガキもするし、ゴミも出すでしょ?もしかしたら、創作に没頭し過ぎて、日常生活に支障はきたすかもしれませんけどね。

少年も、それと同じ状態でした。「やろうと思えば、日常生活も難なくこなす。ただし、空想世界に没頭すればするほど、無理が生じてくる」そういう状態だったのです。

         *

「家庭」という名の地獄で生き残るために、戦闘力を上げ続け、様々な戦闘用の能力を身につけていった少年。おかげで、言葉に対する耐性は極端に高くなりました。

ただし、学校に通うのはもう限界でした。それだけは我慢がなりません。なにしろ授業についていけないのです。

そこで少年は一計を案じます。たとえば、物理の授業中にクロスワードパズルの雑誌を持ち込んで、授業そっちのけで解き始めました。こうすれば、教室を追い出されて、学校を辞めるキッカケになると思ったのです。

でも、誰も怒ったりはしませんでした。先生は注意1つしてこないし、周りの子たちはうらやましがったり、興味津々の目で見たり、無視して授業に集中するばかりなのです。

「これは失敗したな…」と少年は思いました。同時に「おもしろいアイデアだったな」と感じました。「物語として通用する」と。


今度は、授業中に手を上げて、保健室に行かせてもらいました。我慢強い少年からすると、これは非常に勇気のいる行為でした。が、「物語」のためならどんなコトでもできる気がしました。

保健室を訪れ、しばらくの間、ベッドの上に寝かせてもらいました。そうして、天井を眺めながら「これはダメだな…」と思いました。なぜなら、物語としてはありきたり過ぎるからです。

「学校の授業についていけなくなって保健室に逃げ出すだなんて、ドラマでよく見るシーン。これではダメだ」

そんな風に考えたのです。

代わりに数学の先生が話してくれた生徒の話を思い出しました。

昔、この学校で、1人の生徒が校舎と校舎の間をつなぐ橋の部分から飛び降りて、自殺を図ったことがある。
私は、飛び降りた生徒の所へあわてて駆け寄った。すると、彼の顔から目玉が飛び出していた。あまりにも焦ってしまい、混乱した私は、とりあえず目玉を顔の中に戻そうと必死に押し込んだ。

…というような話です。

なぜ、その生徒が飛び降り自殺をしたかは、なんとなく察しがつきました。今の自分は、似たような境遇にあったからです。それよりも、少年が関心を持ったのは別の部分でした。

「まだあっちの方がストーリーとしておもしろいな」と思いました。でも、飛び降りて死ぬわけにはいきません。それでは物語が終わってしまうし、なによりも小説を書くことができなくなってしまうからです。

「まだ死ぬわけにはいかない!」

少年は固く、そう決心しました。

たとえ、心は死んでいても、肉体は生きて物語を生み出さないといけないのです。「世界最高の作家」になり、今後数百年に渡って読み継がれる物語を!

なぜなら、それが14歳の時に立てた誓いだったからです。


それに…

「まだ、あの人に会っていない」

頭の中に生まれた理想の女性。それは、単なる妄想かもしれません。でも、もしかしたら、この世界のどこかで少年との出会いを待っているかもしれないのです。その出会いに賭けてみたいという思いもありました。


そうこうしている内に、ついに限界が来てしまいます。少年は、午後からの授業は出ずに、自転車に乗って学校を飛び出してしまいました。

そうして、大きな川の側にある公園を散歩しました。

「広いな。ああ、これが世界なのだな」と思いました。「あそこはあまりにも狭過ぎる。壁に囲まれた小さな世界。物理的な面積も、人々の考え方も、教えている内容も」とも考えました。もちろん、あそことは学校のことです。

「もっと広い世界に飛び出したい」

心の底から強くそう願うようになりました。この願いは、今後、何年にも渡って続いていくことになります。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。