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「まだ見ぬ書き手へ」(丸山健二)

今回紹介するのは「小説の執筆法」の本です。

「小説の書き方」について書かれた本というのは、世の中に山のようにあふれ返っていますが…

その中でも、ほんとに読む価値があるのは、ほんのわずかに過ぎません。これは、その内の1冊。ヘイヨーさんの本棚に並んでる本の中でも「極上」に位置します(同じ本、4冊も持ってるくらいですからね)

ただし、いろいろと注意点があるので、今回はその説明をしていきたいと思います。

「まだ見ぬ書き手へ」と題されたこの本。筆者は丸山健二さん(通称:マルケンさん)

若くして「芥川賞」を受賞して、「最年少受賞者」としての記録を長年破られなかった人です(ついに破られたのが、綿矢りささんの時)
ま、そこんとこは別にいいです。そんなに重要でもないので。


で、本の内容なんですけど…

マルケンさんが「ガチで小説の書き方を語ってくれている」というモノ。
たとえば、「小説家としての心構え」とか「初めて小説を書く時の方法」「作家としてデビューした後の人とのつき合い方」などなど。

一言で言えば、「かなり厳しい!」です。昭和の根性論みたいな感じなので、現代人には合わない人が多いかもしれません。それゆえに、実践すれば「真の実力」が身につきます。

ヘイヨーさんも、かなり参考にさせてもらいました。


ただし、最初から「これ、凄い本だ!」と理解できたわけではなくて、一読目は「なんじゃ、こりゃ!?言ってるコト、ムチャクチャじゃないか!」と腹を立てて、壁に投げつけて、そのまま何年も放置してたくらい!

でも、あまりにも小説が書けないものだから、ある日、もう1度手に取ってみたんですね。
「いや、でも、もしかしたら、マルケンさんが言ってるコトにも一理あるかもしれない…」って。
そしたら、以前に比べたら、腹が立たなかったんです。そして、内容も理解できた。

で、試しに実践してみたんですよ。本に書いてある内容を。
すると、やっぱり厳しいんですよ。「なんで、こんなにツライ思いをしながら、小説を書かなきゃいけないんだろう?」って。
それでも、どうにかこうにか1作完成したんです(確か、原稿用紙200~300枚程度の作品だったと思います)

ここから先が、さらに厳しいんです!
なぜかというと「7回書き直せ!」って書いてあるんです。なので、書き直しましたよ。ヒィヒィ言いながら。実質5~6回くらいしか書き直してないんですけど(最後の6回目とか7回目には、ほとんど直すところなくなってるので)
それでも、一応、書いてある指示通りのコトはやり通しました。

すると…
格段にレベルアップしてるんです!

「だから、2作目は楽々書けるようになった!」とまではいかないんですけど、それでも1作目に比べれば半分くらいの労力で書けるようになりました。
3作目は、2作目のさらに半分。4作、5作まで来ると、ようやく慣れてきて「かなり楽に小説を完成させられる」ようになってきます。


「え?じゃあ、素晴らしい本じゃないの!」と思われるかもしれませんが…

これがですね。違うんですよ。読んでもらえばわかるんですけど、「長所はあるんだけど、欠点も大きい」ってタイプの本なんです。特に、マルケンさんの偏見が強いんですね。なので、読んでると気分が悪くなる人もいると思います。

たとえば、日本の作家を凄くバカにするわけですよ。「あんな女のような性格の奴に、いい小説が書けるわけがない!」みたいな感じで(これ、同時に女性差別でもありますからね)

けど、そういうタイプの小説の中にも傑作はあるんですよ。芥川龍之介とか太宰治とか。読んでると「うわ~!もう世界の終わりだ!」「もう死ぬ!死んじゃう!死ぬしかない!」「絶望だ。世の中は絶望の闇に満ち満ちている」みたいな心理描写がひたすら続くんだけど、でも、いい作品!(たぶん、マルケンさんはああいうの嫌いなんでしょうw)

本の中に頻繁にその手の表現が登場するわけです。「こういう奴はダメだ!」「こんな生き方をしちゃいかん!」ってのが。

とうもマルケンさんの中では「都会に住んでる人はいい小説が書けず、田舎に住むべきだ!」って固定観念があるらしいです。あとは「絶対に小説は手書きで書くべきで、ワープロなど使っちゃいかん!」みたいだし。そんなのがひたすら続くんです。

さらに、マルケンさん自身、後年守らなくなってくるんです。自分で決めたルールを。

例をあげれば、「小説家は筆一本で生きていくべきで、他の仕事は一切しちゃいかん!」って書いてたのに、小説以外にもエッセイを書いたりもしてるし。あげくのはては、自分の名前を冠した賞を作って、そこの審査員をやり始めるし(しかも、賞に応募するのに結構な金額を取るわけです)

これ、みんな「まだ見ぬ書き手へ」の中で、「絶対にやるな!筆が荒れるから!」って禁じてたコトばかりなんです。

※もっとも、マルケンさんが書いてるエッセイは、小説と違って読みやすいし、結構おもしろいので、みんな読んであげてください♪
オススメは「生きるなんて」(これは中学生とか高校生でも読めて、ためになります)と「田舎暮らしに殺されない法」(こっちは「田舎暮らしがいかに大変か?」をリアルな視点で語った本)です。


あとね。最近はツイッターで大暴れして「アレもダメ!」「これもダメ!」って文句言うだけの人になっちゃいました。いわば「老害化」しちゃったんですね。

たとえば、「アニメなんて軟弱なモノ見てる奴にいい小説は書けん!」みたいなヤツです。

これ、あたりまえの話なんですけど、アニメの中にも傑作があれば駄作もあるんです。文学の中にも同じように駄作も傑作もある。「表現方法」や「ジャンル」じゃないんです。

その辺が全然わかってない固定観念の塊になっちゃってるんですね~
だから、マルケンさん自身「まだ見ぬ書き手(ヘイヨーさんが言うところの「究極の作家」)」になれなかった人なんです。

若い時に偏見をなくして、視野を広くしてれば、もっともっと傑作も書けたかもしれない人だったのに…
つくづく残念です。


…というわけで、本の内容も筆者の性格も難ありなんですけど、同時に素晴らしいコトもいっぱい書いてある本なので、読み手を選びます。

食材に例えるなら「フグ」みたいなものなんですよ。フグって美味しいでしょ?でも、毒がある。それも猛毒が!

なので、一流の調理人みたいに「あ、ここは毒だから食べちゃいけないよ」「こっちは安全で美味しい部分だから残しておこうね」っていう芸当ができる読者にはオススメします。

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