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それって、まるで男を品定めしてるみたいじゃない?

実は、前回のお話には続きがあります。

新宿の南口で待ち合わせ、ボストンバッグを手にしたあの人の姿を見た青年は「今夜は帰った方がいいよ。お父さんもお母さんも心配するから」と言いました。

だって、そんなコトがやりたかったわけではないのですから。もしも、ここで彼女を家に連れ帰れば、確実に一線を越えてしまうことになるでしょう。そうしたら、この「世界を変える戦い」も純粋に世界を変える行為から外れてしまいます。

まるで、遠い昔に日本で行われていた「連合赤軍」のようになってしまうかもしれません。あるいは「オウム真理教」を始めとする怪しい新興宗教の仲間入りです。宗教団体の教祖が、信仰や修行にかこつけて女性を食い物にする行為に他なりません。

ある意味で、それはあの人自身が望んでいた未来でもありました。1ヶ月ほど前に家庭教師のボランティアの前にふたりで待ち合わせて会話した「宗教団体の教祖と信者」の関係。

それでも、「この形は違う!」と青年は思ったのです。あの人の両親を悲しませるような形で恋愛を成就させたとして、それは間違ったやり方であり、長続きはしないだろうと直感的に思ってしまったのです。

なので、あの人には家に帰るようにとうながしました。彼女自身も、それには納得したようです。


それはそれとして、「一緒にお茶でも飲もう」とふたりは歩き始めます。

最初は、例の喫茶店「ベローチェ」にいくつもりでした。そのつもりで新宿駅を南側へと歩いて行きました。でも、ベローチェの前を通り過ぎると、そのまま代々木方面へと歩いて行きます。

あの人は、「アレ?おかしいな?」という顔をしました。代々木を通り過ぎ、そのまま原宿方面へと歩を進めます。そうして、ついに代々木公園へとたどりつきました。

夜の公園は薄暗く、異様な雰囲気が漂っています。青年がふとあの人の方を見ると、凄く警戒した表情。明らかに不信感がつのっています。

「あ、しまった!こりゃ、間違えた!」と青年は後悔しました。でも、仕方がないので、代々木公園をひと回りして、大事な話をするコトに決めました。「自分と浜田君のあの人の3人の関係について」です。

現在の状況に飽き飽きしてきた青年は「君の行為は、まるで男を品定めしてるみたいじゃない?」と言ってしまいました。

確かにそれは事実でした。でも、世の中には言っていいコトと悪いコトがあります。しかも、モノには言い方というのがあるのです。

「品定め…」と、彼女は繰り返しました。

その結果、話の流れから「あなたとはおつき合いできません!」みたいなコトになってしまいました。

青年は一番タイミングが悪いところで、一番言ってはいけないセリフを使ってしまったのです!

青年の心の中には彼女に対する熱い思いはあるのですが、なんだかおかしな言動を取ってしまうのです。しかも、状況が状況だけに、頭も混乱し「早くこの状態を終わらせてしまいたい!」という心理も働きます。なので、彼女に決断を迫るようにうながしてしまいました。

青年にはそういうデリカシーのない部分がありました。

「ディケンズの分解メス」の能力もあってか、状況を分析したり解析したりするのは得意なんです。でも、それをそのまんま口にしちゃうんです。

それって、精神科医や学者がやるようなコトであって、日常の人間関係でやるようなコトではないのです。特に、恋愛においては不利に働く場面が多くなります。

女性というのは、分析も解析もして欲しくないんです。ただ、素直に話を聞いてうなづいてくれればそれでいい。共感して欲しいだけなんです。「ああ、それは大変だね」とか「大丈夫?」とか「かわいそうに…」とか、やさしい声をかけて欲しいだけ。そういう生き物なんです!

でも、この時の青年はそれが理解できていませんでした。そりゃ、フラれて当然なんです!(ただし、青年のこの能力は、うまくハマると一生抜け出せないくらい相手を魅了してしまう時もあります)

さっきまで青年の家に来ようとしていた女性が、その人自身の告白を断る行為をするだなんて、矛盾するようですが現実にそういう心理や事態ってあるものなんです。

告白の仕方が悪かったというのもあるでしょう。ここは遠回しに婉曲表現を使って「平安時代の和歌」みたいなのを贈るべきだったんです。何よりもタイミングがよくありませんでした。これが別の機会なら、結果もまた変わっていたことでしょう。

「おそらく」としか言いようがないのですが、そのくらいこの頃は彼女の心が揺れてたんです。

「人の心」って思ってるよりもずっとずっと複雑なんです。ふたりの人を同時に好きになったり。複数の人と体の関係を持ってみたり。深層心理と表層心理が全く逆だったり。口で言ってるコトと行動がチグハグだったり。そんなものなんです。

         *

ところが…

そのあと、原宿のドトールに行きました。

明るいところに出て安心したのか、あの人の表情も若干やわらいだ感じがします。でも、まだ緊張は解けず、疑っているような部分もあります。この頃は、そのくらい微細な表情から心理を読むことができました。

青年は不信感を持ったままの彼女にフォローを入れるために「ほら、この前、太ってきたことを気にしてたでしょ?だから、ダイエットのためにと思って、こんなとこまで歩いてきたんだよ」と言いました。

すると、途端にあの人の表情が崩れ、じんわりと涙が流れ始めます。

「ああ!疑ってごめんなさい!あなたは、ほんとにやさしい人だったんですね!」という気持ちが以心伝心で伝わってきました。

青年は涙目になっている女性を目に前にして、どうしていいのかわからず、「もう帰ろう」と言いました。

そうして、原宿駅から山手線に乗り、新宿駅で降りると、それぞれの家に帰るためふたりは別れました。


わずか数時間の出来事でしたが、この間に様々なコトが起こり、ある種の関係性が確立してしまったのです。

結果、あの人は浜田君とつき合うことになり、青年とも自由にふたりで会うコトを許されました。

あの人は「世界人類みんなと仲良くしたい」という望みを抱いているような人。青年その思いを汲み取り、提案を出しました。その提案は「誰のコトも傷つけたくないし、誰とも縁を切りたくない」という要望を満たすものでした。

そう!この瞬間、あの人にとって非常に便利な関係を築いてしまったのです。

読者のみなさんは、そろそろわかってきたと思いますけど、全ては青年が原因となり、青年が導いた未来。

意識してか無意識かは別として、彼にはそういう能力がありました。言い換えれば、それは「運命」であり「呪い」でもあったのです。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。