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本物の地獄は、ここだった

息子が学校に行かないことを知ると、母親は烈火のごとく怒り出しました。当然の結果です。

少年自身、このくらいのことは予測していました。覚悟も決めていました。そもそも夏休みの宿題も全くやっていないし、今から学校に行ったところで授業についていけるはずもないのです。

なので、どのような罵詈雑言が飛んで来ようとも、それに耐え続けました。「あのまま学校に通い続けるよりはマシだ」と思ったのです。「きっと、子供がここまで窮地に陥っていることを知れば、いずれ両親もどこかであきらめるだろう」そんな風にも考えました。

でも、それは間違えでした。母親の攻撃は少年の想像を遥かに超えていたのです。毎日毎日、執拗な攻撃が飛んできます。


「たかが学校を辞めるくらいで大げさな。死ぬわけじゃあるまいし…」
少年は、そんな風に軽く考えていました。

ところが、そうではなかったのです。

なんと!世の中には、学校を辞めたり仕事を辞めたりするだけで、死ぬのと同じくらい大きなショックを受ける人たちが存在しているのです。中には、ほんとうに命を絶ってしまう人までいます。少年は、そのコトを知らなかったのです。

そして、あの母親や父親も、そういう類の人々でした。

「あのまま、あの学校にいる方が死に近づく。あと3年間もあの学校で無理やり暮らし続けたら、きっとストレスで病気になって死んでしまうだろう」

少年のこの発想は、確かに正解でした。より広い視点で見た場合には。

けれども、多くの人たちはそのような視点で世界を見てはいません。「学校を辞めるのは落伍者のやること。社会的に抹殺されてしまう。それは死と同じ」そんな風なモノの考え方をするのです。


少年は悟りました。

「学校などまだマシだった。あそこは本物の地獄じゃない。受験戦争など戦争の内に入らない。本物の地獄であり真の戦場は、この小さな小さな『家庭』だったのだ」と。

それでも、少年は学校に戻る気はありません。毎日、朝方まで起きてゲームをプレイし、お昼くらいに布団を抜け出すと、お昼のドラマやワイドショーや教育テレビの番組を見て暮らしました。

そして、またゲームに没頭し、気がつくと太陽が昇りかけ、人々が出勤したり通学したりし始めるので仕方なく布団にもぐり込むという日々を繰り返しました。

なぜなら、「それが作家として必要な経験だ」と信じて疑わなかったからです!

事実、この時の経験は後々役に立ってくるのですが、それはまだ先のお話。今はストーリーを進めていきましょう。


父親も母親も、そんな息子の姿を見てさらに激怒します。父親はあまり面と向かって文句は言いませんでしたが、母親の方は毎日毎日、学校に行くように命令し続けるのです。

世の中には「絶対に使ってはいけない言葉」というのがあります。そういった言葉の数々は、テレビやラジオで放送したり、書籍に載せることを禁じられていたりするものです。

あるいは、「あからさまに禁じられた言葉」ではないものの、特定の人間相手に大ダメージを与えることのできる言葉というのもあります。たとえば「お前は親の庇護のもとにあるのだから、命令に従いなさい」とか「そんな風に育てた覚えはない」とか「人生の落後者は、うちの子ではない」といったものです。

でも、母親は容赦がありませんでした。「相手がどのような気持ちになるか」など考えず、平気で禁じられた言葉の数々を放ってきます。

この母親がもう少し優秀であれば…

「相手の気持ちを理解できる」とか「その言葉によって、未来がどう変わるのか?を予測できる能力の持ち主」であったならば、事体は変わっていたかもしれません。

でも、そうではありませんでした。彼女の愛はあまりにも強く、その考え方はあまりにも狭く、そして人の気持ちを理解したり未来を予測したりする能力も持ち合わせてはいませんでした。

結果、「史上最悪の化け物」を生み出すこととなります。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。