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マリオネット&ドール

中学生になった少年は、最初の定期試験を終えて、部活に所属することを許されました。この学校の方針で「最初の定期試験を終えるまで1年生は部活動に参加することはできない」というものがあったのです。

少年は迷わず「将棋部」に所属しました。

小学校に上がる前から駒の動かし方くらいは知っており、学校では負け知らずでした。父親も将棋が好きで、よく一緒に将棋を教えてくれていたからです。


それに…

小学校の時のトラウマがありました。

小学校で部活を決める時は「イラスト部」に入りたかったのですが、勇気がなくて手をあげることができませんでした。サッカーとか野球は人気のクラブだったので、すぐに埋まってしまいましたが、イラスト部は不人気だったので最後の最後まで余っていました。

それでも手をあげることができませんでした。結局、部活を決められないのは最後の2人だけになり、イラスト部にはもう1人の子が入ってしまいました。それで、少年は音楽部で残りの小学校生活を送ることになりました。

音楽部は女の子ばかりで、男の子は少数でしたが、それでも全然おもしろくありませんでした(どこかの誰かが聞いたらうらやましがるような環境だったでしょうね)


そんなこともあり、少年は「今度こそ自分の好きな部活に入るぞ!」と決めていましたので、迷わず将棋部に入りました。

将棋に関しては、少年の一生を通してちょっとずついろいろな影響を与えられることになります。そのお話も、また時期が来たらお話することにいたしましょう。


とりあえず、今は母親です。

1年が経過し、少年が中学2年生になっても、母親の態度は変わりませんでした。それどころか、少年に対する対応は日に日に酷くなっていくのです。

少年の母親は常に「上を目指せ!上を目指せ!」と言うのです。それはある意味で立派なことでした。言い換えれば「向上心がある」ということですからね。たとえば、その力を仕事に向ければ、職場で大活躍することもできるでしょう。ただし、それを自分の人生ではなく人に望むのです。自分でできもしないのに。

もう1つ、母親は「今、苦労しておけば、将来必ず楽になるから」と口ぐせのように唱え続けていました。その言葉はやがて念となり、あるいは呪いとなり、少年の一生を左右していくことになります。みなさん、このコトをよ~く覚えておいてください。

言葉というのは本当に恐ろしいもので、何百回何千回と唱え続けることで、現実の世界に影響を与えてしまうのです。

いずれにしても、少年の母親は向上心の塊でした。どんな状況にも満足せず、常に「上を目指せ!」と言い続けます。テストで何点取ってきても満足しないのもそれが原因でした。

その行為を「親の期待」と表現することもできたでしょう。でも、言い換えればそれは「母親のエゴ」でした。


ここに来てようやく少年は悟りました。

「この人は、人間の子供が欲しかったわけじゃない。自分の意のままになる人形が欲しかっただけなのだ」と。

母親が欲しかったのは人形。

自らの手足のごとく自由自在になる「マリオネット(操り人形)」

あるいは、自らの命令に決して逆らわず、静かにその場に座り続ける「ドール(据え置き人形)」

どちらかが欲しかっただけ。少年は、若干14歳にしてそれを悟ったのです。


母親の能力
「近親者は我が人形(マリオネット&ドール)」

身近な者を意のままに操る操作系能力。その関係が近ければ近い程、能力の精度が上がり、相手に攻撃が決まる確率が高まる。たとえば、夫・息子・娘など。

逆を言えば、対象者との距離が離れたり、人数が増えると発動する可能性が極端に低くなる。


少年は母親の能力を理解しつつ、あえて「人形に成り切る」こともできました。そうすれば、生活は保障され、家族全員が笑顔で暮らせます。自分ひとりが犠牲になることで!

「兵士は何も考えない」とはよく言ったもの。

こういうことって、みなさんの身近でも起こっていませんか?

たとえば、「上司の命令に決して逆らわない会社員」とか「夫の後ろを3歩下がってついていく貞淑な妻」あるいは、「国の決めた方針に従順に従い続ける国民」といったところでしょうか?

「何も考えず、何も感じず。誰かの指示や命令に従って人形のごとく生き続ける。ただ、ひたすらに昨日と同じ日々を繰り返し続ける人生」

なぜなら、それが一番安全で一番楽な生き方だからです!


少年にもそういった生き方を選ぶ権利がありました。選択肢がありました。でも、彼はその選択肢を蹴りました。

もしも、ここで兵士になる道を選んでいたならば、特に大きな問題が起こることなく少年はスクスクと成長し続けたことでしょう。この物語も、ここで終わりを告げていたかも?

代わりに、将来、禍根を残したことでしょう。人の心を持たない鉄の兵士。たとえば、会社で部下に容赦なく過度な要求を突きつけるモラハラやパワハラを平気で行う上司になっていたかも。

あるいは、妻の作る食事にいちいち文句をつけるような夫になっていたかも。学歴は高く、職場での仕事もできる。けれども、スパゲティーの上にかかっているレトルトのソースに激怒し、「なんだ、これは!作り直せ!」と怒鳴り散らすような大人になっていたかもしれません。

一番可能性が高かったのは、子供に過度な期待をかける父親でしょうね。もしかしたら、同じことを繰り返していたかも。少年が母親から受けた仕打ちを、そのまま我が子に繰り返すような愚かな親に…

歴史は繰り返し、虐待は連鎖する。その連鎖を断ち切ったというだけでも、少年のした選択に価値はあったのかもしれません。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。