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3つの空想

中学2年生。14歳の時点で、少年は母親の能力を見破っていました。不完全ながら相手の能力の特性と弱点を把握していたのです。

それでも、生まれた時からかけ続けられた呪いを解くまでにはいたりません。完全に決まっていた操作系能力を解除するためには「除念」とでもいうべき能力が必要でした。それをたったひとりで身につけなければならないのです。


この頃、同時にいくつもの出来事が起こりました。

1つ目、少年は「自分の将来」について考え始めます。

2つ目、「理想の女性」を夢見始めます。

3つ目、「自分の望みをかなえつつ、母親の願いもかなえること」

順番に語っていきましょう。


1つ目の「自分の将来について」

周りの男の子たちは、皆、将来の夢のために戦っています。もしかしたら、それは「親に決められた目標」だったかもしれません。それでも、おぼろげながら自分の将来を想定し、大学進学に向けて勉強をがんばっているのです。

「みんなには夢があり、目標がある。でも、自分にはそれがない。将来、何になりたいのか決めなければ…」

少年は漠然とそう思いました。

候補の1つは「旅人」でした。中学入試の面接で答えた「探検家」に近いものがあります。「自由になりたい!」という少年の想いにも合致します。悪くない選択と言えたでしょう(ただし、実現性が高いかどうかは別として…)

この学校では、99%が大学進学するといっても過言ではありません。まして、中学2年生の時点で大学進学を半ばあきらめている生徒などいません。少年は例外中の例外だったのです。


2つめの「理想の女性」

11歳の頃から過酷な環境に落とされた少年は、心の中に「理想の女性」を作り出してしまったのでした。

「いつか、その人が現れて、この人生を救ってくれるのだ!」と、そんな風に空想するようになりました。年頃の女の子が、白馬の王子様を夢見るように、この少年もまた「ありもしない偶像」に希望を抱き始めたのです。

中学生の妄想と笑ってください。誰もがそう思ったでしょう。ところが、これが後にとんでもない事態を巻き起こすことになります。ある意味で、空想の女性のおかげで世界は救われたと言えますし、逆に滅びかけたとも言えるのです。

ただし、この時点では全く関係がありません。このコトが人生の中心に据えられるには、さらに長い時を待たねばなりませんでした。


3つ目の「自分の望みをかなえつつ、母親の願いもかなえること」

矛盾しているように思えるかもしれませんが、少年は「自分が母親に操作されていること」を自覚しながら、それでもなお「母親の願いもかなえてあげよう!」と思い続けていたのです。

それは、少年が生来持っていたやさしさから来るものだったのかもしれませんし、呪いが解けていない証拠でもありました。


少年は自分の人生と環境、そして母親の願いと性格を分析し始めます。

「このまま勉強を続けたとして、あの母親のこと。テストで何点取ろうが、全国の試験で何位になろうが満足しないのは目に見えている。『もっと強く!もっと先がある!』と欲張り続けるに決まっている。まるで、地獄の餓鬼がどんなに食べても満腹にならないのと同じように…」

少年の分析は当たっていました。ただし、こっから先が普通の子と違ってきます。普通の子なら、どう考えるか?

「…とはいえ、のらりくらりとかわしながら、そこそこの成績で乗り切ろう」とか「それでも自分の人生だ!希望の大学に合格するまで懸命に勉強しよう!」などと考えるでしょう。

そうではなく、この期に及んでも少年はトップを取ることをあきらめていませんでした。「その方法は何なのか?」を考え続けました。

「全てのテストで100点を取るのは不可能。そんな子はこの世に存在しない。仮に存在したとして、それは本物の天才。自分はそうではない」

「だとすれば、全科目100点ではないのだけど、全国で1位かそれに近い順位に位置することを目指す。これが現実的。ただし、それには類まれなる努力が必要になる。おそらく、それは精神的に耐えられない…」

「仮に日本において同学年の子たちの中で1位になったところで、今度は『世界で1位を目指せ』とか『他の学年も含めて、日本一になれ』とか言われるに決まっている」

「つまり、この方法では無理がある。どうにかして、受験生全員…ひいては同学年の生徒たち全員を出し抜いてごぼう抜きにする方法を編み出さなければ。可能ならば、日本中の国民全員、全世界の人類全てを超えてトップに立つ方法を編み出すのが望ましいが…」

そんな風に思考を展開していきました。

そして、少年の脳みそという名のコンピューターは、1つの解答を導き出します。

noteの世界で輝いている才能ある人たちや一生懸命努力している人たちに再分配します。