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ショートショート 棒アイドル(3アイドルめ)

「あんた、図体がでっかいばっかで、ぼーっとしてんだな」
昼休みに本田さんが言った。
「ちょっと、本田さん……!」
側にいた松本さんが慌てた。でも、その通りだ。さっきもラインを止めてしまった。微笑んで返す。
「いいんですよ。昔から、よく言われるんで」

「おい。『デク』!」
作業中、突然本田さんが大声をあげた。
「『デク』! お前だよ!」
作業着を引っ張られる。
「私ですか?」
「そうだよ。『デクの棒』だから『デク』。遅れてるぞ!」
本当に、口の悪い人だ。

「すいません」
家から工場に電話をかける。
「熱、出ちゃって」
「いいんだよ」
係長の松本さんが答える。
「何でも君、一生懸命やるだろ。疲れがでたんだよ」
電話ごしに頭を下げた。

「来たか。デクちゃん」
次の日、工場に着くなり本田さんが言った。
「栄養つけねえとだめだぞ」
ビニール袋を渡された。カボチャだった。
「照れちゃって」
松本さんが笑う。
「心配して大変だったんだから。君、本田さんのアイドルだからさ」

ショートショート No.490

たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加しています。
今週のお題は「棒」「アイドル」です。