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ショートショート 歩道橋の上で【ショートショート100|No.7「歩道橋」|571文字】

夜にコンビニに買い物に出る。歩道橋を渡る。
足元に大きな車の川が流れる。二つの色に分かれた川だ。
来る車のライトは白く、去る車のライトは赤い。
2色の川はぶつかったりしない。線が、引かれているからだ。

不思議なものだ。こんなにもたくさんの車が走っているのに。けして、ぶつからないだなんて。
ある車には、お父さんがのっているだろう。急いで、うちに帰るところ。
ある車には、疲れた女の人。職場の呪詛を吐き散らかしている。
もしかしたら、病気の家族を乗せたひともいるかも。
それにもしかしたら、猫が一人で運転しているかも。

たった一本、真ん中に線が引かれているだけで、ぶつからない。
ぶつからないと、そう思っている。
遠くでトラックのクラクションがなった。白いライトを光らせながら、大きな車体が真ん中の線を飛び出した。
赤いライトの車が次々ぶつかる。反対車線にも飛び火する。
煙があがって、爆発が起きて、あたり一面、ガソリンの匂い。

スマホが光った。「大丈夫?」と家からのLINE。
「大丈夫」と返す。「今、歩道橋」「そう。運が、よかった」

うん。運が、よかった。
運がよかっただけだ。たまたま歩道橋にいた。僕は、たまたま。

また一台、車がぶつかった。「コンビニ行かないと」我にかえる。下で煙があがっている。黒い煙に咳き込む。歩道橋を渡る。今夜は運がよかった。きっと、明日も、多分。

ショートショート No.571

NNさんの企画「100のシリーズ」に参加しています。
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※ちょっとやりたいことに準備がいるので、No.5「探偵」を飛ばしています。